—— 『キングオージャー』【1】に参加することになったのは、どんな経緯だったのでしょう。
高野:高橋悠也さん【2】が僕の所属している事務所の先輩で、彼がメインライターだった『仮面ライダーエグゼイド』【3】と『仮面ライダーゼロワン』【4】に呼んでいただいたのが大きいですね。
その両作品のプロデューサーだった大森敬仁プロデューサー【5】が次のスーパー戦隊シリーズを任された時に、「高野さんにお願いできませんか?」と事務所に連絡が来たんです。
大森さんは僕が『ゼロワン』の本編で書いた2本(第23、24話)を読んで、「この人に書いてもらいたい」と思ってくださったみたいで。すごく嬉しくて二つ返事で飛びつきました。
—— 「スーパー戦隊シリーズ」【6】に初参加でメインライター、どういうお気持ちで臨まれているのでしょうか
高野:自分が面白いものをやるしかないという感覚ですね。
ここがポイントで、「大人向け」と「大人も子供も楽しめる」というのは、ちょっと違うと思っているんです。
ご家庭で子どもとお父さんお母さんが一緒に見て楽しい、面白いと思えるもの。一緒におもちゃやグッズを買いに行ったり、「今度Gロッソ【7】にヒーローショーを見に行こうか」なんて楽しく話せるような作品が一番の目標で。『キングオージャー』はそういう意気込みで作りました。
—— 特撮以外のドラマシリーズなどと比べて、書くときの違いはありますか?
高野:例えば同じ30分(正味23分)ドラマでも、特撮作品はアクションの時間がしっかり取られていて、書ける台詞がものすごく短く少ないんです。その中にどれだけ物語を詰め込めるか?というのは、他の作品とはかなり違うところです。
短いからこそ、ダラダラ説明できない。しかも1人1人に割り振れるセリフ量も限られるので、たった一言のセリフでどれだけそのキャラクターを伝えられるかをすごく考える。これはかなり勉強になりましたし、今も勉強中です。
—— 今作の脚本を書かれるにあたり、ご自身のこれまでの経験が生かされているところはありますか?
高野:自分が一番生かされているなと思っているのは少年漫画ですね。
『ONE PIECE』【8】とか『HUNTER×HUNTER』【9】が大好きで、エンターテインメントの中で一番長く見ているものが漫画なんです。自分も漫画家になりたかったので「ジャンプ」【10】とかの少年漫画を分析していて、どうしたら長く続く面白い漫画が描けるのかを考えていたんです。
仮面ライダーを書かせてもらったときに、一人のスタッフさんに(作品づくりについて)聞いたら、「特撮作品は連続ものだから、少年漫画と同じなんですよ」と教えてもらって、「なるほど!」と。
その場のアドリブ感もあるし、伏線になりそうな要素をばら撒いておいて後で回収するとか、スピード感みたいなものも感じられる。
だから『キングオージャー』の作り方は、今までの特撮作品を手本にというよりは、自分が大好きなジャンプの連載漫画などをかなり参考にしています。
僕自身は、伏線を張って回収するのがすごく好きですし、パズルが好きなんですよ。
だから両方の要素をミックスしています。事前にガチッと回収することを決めて(伏線を)撒くこともあれば、ちょっとしたアイデアを入れておいて、後から使ったり。いろいろ混ざっているからこそ、僕も書くのが楽しいですし、それが醍醐味だと思います。
それで言うと、23話【11】の“歯車を集める”という話は、美術デザインの人からいただいたアイデアみたいなところがありますね。
シュゴッダム【12】は工業の国。その国を包括するデザインの一部が歯車です。城の中でぐるぐる回っている歯車だったり、玉座も後ろに歯車がついていたり。だから「城を動かす歯車が足りないことにしよう。ここは歯車の国なんだ!」と。スタッフさんが作ってくれたものもお話に還元したり、それはやはり皆が力を尽くしてあの世界観を作ってくれているからこそできることだと思います。
—— すごく展開が早い印象がありつつ、主人公たちがチームを組むのが19話【13】です。短いサイクルと大きなサイクルの構成感が、すごく気持ち良いですね。
高野:僕は死ぬほど飽きっぽい人間なんです。飽きっぽいからこそ、飽きないで最後まで見られるものが大好きで、そういうものは何度も見て「こんなに飽きっぽい俺が、何で飽きないんだろう?」とすごく勉強するんですよ。それはすごく気にしています。
ただ単に展開が速いだけというのは飽きられてしまう。展開は遅いけどキャラクターを描けていれば、そのキャラクターが好きな人は根強く見てくれる。
キャラクターは丁寧に。でも大筋の話はテンポよく。
この二つを行ったり来たりしながら、進めるというバランスはすごく気にして書いています。
だからご指摘いただけて本当に良かったなと思います。
—— 物語の主人公である王様たちが、みなそれぞれとてもかっこいいですね。
高野:「子どもがごっこ遊びをしたときに1人もあぶれない」というのは最初の最初に出した企画書に書いたテーマでもあるんです。
スーパー戦隊にはコメディリリーフだったり、ちょっと気が抜ける存在とかが必要ですが、ごっこ遊びではカッコイイ役をやりたいですよね。
なので今回は全員カッコイイ。全員別のカッコよさがあって、全員に別のファンがいて、戦隊ごっこをしようと5人集まったときにぴったり5人で分けられることを目指しました。
—— 側近たちのキャラクターもステキです。
高野:主人公の王様たちの代わりに、ちょっと気の抜けたキャラクターを側近という形で置けたのが良かったですね。
今回はみんなが集まる基地がないんです。基地がないから、それぞれの国にいるのが基本なんです。そうなると、主人公の王様たちに話し相手が必要なんですよ。そういうのもあって、側近が必然的に生まれたというのがありますね。
前回話したように僕は演劇をやっていたので、側近のキャラも立てないとなと思って、それぞれにキャラクターを作っていきました。僕は脇役が好きだから、力を入れちゃうんですよ。そうしたら現場でもゴリゴリに演じてくれたんです。
だから第9、10話は側近をメインにしたエピソードにしました。
キャストさんもすごい熱意で、9話【14】では楽しそうにいっぱいアドリブをしてくれているんです。みんな情熱を持ってやってくれているのが映像からも伝わってきて、だからこそこちらも応えたいなと思いました。
一緒に育ててもらったという気持ちですね。
結果、10話【15】はいろんな人から好きだと言ってもらえてよかったです。
—— 昆虫がモチーフですが、昆虫について勉強したり、生態を調べたりはされたのでしょうか
高野:例えば美術のスタッフさんとか衣装部さんとかアクションチームさんたちの方が、昆虫感を意識されているかもしれないですね。あの動きとか戦闘スタイルとか。
僕はやはり(キャラクターの)名前ですね。名前を付けるときに昆虫図鑑を見て、それっぽい名前を調べたり、ちょっとだけその昆虫の生態を折り込むときもあります。
例えばカグラギ・ディボウスキ【16】なんかは、「カブラハバチ」ていう黒い蜂のカブラハをもじってカグラギにしています。ディボウスキは、ベスパ・ディボフスキィというチャイロスズメバチからなんですが、生態が別の蜂の巣を乗っ取る蜂なんです。そういう裏表のある、何か二枚舌三枚舌のキャラクター性が出るかなと思いました。
リタ・カニスカ【17】は、ルリタテハという蝶がモデルです。基本的に昆虫は、冬場とか雪の場所では活動が緩慢になって生きられないんですけど、ルリタテハは蝶の姿で冬を越すんです。それが冬に耐える強さに繋がるかな?みたいなのがあって。実は5話ではそのあたりを描写しています。
あと、なかなか気づいてくれる人がいないからここで言うんですけど、ハスティー(シュゴッダムの王家の名)の由来は、ライニオグナサ・ハースティ【18】という、おそらく現在発見されている一番古い昆虫からなんです。始祖の国だからハスティーと入れたんですけど、その由来を誰も見つけてくれなくて。
あと、ギラ【19】もね、ギラファノコギリクワガタじゃないですか。“ギラファ”だから“ギラ・ハ”スティーと重なる。というのを伏線のつもりにしていたのですが、誰にも気づかれなかったので意味がなかったという(笑)
—— 折り返し点を迎えつつある『キングオージャー』ですが、今後お話いただける範囲で注目してほしいポイントを教えていただけますか?
高野:9月3日(日)から『仮面ライダーガッチャード』【20】が始まりますが、『キングオージャー』も「新しい番組が始まったぞ!」くらいの気持ちで始めます。
『キングオージャー』らしさはもちろんありつつ、これまでにチラチラと思わせぶりに出してきた伏線をしっかり回収していくので、ぜひそこも注目しつつ、ガラッと変わった『キングオージャー』をお楽しみに!
—— まだまだお話が尽きません。次回、後編延長戦(9月8日公開予定)に続きます。