—— 初主演作『マグネロボ ガ・キーン』【1】を始め、『惑星ロボ ダンガードA(エース)』【2】、『Dr.スランプ アラレちゃん』【3】、『ドラゴンボール』【4】など、多くの東映アニメーション【5】作品に出演されています。東映アニメーション作品についてどのような印象をお持ちですか?
古川:東映動画・東映アニメーションの作品群というのは、その物量の多さもさることながら、質の高さ、ジャンルの幅広さなど、日本のアニメ史のベースを築いたという印象があります。
私事で恐縮ですが、アニメ声優としての個人史的にも、デビューから今日まで、間断なく関わらせていただいたという印象ですね。
—— 今まさに配信中の『悪魔くん』【6】も東映アニメ制作作品。1989年に制作されたTVシリーズ『悪魔くん』【7】と同じ世界線上にある作品で、そのときに演じられたメフィスト2世と、新しい悪魔くんの相棒で2世の息子であるメフィスト3世も古川さんが演じられています。オファーを受けて、どう思われたのでしょうか?
古川:『悪魔くん』の新作が作られて、それに出演できるということ自体はシンプルに嬉しかったです。二役となるとその分、難度も高くなるなと思いましたが、オファーがあること自体はありがたいことだと思いました。
—— メフィスト3世を演じるにあたり、特に大事にしたポイントは、どんなところでしょう?
古川:悪魔くんとメフィスト3世のバディものだというコンセプトは伺っていたので、悪魔くん(埋れ木一郎)役の梶裕貴【8】さんがどんなふうに役を造形されるのか、それによってコントラストをつけようかなっていうのは思いましたね。
今回の場合、悪魔くんが会話が苦手であったりツンデレだったりするところがあるので、その対極にある部分、例えば社交性があるとか、常識的で、優しさを持った少年。そんなふうに演じようかな?と思っていました。
また、出会った当初はかなり反目している感じですが、回を重ねるごとに少しずつ距離が縮まっていきます。それを梶さんは「グラデーション」という表現をされていました。収録前に監督さんや音響監督さんと直接話をしてかなりレクチャーを受け、丁寧な演技プランで役を作られていたんです。ふたりの距離が回を追うごとに縮まっていくという過程を、ファンの皆さんに見ていただければ、というような意識はありました。
—— 10話【9】では、かつての相棒である真吾とメフィスト2世が、父親同士として、自分の子供たちに対しての思いを語り合うという、本当に温かい、しみじみとした優しさと思いやりと深い友情と、時の流れを感じさせるような場面がありました
古川:「平成悪魔くん」【10】のころからのファンの皆さんにとっては嬉しい回だったのではないでしょうか。三田ゆう子【11】さんとコンビであの声が聞こえてくると、もうそれで納得しちゃうところもあって、やりやすかったですね。
—— 2世と3世の親子が共演するシーンは、結構大変だったのではないかと思いました
古川:会話がダブり込んで、オーバーラップしてしまうところもあるので、困るんですけどね。別々に録ってくださった時は助かったのですが、同時に録った時もあってちょっと大変でしたね。基本的に声質を変えようとすると、演技的にはリスクが高まるので、「これは声質を変えるのではなく、語り口で年齢差を出そうかな?」という作戦を立ててみたんです。「声質は、親子なんだから似てて当たり前だろう」というふうに思ってやってたような気がします。
—— 完成作品『悪魔くん』全12話をご覧になって、どのような印象を持たれたのでしょうか?
古川:一言でいうと『攻めているな』という感じがしました。それは「平成悪魔くん」の熱烈なファンの方を意識しなければならないという部分がありつつ、しかし大胆に設定を変更しているところ、なおかつ平成版と令和版の融合みたいなこともケアしなきゃいけないというところで、各セクションのアーティストの皆さんの並々ならぬ力量のようなものを感じました。
—— 多くの視聴者がSNSで感想を投稿されていますが、どのように感じていらっしゃいますか?
古川:それは嬉しいですね。僕は自身がオタクだからってことがありますが、作品というのは僕たちも含めて、送り手側が一生懸命作って一方的に投げかけるものではなく、観てくださるファンの皆さんがいて、それで一体となって完成するものだ、という感じもします。
ただ自分たちの思い込みだけで一方的に作っても、なかなかこれだけの反響を得られないんじゃないか?という感じがしました。
—— 古川さんは同時視聴やアフターラジオなど、宣伝施策にも積極的に参加されています。スペインにご旅行中にもマドリードの街中で同時視聴に参加されていらっしゃいました。宣伝への協力は、どのような思いからでしょうか?
古川:PRは大事ですし。まず自分たちが演じている作品を好きになり、一生懸命PRし愛することなくして、どうして他者の人たちに「これを見てください」と言えるのだ?というような気持ちがありますね。
—— そしてもう1作品、大ヒットになった『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』【12】。最初の発表段階では、ある有名キャラクターにそっくりの「謎の少年」として発表されましたが、エンドクレジットでは「ねずみ」という名前がついたキャラクターを演じられました。オファーを受けたときは、どのような思いがあったのでしょうか?
古川:はじめ、担当マネージャーから「今回、ねずみ男【13】は出ません」ってあっさり言われて、「えっ!そうなの?」ってがっかりしたんです。でも、「謎の少年役で出ます」という言葉を聞いて、「ねずみ男じゃないのは残念な気もするけれども、何らかの形で参加できるならいいか」と、そんな気分でした。ねずみという役名を知ったり、ビジュアルを見たのはずいぶん後でしたが、そのときは嬉しかったですね。「なんだ、お前だったのか!」という感じでした。
—— 実際に「ねずみ」を演じるにあたり、何か意識したことは?
古川:ビジュアルはもとより、水木とのやり取りなどから、「これはねずみ男のトーンでよかろう」というのがありました。謎の少年とは言いながら、ひねた感じの大人っぽい感じでもいいんだろうと。ねずみ男というくくりで調べると、年齢不詳の何百歳なのかもわからないというような側面もありますし、「少年で髭が生えているのか」「髪の毛3本しかないのか」みたいなビジュアルですので、年齢不詳のねずみ男というようなトーンでやっちゃいました。
—— 完成作品をご覧になって、どのような印象を持たれたのでしょう?
古川:最初の初号を見たときに、「これはすごい力が入ってるな」っていう感じがしました。「これは間違いなくヒット作になるだろう」っていう予感みたいなものがありましたね。
—— ロングラン(収録時点で2ヶ月以上)の大ヒット作となりました。この反響をどのようにご覧になっていますか?
古川:関係者の一人としては、「この上なく嬉しい」という言葉しか出てきません。あらゆるセクションの方たちのクオリティがいずれも高くて、そういった素晴らしい反響を得られるのは必然だろうなっていう感じはしました。そんな作品にとにかく出演できてよかったと思っています。若い方に受けているということは、今の時代に通用することを証明しているんだと思います。水木しげる先生【14】の作品というのは、世代や時代を超えた普遍的なテーマを持っているということでもあるのかなという気もします。
—— 古川さんは、水木しげる先生の作品のどんなところがお好きでしょうか?
古川:妖怪とか悪魔を描いてるようであって、実は人間を描いているところ。その人間論であるところ。新しいファンの人たちが入っていくそのレンジの幅が非常に広い要因は、そのあたりにあるんだろうなと思います。簡単な言葉で言うと、水木先生の優しさみたいな、人間を見る眼差しみたいなものが魅力で、そういうところが好きですね。もうかなり前から、本当にこれはお世辞ではなく、初版本を持ってるくらい、実は読んでいるんです。そのくらい好きですね。
—— 本日はありがとうございました。前編終了に向けて、一言ご挨拶いただけるとありがたいです。
古川:こんなに時間を割いて、丁寧なインタビューしてくださると思っていなかったので、本当にありがたいなと思いました。練馬地区を盛り上げるっていうような狙いもあるのでしょうけれども、これに参加して、招いていただいて本当に嬉しかったです。ありがとうございました。
—— 次回も古川登志夫さんにお話いただきます。どうぞお楽しみに。
明日の勇気につながる1作古川登志夫さんのおススメ!
『生きる』
(1952年/日本/監督:黒澤明/脚本:黒澤明、橋本忍、小國英雄/出演:志村喬、小田切みき、藤原釜足、日守新一、金子信雄 ほか)
仕事への情熱を忘れ、無気力な日々を送っていた市役所の市民課長・渡辺勘治は、ある日胃癌で余命幾ばくもないと知る。人生に絶望する渡辺だったが、ある女性との出会いをきっかけに、人間が生きる意味を考え始める…。
古川:映画好きにとって、1本だけを選ぶって非常に難しいんです。いろんな意味合いでおすすめ作品ってあるんでしょうけど、僕は黒澤明監督の『生きる』という映画を。
何気ないのだけれども、やはり自分の寿命を知ってから、他者のために動き出すというところが印象深い作品でした。
ブランコで「命短し恋せよ乙女」と、口ずさむのが良かったですよね。
黒澤作品はどれもこだわって作ってらっしゃるし、脇役の方たちがみんな名優の方ばっかりでね、またこれがいいんです。