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ねりま映像人インタビュー

第24回 高野水登さん 前編 

第24回 高野水登さん 前編 

2023.08.25

こちらのコンテンツは、是非音声版でお楽しみください

※現在の社会状況を考慮しビデオ会議システムを使用して収録いたしました。通信環境の状況により、音声が一部お聞き苦しい箇所がございます。ご了承ください
練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化の関わりを紹介する「ねりま映像人インタビュー」のダイジェストテキストです。
今回と次回のゲストは、脚本家の高野水登さん。
高野さんは、高校から劇団を主宰して演劇に関わり、その後、練馬区江古田にある日本大学芸術学部演劇学科の劇作家コースに進学。大学卒業後、数々のドラマ作品・映画作品の脚本を手掛け、現在放送中の「スーパー戦隊」シリーズ第47作品目となる『王様戦隊キングオージャー』の脚本を担当されています。
今回は、日大芸術学部時代のお話を中心にお伺いします。
高野さんの熱いトークを、是非音声版でお楽しみください。

—— 日藝【1】の江古田、そして東映東京撮影所【2】の大泉と、練馬区と関わりが深いと思いますが、思い出の場所や好きなところなどありますか?

高野:大学が江古田にありましたし、演劇の稽古も基本的に西武線沿線周辺の石神井公園や練馬高野台などに行きました。
思い出深いお店は、江古田の「ふくふく食堂」というご飯屋さんです。大学生って腹が減るんですよ。どれだけ低価格で高カロリーが得られるかっていうことだけを考えている。ふくふく食堂は、ランチが(当時)650円とかで、ご飯の量も選べました。学生だけが選べる学盛というのがあって、普通、大盛、特盛のその上なんです。それで、そのお店に鬼のように通っていました(笑)。
店長がいるとよくしゃべっていたのですが、大学を卒業するときに万年筆をくれたんです。嬉しかったですね。

—— 高校時代に劇団を作られましたが、かなりハードルが高いのではないでしょうか。どうして劇団を作ろうと思ったのですか?

高野:演劇をやりたい人がいっぱいいる特殊な高校だったんです。神奈川総合高校【3】の普通科に通っていたのですが、単位制で自分で授業が選べるんです。その中に演劇の授業もあり、単位を取ることができたんです。演劇部も割と強かったりしたし、自分以外にも劇団として立ち上げて学校で活動してる人もいました。そういうところもあって、実はハードルは低かったんです。

—— 演劇部とは別に、劇団を作ったということですね。何人ぐらいで旗揚げされたのですか?

高野:それが、劇団と名乗りつつ、劇団員は1人も入れたことがなくて。プロデュース公演に近いです。

—— プロデュース公演の都度、作品に適した役者さんを集めて芝居をやる感じですか?

高野:そうです。最終的にたどり着いたのは、「人から薦められた人と一緒にやるのが一番いい」。不思議とそういうふうになりました。でも、本当に仲良くなった人とは、何度も一緒にやりましたね。

—— 同じ事務所の高橋悠也さん【4】『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』【5】を見たときに、キャラがすごく立っていて、舞台出身の方が、役者を立てる書き方に近いなと感じました。舞台経験は書き方に特徴が出るように思います。

高野:本当にその通りです。高校のときから、舞台は友達と一緒にやっていましたが、(出演するからには)みんなに楽しくやってほしいし、出て良かったと思ってほしい。そうなると、出した人全員に見せ場が欲しい。それが10人くらいになると10人分全部分けなきゃいけない。なので、役者を立てる書き方を常にやっていました。これは演劇の経験です。
キャラクターを立てるのは、自然とやらなきゃいけないという強迫観念みたいなものがベースにあります。

—— 何故、日藝の演劇学科に進学したのですか?

高野:僕は中学生の頃から三谷幸喜さん【6】が大好きだったんです。中学校の時には「三谷さんと同じところに行きたい」と思っていて、大学は日藝に行くと決めていました。それだけで、日藝演劇学科の劇作コースに入った感じです。
今はコースの名前が違いますが(現・舞台構想コース劇作専攻)、三谷さんの頃も別の名前だったんです。でも、とにかく劇作専攻だったのは知っていたので、同じコースに行きたいと思って、演劇学科の劇作コースにしました。
三谷さんは小中学校の頃から好きで、『ラヂオの時間』【7】とか大好きだったし、父親と母親も映画が大好きでいろいろ見せてもらっていました。
中学校のときに脚本を初めて書いたのですが、どうしようかなと思って「学級裁判の話がいいんだ」みたいなことを話していたら、父親からまずこれをと見せられたのが『十二人の怒れる男』【8】という名作映画。その後に見せられたのが三谷さん脚本の『12人の優しい日本人』【9】で、とても面白かった。これをパクらせていただいて、人生で初めて書いたのが、『12人のイカれた中学生』という脚本なんです(笑)。
やはり三谷さんには影響を受けています。

—— 日藝での劇作コースの授業は、座学なのか実技なのか、演劇についてどういうふうに学びを得るのでしょうか?

高野:基本的には座学もありますが、「映画を見ろ」と言われて何かまとめるとか、「脚本書いてきてね」と言われて、短編の脚本を書くというのもありました。
実技だと「舞台総合実習」というのがあって、いろんなコースの人たちが集まって先生の指示のもと、1本作品を作ることもありました。でも僕は基本的にそのほぼ全てに馴染めず、基本1人で勝手にやっている感じでした。
僕は『キングオージャー』【10】を書く人間だから、「どエンタメ」の人間なんです。三谷幸喜さんが大好きでコメディとかを書く本当に直球のエンタメ人間(笑)。
エンタメの人間を、演劇学科っていうのは歓迎しない、あまり評価してくれないんです。

—— 学校の方向とはまた別に、自分で書いて舞台を作ってということを積み重ねて、経験を積まれたという感じですか?

高野:「自分でやる」が基本です。「現場で」というと格好良い言い方ですが、ひたすら自分でやるという感じでした。その経験は間違いなく今も生きています。
だからこそ、書いているときも「このセリフだけだとつまらないかな?」とか、「こういうシーンを書くと撮影大変かな?」みたいなことを考える癖がついているのは、間違いなく演劇の現場でいろいろな経験を積んだというのがありますね。

—— 高野さんは、どういうきっかけで映像の脚本の道に入られたのですか?

高野:演劇は物語を作品にする上で、実はめちゃくちゃコスパが良い。
僕は基本的にはアニメが好きだし、漫画が好きだし、映画が好きですが、例えば映画を作ろうとすると、自主制作で海辺に佇んで喋っているだけの映画でも100万円とか掛かったりします。
でも演劇なら、「ここは宇宙!」と言ったらステージが“宇宙”になる(笑)。だから、書くものの幅が実はすごく広くて、何でも書けるんです。
結果的に、コストパフォーマンスも考えて演劇をやっていたんです。あと、僕は皆で作るのが好きだったので。
僕の大学の後輩のお母さんの友達が、今の事務所のマネージャーの高野さんで、大学卒業のときにやった演劇公演の直前に、たまたま(映像脚本の)新人を探していらして、連絡をいただいたんです。「ちょうど公演がある」と話したら見に来ていただけて、それがきっかけで事務所に入ることになりました。
映像をやりたかった僕としては望んでいた道だったので、本当に運が良かったです。願ったり叶ったりでありがたい限りでした。

明日の勇気につながる1作高野水登さんのおススメ!

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
(2015年/オーストラリア・アメリカ/監督:ジョージ・ミラー/脚本:ジョージ・ミラー、ブレンダン・マッカーシー、ニコ・ラサウリス/出演:トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン、ニコラス・ホルト、ヒュー・キース・バーン ほか) 石油も、そして水も尽きかけ荒廃した世界。愛する家族を守れなかったトラウマを抱え、本能だけで生きながらえている元・警官マックスは、資源を独占し、恐怖と暴力で民衆を支配する独裁者イモータン・ジョーの軍団に捕われてしまう。

高野:大好きな映画です。
でも「明日の勇気につながる」なんてお題が出てくる時点で、今の日本の人たちは、疲れているどころか、ちょっと世界に絶望していると僕は思っているんです。
ビジュアルを見ると、とても信じられないかもしれませんが、今の日本だと思ってみるとすごく沁みると思うんです。絶望の中でも、それでもクサらずに生きるんだ!という力をもらえます。
本当に勇気が湧く、普遍的でピュアなメッセージが込められた素晴らしい作品です。映画としても完璧だと思いますので、ぜひ!
本テキストは音声版のダイジェストです。
是非音声版でお楽しみください。

プロフィール

高野水登(たかの みなと)
脚本家。高校から劇団を主宰して演劇に関わり、その後、練馬区江古田にある日本大学芸術学部演劇学科劇作家コース(現・舞台構想コース劇作専攻)に進学。卒業後、映画『3D彼女 リアルガール』や『賭ケグルイ』、『映像研には手を出すな!』などのドラマ作品・映画作品の脚本を手掛ける。2022年には日本テレビ系日曜ドラマ『真犯人フラグ』の全話脚本を担当。
現在放送中の「スーパー戦隊」シリーズ第47作品目となる『王様戦隊キングオージャー』の脚本を担当している。

ダイジェストテキストに登場する作品名・人物名等の解説

【1】日藝
日本大学芸術学部の通称。練馬区江古田にキャンパスがある。写真、映画、美術、音楽、文芸、演劇、放送、デザインの8学科があり、映画や放送、芸能、写真、マスコミなど、数多くの人材を輩出している。
1989年から2019年まで埼玉県所沢市に所沢キャンパスがあったが、現在は全学年が江古田キャンパスにて修学している。
【2】東映東京撮影所
東京都練馬区東大泉に所在する、東映株式会社の映画スタジオ。
【3】神奈川総合高校
1995年に開校した神奈川県の公立高等学校。正式名称は神奈川県立神奈川総合高等学校。県内で初めて単位制を導入した。普通科、舞台芸術科が設置されている。
【4】高橋悠也(たかはし ゆうや)さん
脚本家、俳優、演出家。劇団UNIBIRDの主宰で、全公演の脚本・演出を担当する。また、TVドラマや映画、アニメ作品などの脚本家として活躍。仮面ライダーシリーズに初参加した『仮面ライダーエグゼイド』(16-17)では、TVシリーズ全45話、劇場版、Vシネマ3部作をすべて担当した。
代表作に、TVドラマ『金田一少年の事件簿N』(14)『仮面ライダーギーツ』(22-23)、映画『エイトレンジャー』シリーズ(12-14)、アニメ『曇天に笑う』(14)『ルパン三世 PART IV』(15)など。
【5】『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』
2014年に期間限定上映された中編アニメーション映画。モンキー・パンチ原作のアニメ『ルパン三世』のスピンオフ『LUPIN THE IIIRD』シリーズの第1作。シリーズ第2作『血煙の石川五ェ門』(17)、第3作『峰不二子の嘘』(19)の脚本も高橋悠也氏が務めている。
原作:モンキー・パンチ/監督:小池健/脚本:高橋悠也/出演:栗田貫一、小林清志、沢城みゆき、山寺宏一、広瀬彰勇 ほか
【6】三谷幸喜(みたに こうき)さん
劇作家、脚本家、演出家、コメディアン、俳優、映画監督。大学在学中の1983年に自らが主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」を結成。代表作にTVドラマ『古畑任三郎』シリーズ(14-06)『王様のレストラン』(95)『新選組!』(04)『真田丸』(16)『鎌倉殿の13人』(22)、映画『ラヂオの時間』(97)『みんなのいえ』(01)『THE 有頂天ホテル』(06)『清須会議』(13)など。
【7】『ラヂオの時間』
1997年に公開された三谷幸喜氏の映画初監督作品。原作は1993年に上演された劇団「東京サンシャインボーイズ」の演劇。ラジオドラマの生放送が行われるラジオ局を舞台に、主演女優のワガママ発言をきっかけに巻き起こる騒動を描く。
原作:三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ/監督・脚色:三谷幸喜/出演: 唐沢寿明、鈴木京香、西村雅彦、戸田恵子、細川俊之 ほか
【8】『十二人の怒れる男』
1957年に公開された映画。少年が起こした殺人事件の審議に集められた12人の陪審員たち。有罪が決定と思われる中、ひとりの陪審員が無罪を主張。討論を重ねるうちに、次第に無罪判決への流れに変わっていく…。法廷劇の代名詞と云われるアメリカ映画史に輝く傑作。
監督:シドニー・ルメット/脚本:レジナルド・ローズ/出演:ヘンリー・フォンダ、リー・J・コッブ、エド・ベグリー、E・G・マーシャル、ジャック・ウォーデン ほか
【9】『12人の優しい日本人』
1991年に公開された映画。三谷幸喜氏作・演出で1990年に上演された劇団東京サンシャインボーイズの舞台を映画化。『十二人の怒れる男』をモチーフに、「もし日本にも陪審制があったら?」(当時は「裁判員制度」の施行前)という設定で描かれる法廷劇。
監督:中原俊/脚本:三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ/出演:塩見三省、相島一之、上田耕一、二瓶鮫一、中村まり子、豊川悦司 ほか
【10】『王様戦隊キングオージャー』
2023年3月より放送中の東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第47作品目。モチーフは昆虫。地帝国バグナラクの襲撃に立ち向かう、5つの国の「王」たちが結成した「王様戦隊キングオージャー」の活躍を描く。
高野水登氏は全話の脚本を執筆している(26話放送時点)。
原作:八手三郎/監督:上堀内佳寿也、山口恭平、加藤弘之、茶谷和行/脚本:高野水登/出演:酒井大成、渡辺碧斗、村上愛花、平川結月、佳久創 ほか
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