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ねりま映像人インタビュー

第27回 古川登志夫さん 前編 

第27回 古川登志夫さん 前編 

2024.03.04

こちらのコンテンツは、是非音声版でお楽しみください

映像制作の第一線で活躍する練馬ゆかりの映像人にお話を伺うインタビュー企画「ねりま映像人インタビュー」のダイジェストテキストです。
音声版は更に内容が充実しています。是非お聴きください。
第27回・第28回のゲストは声優の古川登志夫さん。
現在NETFLIXで配信中の『悪魔くん』や、公開中の映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を始め、練馬区大泉にスタジオがある東映アニメーション制作の作品に多数出演されています。
第27回 前編では、大反響を呼んだ<水木しげる先生生誕100周年記念作品>『悪魔くん』と、映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を中心にお話を伺いました。

—— 初主演作『マグネロボ ガ・キーン』【1】を始め、『惑星ロボ ダンガードA(エース)』【2】『Dr.スランプ アラレちゃん』【3】『ドラゴンボール』【4】など、多くの東映アニメーション【5】作品に出演されています。東映アニメーション作品についてどのような印象をお持ちですか?

古川:東映動画・東映アニメーションの作品群というのは、その物量の多さもさることながら、質の高さ、ジャンルの幅広さなど、日本のアニメ史のベースを築いたという印象があります。
私事で恐縮ですが、アニメ声優としての個人史的にも、デビューから今日まで、間断なく関わらせていただいたという印象ですね。

—— 今まさに配信中の『悪魔くん』【6】も東映アニメ制作作品。1989年に制作されたTVシリーズ『悪魔くん』【7】と同じ世界線上にある作品で、そのときに演じられたメフィスト2世と、新しい悪魔くんの相棒で2世の息子であるメフィスト3世も古川さんが演じられています。オファーを受けて、どう思われたのでしょうか?

古川:『悪魔くん』の新作が作られて、それに出演できるということ自体はシンプルに嬉しかったです。二役となるとその分、難度も高くなるなと思いましたが、オファーがあること自体はありがたいことだと思いました。

—— メフィスト3世を演じるにあたり、特に大事にしたポイントは、どんなところでしょう?

古川:悪魔くんとメフィスト3世のバディものだというコンセプトは伺っていたので、悪魔くん(埋れ木一郎)役の梶裕貴【8】さんがどんなふうに役を造形されるのか、それによってコントラストをつけようかなっていうのは思いましたね。
今回の場合、悪魔くんが会話が苦手であったりツンデレだったりするところがあるので、その対極にある部分、例えば社交性があるとか、常識的で、優しさを持った少年。そんなふうに演じようかな?と思っていました。
また、出会った当初はかなり反目している感じですが、回を重ねるごとに少しずつ距離が縮まっていきます。それを梶さんは「グラデーション」という表現をされていました。収録前に監督さんや音響監督さんと直接話をしてかなりレクチャーを受け、丁寧な演技プランで役を作られていたんです。ふたりの距離が回を追うごとに縮まっていくという過程を、ファンの皆さんに見ていただければ、というような意識はありました。

—— 10話【9】では、かつての相棒である真吾とメフィスト2世が、父親同士として、自分の子供たちに対しての思いを語り合うという、本当に温かい、しみじみとした優しさと思いやりと深い友情と、時の流れを感じさせるような場面がありました

古川「平成悪魔くん」【10】のころからのファンの皆さんにとっては嬉しい回だったのではないでしょうか。三田ゆう子【11】さんとコンビであの声が聞こえてくると、もうそれで納得しちゃうところもあって、やりやすかったですね。

—— 2世と3世の親子が共演するシーンは、結構大変だったのではないかと思いました

古川:会話がダブり込んで、オーバーラップしてしまうところもあるので、困るんですけどね。別々に録ってくださった時は助かったのですが、同時に録った時もあってちょっと大変でしたね。基本的に声質を変えようとすると、演技的にはリスクが高まるので、「これは声質を変えるのではなく、語り口で年齢差を出そうかな?」という作戦を立ててみたんです。「声質は、親子なんだから似てて当たり前だろう」というふうに思ってやってたような気がします。

—— 完成作品『悪魔くん』全12話をご覧になって、どのような印象を持たれたのでしょうか?

古川:一言でいうと『攻めているな』という感じがしました。それは「平成悪魔くん」の熱烈なファンの方を意識しなければならないという部分がありつつ、しかし大胆に設定を変更しているところ、なおかつ平成版と令和版の融合みたいなこともケアしなきゃいけないというところで、各セクションのアーティストの皆さんの並々ならぬ力量のようなものを感じました。

—— 多くの視聴者がSNSで感想を投稿されていますが、どのように感じていらっしゃいますか?

古川:それは嬉しいですね。僕は自身がオタクだからってことがありますが、作品というのは僕たちも含めて、送り手側が一生懸命作って一方的に投げかけるものではなく、観てくださるファンの皆さんがいて、それで一体となって完成するものだ、という感じもします。
ただ自分たちの思い込みだけで一方的に作っても、なかなかこれだけの反響を得られないんじゃないか?という感じがしました。

—— 古川さんは同時視聴やアフターラジオなど、宣伝施策にも積極的に参加されています。スペインにご旅行中にもマドリードの街中で同時視聴に参加されていらっしゃいました。宣伝への協力は、どのような思いからでしょうか?

古川:PRは大事ですし。まず自分たちが演じている作品を好きになり、一生懸命PRし愛することなくして、どうして他者の人たちに「これを見てください」と言えるのだ?というような気持ちがありますね。

—— そしてもう1作品、大ヒットになった『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』【12】。最初の発表段階では、ある有名キャラクターにそっくりの「謎の少年」として発表されましたが、エンドクレジットでは「ねずみ」という名前がついたキャラクターを演じられました。オファーを受けたときは、どのような思いがあったのでしょうか?

古川:はじめ、担当マネージャーから「今回、ねずみ男【13】は出ません」ってあっさり言われて、「えっ!そうなの?」ってがっかりしたんです。でも、「謎の少年役で出ます」という言葉を聞いて、「ねずみ男じゃないのは残念な気もするけれども、何らかの形で参加できるならいいか」と、そんな気分でした。ねずみという役名を知ったり、ビジュアルを見たのはずいぶん後でしたが、そのときは嬉しかったですね。「なんだ、お前だったのか!」という感じでした。

—— 実際に「ねずみ」を演じるにあたり、何か意識したことは?

古川:ビジュアルはもとより、水木とのやり取りなどから、「これはねずみ男のトーンでよかろう」というのがありました。謎の少年とは言いながら、ひねた感じの大人っぽい感じでもいいんだろうと。ねずみ男というくくりで調べると、年齢不詳の何百歳なのかもわからないというような側面もありますし、「少年で髭が生えているのか」「髪の毛3本しかないのか」みたいなビジュアルですので、年齢不詳のねずみ男というようなトーンでやっちゃいました。

—— 完成作品をご覧になって、どのような印象を持たれたのでしょう?

古川:最初の初号を見たときに、「これはすごい力が入ってるな」っていう感じがしました。「これは間違いなくヒット作になるだろう」っていう予感みたいなものがありましたね。

—— ロングラン(収録時点で2ヶ月以上)の大ヒット作となりました。この反響をどのようにご覧になっていますか?

古川:関係者の一人としては、「この上なく嬉しい」という言葉しか出てきません。あらゆるセクションの方たちのクオリティがいずれも高くて、そういった素晴らしい反響を得られるのは必然だろうなっていう感じはしました。そんな作品にとにかく出演できてよかったと思っています。若い方に受けているということは、今の時代に通用することを証明しているんだと思います。水木しげる先生【14】の作品というのは、世代や時代を超えた普遍的なテーマを持っているということでもあるのかなという気もします。

—— 古川さんは、水木しげる先生の作品のどんなところがお好きでしょうか?

古川:妖怪とか悪魔を描いてるようであって、実は人間を描いているところ。その人間論であるところ。新しいファンの人たちが入っていくそのレンジの幅が非常に広い要因は、そのあたりにあるんだろうなと思います。簡単な言葉で言うと、水木先生の優しさみたいな、人間を見る眼差しみたいなものが魅力で、そういうところが好きですね。もうかなり前から、本当にこれはお世辞ではなく、初版本を持ってるくらい、実は読んでいるんです。そのくらい好きですね。

—— 本日はありがとうございました。前編終了に向けて、一言ご挨拶いただけるとありがたいです。

古川:こんなに時間を割いて、丁寧なインタビューしてくださると思っていなかったので、本当にありがたいなと思いました。練馬地区を盛り上げるっていうような狙いもあるのでしょうけれども、これに参加して、招いていただいて本当に嬉しかったです。ありがとうございました。

—— 次回も古川登志夫さんにお話いただきます。どうぞお楽しみに。

明日の勇気につながる1作古川登志夫さんのおススメ!

『生きる』
(1952年/日本/監督:黒澤明/脚本:黒澤明、橋本忍、小國英雄/出演:志村喬、小田切みき、藤原釜足、日守新一、金子信雄 ほか)
仕事への情熱を忘れ、無気力な日々を送っていた市役所の市民課長・渡辺勘治は、ある日胃癌で余命幾ばくもないと知る。人生に絶望する渡辺だったが、ある女性との出会いをきっかけに、人間が生きる意味を考え始める…。

古川:映画好きにとって、1本だけを選ぶって非常に難しいんです。いろんな意味合いでおすすめ作品ってあるんでしょうけど、僕は黒澤明監督の『生きる』という映画を。
何気ないのだけれども、やはり自分の寿命を知ってから、他者のために動き出すというところが印象深い作品でした。
ブランコで「命短し恋せよ乙女」と、口ずさむのが良かったですよね。
黒澤作品はどれもこだわって作ってらっしゃるし、脇役の方たちがみんな名優の方ばっかりでね、またこれがいいんです。
本テキストは音声版のダイジェストです。
是非音声版でお楽しみください。

プロフィール

古川登志夫(ふるかわ としお)
声優。練馬区内の高校・大学に通う。初主演作『マグネロボ ガ・キーン』を始め、『北斗の拳』『ドラゴンボール』など東映アニメーション作品(旧・東映動画)に多数出演するほか、『うる星やつら』『機動警察パトレイバー』に主演し、幅広い役柄を演じる。
最近出演作は、現在NETFLIXで大好評配信中の『悪魔くん』、大ヒット公開中の映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』ほか。

ダイジェストテキストに登場する作品名・人物名等の解説

【1】『マグネロボ ガ・キーン』
東映動画が製作し、1976~77年に全39話が放送されたTVアニメ。イザール星人の地球侵略に立ち向かう、マグネロボ ガ・キーンの活躍を描く。古川さんは、主人公・北条猛を演じた。
演出:勝間田具治、明比正行、新田義方 ほか/脚本:山浦弘靖、安藤豊弘、藤川桂介 ほか/出演:古川登志夫、杉山佳寿子、内海賢二、柴田秀勝 ほか
【2】『惑星ロボ ダンガードA(エース)』
東映動画が製作し、1977~78年に全56話が放送されたTVアニメ。太陽系第十番惑星プロメテへの移住計画を妨害する、悪のドップラー軍団と変形メカ・ダンガードAの熾烈な戦いを描く。古川さんは、ダンガードAの副操縦士・大星秀人を演じた。
原作:松本零士/監督:勝間田具治/脚本:田村多津夫、馬嶋満 ほか/出演:神谷明、柴田秀勝、富田耕生、吉田理保子、古川登志夫 ほか
【3】『Dr.スランプ アラレちゃん』
東映動画が製作し、1981~86年に全243話とスペシャル2話が放送されたTVアニメ。原作は、鳥山明の漫画『Dr.スランプ』。ペンギン村を舞台に、発明家・則巻千兵衛が作った人型ロボット・則巻アラレと仲間たちが巻き起こすドタバタな日常を描く。古川さんはアラレの友人・空豆タロウを演じた。
原作:鳥山明/監督:チーフディレクター/脚本:辻真先、雪室俊一、金春智子 ほか/出演:小山茉美、内海賢二、中野聖子、向井真理子、杉山佳寿子、古川登志夫、野沢那智 ほか
【4】『ドラゴンボール』
東映動画が製作し、1986~1989年に全153話が放送されたTVアニメ。原作は鳥山明による同名漫画。続編として『ドラゴンボールZ』(89-96)、『ドラゴンボールGT』(96-97)、『ドラゴンボールZ』のデジタルリマスター再編集版である『ドラゴンボール改』(09-11、14-15)、原作者・鳥山明が原案を手掛けた『ドラゴンボール超』(15-18)も放送された。
古川さんは、主要キャラクターの1人・ピッコロ(マジュニア)を演じている。
原作:鳥山明/シリーズディレクター:岡崎稔、西尾大介/平野靖士、井上敏樹、照井啓司、島田満、小山高男 ほか/出演:野沢雅子、鶴ひろみ、古谷徹、宮内幸平、鈴置洋孝、田中真弓、青野武、古川登志夫 ほか
【5】東映アニメーション(旧・東映動画)
1956年に東映動画として練馬区東大泉に設立された、60年以上の歴史を持つアニメーション制作会社。1958年の日本初の長編カラーアニメ映画『白蛇伝』を皮切りに、数々の名作アニメを製作。79年には映画『銀河鉄道999』が大ヒットし、爆発的なアニメブームを引き起こした作品のひとつとなる。コンピュータによるアニメ製作、自社コンテンツの海外販売などにも早くから取り組み、日本のアニメ産業のけん引役ともいえる存在となった。98年には東映アニメーション株式会社と社名変更し、現在へと至っている。代表作には『ドラゴンボール』シリーズ、『セーラームーン』シリーズなど、誰もが知る超ヒット作が居並び、現在も『ONE PIECE』や『プリキュア』シリーズなど、世代を超える人気コンテンツを生み出し続けている。
【6】『悪魔くん』
水木しげる生誕100年記念作品として東映アニメーションが製作し、2023年より全12話が配信中のアニメ。原作は水木しげるによる同名漫画。二代目「悪魔くん」こと埋れ木一郎と、相棒・メフィスト3世が、不可思議な事件に挑む怪奇探偵バディストーリー。後述のTVシリーズ『悪魔くん』の続編にあたる。
原作:水木しげる/総監督:佐藤順一/シリーズディレクター:追崎史敏/脚本:大野木寛、金月龍之介、吉野弘幸/出演:梶裕貴、古川登志夫、三田ゆう子、ファイルーズあい、下野紘 ほか
【7】TVシリーズ『悪魔くん』
東映動画が製作し、1989~90年まで全42話が放送されたTVアニメ。原作は水木しげるによる同名漫画。1万年にひとりの救世主・悪魔くんが、「十二使徒」たちと共に悪魔軍団に立ち向かう。
原作:水木しげる/シリーズディレクター:佐藤順一/脚本:小山高男、菅良幸、岸間信明 ほか/出演:三田ゆう子、古川登志夫、深雪さなえ、永井一郎、田の中勇、西原久美子、丸山詠二 ほか
【8】梶裕貴(かじ ゆうき)さん
声優、俳優、ナレーター、歌手。代表作に『進撃の巨人』(エレン・イェーガー)、『マギ』(アリババ・サルージャ)、『七つの大罪』(メリオダス)など。2013年と2014年に、2年連続で声優アワード主演男優賞を受賞。NETFLIXアニメ『悪魔くん』では、主人公・悪魔くん(埋れ木一郎)を演じている。
【9】10話
NETFLIXアニメ『悪魔くん』第10話「祝事」のこと。初代悪魔くん・埋れ木真吾とメフィスト2世が、互いの子どもたちを思って語り合うシーンがある。
【10】「平成悪魔くん」
先述のTVシリーズ『悪魔くん』のこと。
【11】三田ゆう子(みた ゆうこ)さん
声優、舞台女優。代表作に『悪魔くん』(悪魔くん)、『ポコニャン!』(ポコニャン)、『うる星やつら』(弁天)、『ゲゲゲの鬼太郎(第3期)』(ネコ娘)など。
NETFLIXアニメ『悪魔くん』ではTVシリーズに続き、初代「悪魔くん」こと埋れ木真吾を演じている。
【12】『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
水木しげる生誕100年記念作品として東映アニメーションが製作し、2023年11月に公開されたアニメーション映画。原作は水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』。TVシリーズ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期がベースとなっている。昭和31年の哭倉村を舞台に、鬼太郎の父(ゲゲ郎)と血液銀行の調査員・水木が、村を支配する龍賀一族にまつわる謎に迫る。
原作:水木しげる/監督:古賀豪/脚本:吉野弘幸/出演:関俊彦、木内秀信、種﨑敦美、小林由美子、古川登志夫、沢城みゆき、庄司宇芽香、野沢雅子 ほか
【13】ねずみ男
『ゲゲゲの鬼太郎』のメインキャラクターのひとり。アニメ第6期では、古川登志夫さんが演じている。作者・水木しげるのお気に入りで、漫画「鬼太郎」シリーズ以外の短編作品にも登場している。
【14】水木しげる(みずき しげる)さん
漫画家、妖怪研究家。1958年に貸本漫画家としてデビュー。1965年に短編漫画『テレビくん』で講談社児童まんが賞を受賞すると、貸本時代に手掛けた作品も注目され、『悪魔くん』のTVドラマ化(66)や、『ゲゲゲの鬼太郎』のアニメ化(68)などの映像化が続く人気作家となった。フランス・アングレーム国際漫画祭最優秀作品賞や遺産賞、米アイズナー賞最優秀アジア作品賞を受賞するなど、国際的にも高く評価されている。幼少期を過ごした鳥取県境港市には、「水木しげるロード」と「水木しげる記念館」が作られている。2015年11月30日、93歳で逝去。
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