映像∞文化のまち ねりま

ねりま映像人インタビュー

第25回 高野水登さん 後編

第25回 高野水登さん 後編

2023.09.01

こちらのコンテンツは、是非音声版でお楽しみください

※ビデオ会議システムを使用して収録いたしました。通信環境の状況により、音声が一部お聞き苦しい箇所がございます。ご了承ください
練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化の関わりを紹介する「ねりま映像人インタビュー」のダイジェストテキストです。
ゲストは前回に引き続き、脚本家の高野水登さん。
今回は、脚本を担当されている現在放送中の『王様戦隊キングオージャー』について伺います。
高野さんの熱いトークを、是非音声版でお楽しみください。

—— 『キングオージャー』【1】に参加することになったのは、どんな経緯だったのでしょう。

高野高橋悠也さん【2】が僕の所属している事務所の先輩で、彼がメインライターだった『仮面ライダーエグゼイド』【3】『仮面ライダーゼロワン』【4】に呼んでいただいたのが大きいですね。
その両作品のプロデューサーだった大森敬仁プロデューサー【5】が次のスーパー戦隊シリーズを任された時に、「高野さんにお願いできませんか?」と事務所に連絡が来たんです。
大森さんは僕が『ゼロワン』の本編で書いた2本(第23、24話)を読んで、「この人に書いてもらいたい」と思ってくださったみたいで。すごく嬉しくて二つ返事で飛びつきました。

—— 「スーパー戦隊シリーズ」【6】に初参加でメインライター、どういうお気持ちで臨まれているのでしょうか

高野:自分が面白いものをやるしかないという感覚ですね。
ここがポイントで、「大人向け」と「大人も子供も楽しめる」というのは、ちょっと違うと思っているんです。
ご家庭で子どもとお父さんお母さんが一緒に見て楽しい、面白いと思えるもの。一緒におもちゃやグッズを買いに行ったり、「今度Gロッソ【7】にヒーローショーを見に行こうか」なんて楽しく話せるような作品が一番の目標で。『キングオージャー』はそういう意気込みで作りました。

—— 特撮以外のドラマシリーズなどと比べて、書くときの違いはありますか?

高野:例えば同じ30分(正味23分)ドラマでも、特撮作品はアクションの時間がしっかり取られていて、書ける台詞がものすごく短く少ないんです。その中にどれだけ物語を詰め込めるか?というのは、他の作品とはかなり違うところです。
短いからこそ、ダラダラ説明できない。しかも1人1人に割り振れるセリフ量も限られるので、たった一言のセリフでどれだけそのキャラクターを伝えられるかをすごく考える。これはかなり勉強になりましたし、今も勉強中です。

—— 今作の脚本を書かれるにあたり、ご自身のこれまでの経験が生かされているところはありますか?

高野:自分が一番生かされているなと思っているのは少年漫画ですね。
『ONE PIECE』【8】とか『HUNTER×HUNTER』【9】が大好きで、エンターテインメントの中で一番長く見ているものが漫画なんです。自分も漫画家になりたかったので「ジャンプ」【10】とかの少年漫画を分析していて、どうしたら長く続く面白い漫画が描けるのかを考えていたんです。
仮面ライダーを書かせてもらったときに、一人のスタッフさんに(作品づくりについて)聞いたら、「特撮作品は連続ものだから、少年漫画と同じなんですよ」と教えてもらって、「なるほど!」と。
その場のアドリブ感もあるし、伏線になりそうな要素をばら撒いておいて後で回収するとか、スピード感みたいなものも感じられる。
だから『キングオージャー』の作り方は、今までの特撮作品を手本にというよりは、自分が大好きなジャンプの連載漫画などをかなり参考にしています。
僕自身は、伏線を張って回収するのがすごく好きですし、パズルが好きなんですよ。
だから両方の要素をミックスしています。事前にガチッと回収することを決めて(伏線を)撒くこともあれば、ちょっとしたアイデアを入れておいて、後から使ったり。いろいろ混ざっているからこそ、僕も書くのが楽しいですし、それが醍醐味だと思います。
それで言うと、23話【11】の“歯車を集める”という話は、美術デザインの人からいただいたアイデアみたいなところがありますね。
シュゴッダム【12】は工業の国。その国を包括するデザインの一部が歯車です。城の中でぐるぐる回っている歯車だったり、玉座も後ろに歯車がついていたり。だから「城を動かす歯車が足りないことにしよう。ここは歯車の国なんだ!」と。スタッフさんが作ってくれたものもお話に還元したり、それはやはり皆が力を尽くしてあの世界観を作ってくれているからこそできることだと思います。

—— すごく展開が早い印象がありつつ、主人公たちがチームを組むのが19話【13】です。短いサイクルと大きなサイクルの構成感が、すごく気持ち良いですね。

高野:僕は死ぬほど飽きっぽい人間なんです。飽きっぽいからこそ、飽きないで最後まで見られるものが大好きで、そういうものは何度も見て「こんなに飽きっぽい俺が、何で飽きないんだろう?」とすごく勉強するんですよ。それはすごく気にしています。
ただ単に展開が速いだけというのは飽きられてしまう。展開は遅いけどキャラクターを描けていれば、そのキャラクターが好きな人は根強く見てくれる。
キャラクターは丁寧に。でも大筋の話はテンポよく。
この二つを行ったり来たりしながら、進めるというバランスはすごく気にして書いています。
だからご指摘いただけて本当に良かったなと思います。

—— 物語の主人公である王様たちが、みなそれぞれとてもかっこいいですね。

高野:「子どもがごっこ遊びをしたときに1人もあぶれない」というのは最初の最初に出した企画書に書いたテーマでもあるんです。
スーパー戦隊にはコメディリリーフだったり、ちょっと気が抜ける存在とかが必要ですが、ごっこ遊びではカッコイイ役をやりたいですよね。
なので今回は全員カッコイイ。全員別のカッコよさがあって、全員に別のファンがいて、戦隊ごっこをしようと5人集まったときにぴったり5人で分けられることを目指しました。

—— 側近たちのキャラクターもステキです。

高野:主人公の王様たちの代わりに、ちょっと気の抜けたキャラクターを側近という形で置けたのが良かったですね。
今回はみんなが集まる基地がないんです。基地がないから、それぞれの国にいるのが基本なんです。そうなると、主人公の王様たちに話し相手が必要なんですよ。そういうのもあって、側近が必然的に生まれたというのがありますね。
前回話したように僕は演劇をやっていたので、側近のキャラも立てないとなと思って、それぞれにキャラクターを作っていきました。僕は脇役が好きだから、力を入れちゃうんですよ。そうしたら現場でもゴリゴリに演じてくれたんです。
だから第9、10話は側近をメインにしたエピソードにしました。
キャストさんもすごい熱意で、9話【14】では楽しそうにいっぱいアドリブをしてくれているんです。みんな情熱を持ってやってくれているのが映像からも伝わってきて、だからこそこちらも応えたいなと思いました。
一緒に育ててもらったという気持ちですね。
結果、10話【15】はいろんな人から好きだと言ってもらえてよかったです。

—— 昆虫がモチーフですが、昆虫について勉強したり、生態を調べたりはされたのでしょうか

高野:例えば美術のスタッフさんとか衣装部さんとかアクションチームさんたちの方が、昆虫感を意識されているかもしれないですね。あの動きとか戦闘スタイルとか。
僕はやはり(キャラクターの)名前ですね。名前を付けるときに昆虫図鑑を見て、それっぽい名前を調べたり、ちょっとだけその昆虫の生態を折り込むときもあります。
例えばカグラギ・ディボウスキ【16】なんかは、「カブラハバチ」ていう黒い蜂のカブラハをもじってカグラギにしています。ディボウスキは、ベスパ・ディボフスキィというチャイロスズメバチからなんですが、生態が別の蜂の巣を乗っ取る蜂なんです。そういう裏表のある、何か二枚舌三枚舌のキャラクター性が出るかなと思いました。
リタ・カニスカ【17】は、ルリタテハという蝶がモデルです。基本的に昆虫は、冬場とか雪の場所では活動が緩慢になって生きられないんですけど、ルリタテハは蝶の姿で冬を越すんです。それが冬に耐える強さに繋がるかな?みたいなのがあって。実は5話ではそのあたりを描写しています。
あと、なかなか気づいてくれる人がいないからここで言うんですけど、ハスティー(シュゴッダムの王家の名)の由来は、ライニオグナサ・ハースティ【18】という、おそらく現在発見されている一番古い昆虫からなんです。始祖の国だからハスティーと入れたんですけど、その由来を誰も見つけてくれなくて。
あと、ギラ【19】もね、ギラファノコギリクワガタじゃないですか。“ギラファ”だから“ギラ・ハ”スティーと重なる。というのを伏線のつもりにしていたのですが、誰にも気づかれなかったので意味がなかったという(笑)

—— 折り返し点を迎えつつある『キングオージャー』ですが、今後お話いただける範囲で注目してほしいポイントを教えていただけますか?

高野:9月3日(日)から『仮面ライダーガッチャード』【20】が始まりますが、『キングオージャー』も「新しい番組が始まったぞ!」くらいの気持ちで始めます。
『キングオージャー』らしさはもちろんありつつ、これまでにチラチラと思わせぶりに出してきた伏線をしっかり回収していくので、ぜひそこも注目しつつ、ガラッと変わった『キングオージャー』をお楽しみに!

—— まだまだお話が尽きません。次回、後編延長戦(9月8日公開予定)に続きます。

本テキストは音声版のダイジェストです。
是非音声版でお楽しみください。

プロフィール

高野水登(たかの みなと)
脚本家。高校から劇団を主宰して演劇に関わり、その後、練馬区江古田にある日本大学芸術学部演劇学科劇作家コース(現・舞台構想コース劇作専攻)に進学。卒業後、映画『3D彼女 リアルガール』や『賭ケグルイ』、『映像研には手を出すな!』などのドラマ作品・映画作品の脚本を手掛ける。2022年には日本テレビ系日曜ドラマ『真犯人フラグ』の全話脚本を担当。
現在放送中の「スーパー戦隊」シリーズ第47作品目となる『王様戦隊キングオージャー』の脚本を担当している。

ダイジェストテキストに登場する作品名・人物名等の解説

【1】『王様戦隊キングオージャー』
2023年3月より放送中の東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第47作品目。5つの国の「王」たちが力をあわせて戦う「王様戦隊キングオージャー」の活躍を描く。 高野水登氏は全話の脚本を執筆している(26話放送時点)。
原作:八手三郎/監督:上堀内佳寿也、山口恭平、加藤弘之、茶谷和行/脚本:高野水登/出演:酒井大成、渡辺碧斗、村上愛花、平川結月、佳久創 ほか
【2】高橋悠也(たかはし ゆうや)さん
脚本家、俳優、演出家。劇団UNIBIRDの主宰で、全公演の脚本・演出を担当する。また、TVドラマや映画、アニメ作品などの脚本家として活躍。仮面ライダーシリーズに初参加した『仮面ライダーエグゼイド』(16-17)では、TVシリーズ全45話、劇場版、Vシネマ3部作をすべて担当した。
代表作に、TVドラマ『金田一少年の事件簿N』(14)『仮面ライダーゼロワン』(19-20)『仮面ライダーギーツ』(22-23)、映画『エイトレンジャー』シリーズ(12-14)、アニメ『曇天に笑う』(14)『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』(14)など。
【3】『仮面ライダーエグゼイド』
東映制作の特撮アクションドラマ「平成仮面ライダーシリーズ」第18作。2016年10月~2017年8月まで全45話を放送。メインライターは高橋悠也氏。高野氏は、本作のスピンオフ[裏技]シリーズの脚本を担当。
【4】『仮面ライダーゼロワン』
東映制作の特撮アクションドラマ「令和仮面ライダーシリーズ」第1作。2019年9月~2020年8月まで全45話を放送。メインライターは高橋悠也氏。高野氏は第23話「キミの知能に恋してる!」、第24話「ワタシたちの番です」の2本を執筆。
【5】大森敬仁(おおもり たかひと)さん
東映所属のプロデューサー。2005年の『仮面ライダー響鬼』から、東映特撮TVドラマシリーズに関わるようになる。『獣電戦隊キョウリュウジャー』(13-14)で初めてチーフプロデューサーを務める。『仮面ライダーエグゼイド』(16-17)、『仮面ライダーゼロワン』(19-20)でもチーフプロデューサーを担当。『王様戦隊キングオージャー』で、10年振りに「スーパー戦隊シリーズ」に復帰した。
【6】「スーパー戦隊シリーズ」
東映制作の特撮TVドラマシリーズ。1975~77年に放送された『秘密戦隊ゴレンジャー』から始まり、現在まで途切れることなく放送が続いている。2023年3月より放送を開始した『王様戦隊キングオージャー』で47作となる。
【7】Gロッソ
東京ドームシティアトラクションズに、2009年4月にオープンした屋内型のヒーローショー準専用劇場。毎年、放送中の「スーパー戦隊シリーズ」のヒーローショーが年間4~5シリーズ上演されている。
【8】『ONE PIECE』
週刊少年ジャンプにて1997年より連載中の、尾田栄一郎による大人気漫画。コミックスは106巻まで刊行されている(2023年8月現在)。
1999年には東映アニメーション製作でTVアニメ化され、現在も放送中。劇場版作品も多数制作され、最新作『ONE PIECE FILM RED』(22)は東映の興行収入1位を達成している。
【9】『HUNTER×HUNTER』
週刊少年ジャンプにて1998年より連載中の、冨樫義博による大人気漫画。コミックスは37巻まで刊行されている(2023年8月現在)。
これまでに日本アニメーション版(99-01)、マッドハウス版(11-14)のアニメが制作されている。
【10】ジャンプ
集英社の漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」のこと。1968年に月2回刊誌「少年ジャンプ」として創刊、1969年より週刊となり「週刊少年ジャンプ」となった。1994年末発売の1995年3・4号において、653万部という漫画雑誌(日本国内)の最高発行部数を記録。掲載作品の多くが映像化されている。
【11】『王様戦隊キングオージャー』第23話
「シュゴッダムの動く城」(監督:茶谷和行)
【12】シュゴッダム
五王国のひとつで「すべての始まり」の国。工業が盛んで、多数の兵士を有する最強の国でもある。
【13】『王様戦隊キングオージャー』第19話
「王様戦隊キングオージャー」(監督:加藤弘之)
【14】『王様戦隊キングオージャー』第9話
「ギラ逃走中」(監督:加藤弘之)
【15】『王様戦隊キングオージャー』第10話
「伝説の守護神」(監督:加藤弘之)
【16】カグラギ・ディボウスキ
農業の国「トウフ」の殿様。温和で人たらしな性格だが、国を守るためなら汚い手を使うことをいとわず、平気でウソもつく。自分の得になるように物事を進める人並外れた交渉テクニックを持つ。
王鎧武装でハチオージャーに変身する。モチーフは「カブラハバチ」。
【17】リタ・カニスカ
氷雪の国「ゴッカン」の国王。中立を正義と考える国際裁判長を兼任する。感情を表に出さず保守的で慎重なため、周囲からは堅物に見られるが…。
王鎧武装でパピヨンオージャーに変身する。モチーフは「ルリタテハ」。
【18】ライニオグナサ・ハースティ
約4億1,000万年前のデボン紀前期に生息したと考えられる節足動物で、最古級の昆虫とも言われている(諸説あり)。1919年にスコットランドのライニーチャートで、化石として発見された。
【19】ギラ
守護神が宿る最強国「シュゴッダム」の“自称”王様。児童養護園で育った純粋で心優しい青年で、子どもから好かれている。子どもたちとのヒーローごっこで常に悪役を演じており、誤解を招く口調がクセになった。
国王ラクレス・ハスティーの「国民を犠牲にしてでもチキュー統一を優先する」という目的を知り、みんなを守るために自ら“邪悪の王=悪役”を演じて世界に反旗を翻した。
王鎧武装でクワガタオージャーに変身する。モチーフは「ギラファノコギリクワガタ」。
【20】仮面ライダーガッチャード
2023年9月3日(日)より放送開始となる、東映制作の特撮アクションドラマ「令和仮面ライダーシリーズ」第5作。
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