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ねりま映像人インタビュー

第4回 松田悟志さん 中編

第4回 松田悟志さん 中編

2021.08.04

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※現在の社会状況を考慮しビデオ会議システムを使用して収録いたしました。音声に聴き取りにくい箇所がございますがご了承ください
ねりま映像人インタビューでは、練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化のかかわりを紹介していきます。
第4回のゲストも、引き続き俳優の松田悟志さんです。
今回も、1年かけてじっくり挑んだ『仮面ライダー龍騎』(1)の頃のお話を中心に伺います。

—— 監督が入れ替わりながらの1年間の撮影

松田:最初の頃は、「せっかく意思の疎通が上手く行くようになったのに、またやりなおさなければならないのか?」って、ネガティブな印象が少しありました。それが1年間全50話の中で関係性が醸成されていって、後半は「この監督の時は、こういう演技をさせてもらえるからこうしよう」と思うようになりました。
例えば長石監督(2)は、蓮のアップが多いんです。秋山蓮は口数が少なく、笑顔もなく、伏し目がちで主張が少ない分、アップで見せることによって、情感を出そうとしてくださっていたんです。それは田﨑監督(3)の演出とは全然違ったので、長石監督の時は「ここは絶対アップが来るから、表現しすぎない」ようにしました。
石田監督(4)の場合は完全に割り(5)が出来ていてとにかく撮るのが早いから、完全に役を作り上げて行かないと、現場で選択の余地は無い場合が多かったです。
そんなふうに監督一人ひとりに特徴があって、その中で俳優として最大限の芝居を発揮することが求められてくるんだなと。監督が何人もいることで、本当に鍛えられましたね。

—— 『龍騎』の1年間が、松田さんに大きく与えた影響

松田:いくつもあるのですが、一番大きいのは「自分の中の炎を絶やさない」ということですね。
このインタビュー(第1回)で田﨑さんがおっしゃっていた、「脚本の段階ではキロバイトだったものが、役者が演じてキャメラが回って演出が入った瞬間ギガバイトになるんだ」というのは、すごくロジカルでわかりやすい。確かにそういう考え方があって、僕らの体の中で起こっていることもそうなんです。
「演技体力」という言葉を俳優同士で使ったりすることがあります。舞台でも映像でも、役を演じるにあたって、毎日必死で身体づくりをして心をつくっていますが、3ヶ月くらい経った頃にガス欠のような瞬間が来るんです。1年間の作品ではそれが何度も来る。自分の人生にもいろんなことが起こってくるわけで、それを経験しながらも役を演じ続けるとなると、前回の松村キャメラマン(6)の話でもありましたが、心の中の炎に薪をくべ続けなければならないんです。「その役を演じ続ける、演じ上げるという心の炎を絶やさない」とことが、僕が1年間で学んだ最も大きなことだと思いますね。
僕が俳優になって22年。『龍騎』は3年目でした。それから19年という月日が流れていますが、その間もずっと火を絶やさないということは、あの1年で学んだことをそのまま継続しているって感じです。

—— 『龍騎』の1年間で、最も印象に残った出来事

松田:当時ナイトを演じてくださっていたスーツアクターの伊藤さん(7)との打合せを断っていたことが問題になったことがありました。 伊藤さんとはプライベートの話などは良くしていたのですが、こと役作りにに関しては一言も話しませんでした。それは僕の中で確固たる考えがあったからなんです。
伊藤さんはベテランのスーツアクターなのに、僕が「こうしてほしい」と言えば合せてくれたでしょう。でも僕はそれは絶対に違うと思っていたので、伊藤さんには「生意気を言って申し訳ないのですが、秋山蓮・仮面ライダーナイトという役に真剣に向き合いたいからこそ、この役に関して僕と伊藤さんで歩み寄ることは絶対にしたくない。同じ台本を手にして、お互いのプロとしての役作りで挑んだら、そんなに大きく違う訳がない。僕一人の中からでは生まれない役作りの幅を持たせるには、その方がいいはずです」と最初に言いました。伊藤さんは「やりにくかったら合せるから」と会うたびにおっしゃってくれましたが、「やりにくいとか絶対にないので、同じ台本で一生懸命やらせていただきたいです」と、僕はその哲学みたいなものを信じて1年間走り続けました。
その後、エイベックスのプロデユーサーの方から「いろんな仮面ライダーが出て来る中で、秋山蓮と仮面ライダーナイトだけは同じ人が中に入ってると錯覚するくらいリンクしている。どうやって打ち合せているんですか?」と言われたんです。その時に「僕が1年間やってきたことは間違ってなかった」と思いました。「良かった」と、個人的に肩の荷が下りた瞬間でした。

プロフィール

松田悟志(まつだ さとし)
俳優。1999年、テレビドラマ『天然少女萬NEXT-横浜百夜篇』にて俳優デビュー。
2002年に平成仮面ライダーシリーズ第3作『仮面ライダー龍騎』で秋山蓮 / 仮面ライダーナイト役を演じ、初のレギュラー出演を果たす。
2004年、『ヴァンパイアホスト』でテレビドラマ初主演。その後、テレビドラマ『ケータイ捜査官7』(08)、『ごくせん』第3シリーズ(08)、大河ドラマ『龍馬伝』(10)、連続テレビ小説『てっぱん』(10)や映画『メサイア』(11)、『天空の蜂』(15)、舞台『未来記の番人』(21)など数多くの作品に出演。また、自身の公式Youtubeチャンネルではアート制作の様子を投稿するなど、多岐にわたる活躍をみせる。

登場する作品名・人物名等の解説

(1)『仮面ライダー龍騎』
東映制作の特撮アクションドラマ「平成仮面ライダーシリーズ」第3作。2002年2月~2003年1月放送。全50話。《13人の仮面ライダー同士が戦う》というシチュエーションが話題になった。 松田さんは、仮面ライダーナイト=秋山 蓮(あきやま れん)を演じた。
(2)長石 多可男(ながいし たかお)さん
映画監督、テレビドラマ監督。「スーパー戦隊シリーズ」や「平成仮面ライダーシリーズ」などの特撮アクションやVシネマ作品で活躍した。2013年3月31日に急逝。
(3)田﨑 竜太(たさき りゅうた)さん
映画監督、テレビドラマ監督。『仮面ライダー龍騎』ではパイロット監督を担当、劇場版、TVスペシャルも手がけた。
ねりま映像人インタビュー第1回第2回もお聴きください。
(4)石田 秀範(いしだ ひでのり)さん
映画監督、テレビドラマ監督。東映の「メタルヒーローシリーズ」や「平成仮面ライダーシリーズ」などで活躍。
(5)割り
カット割りのこと。映像作品では、脚本の流れに区切りをつけて(カット)、その小分けしたブロックごとにアングルや構図などを決めて撮影を行う。その指示を監督が台本に直接書きこんだものを、現場で情報共有を行う。
(6)松村 文雄(まつむら ふみお)さん
キャメラマン。東映制作の特撮ドラマ「スーパー戦隊シリーズ」や「平成仮面ライダーシリーズ」で長年にわたり撮影を担当。
(7)伊藤 慎(いとう まこと)さん
俳優、スタントマン、スーツアクター。『仮面ライダー龍騎』では、仮面ライダーナイトのほか、ゼブラスカル、シールドボーダーなども担当。
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