—— 『キングオージャー』【1】の脚本が映像化されて、「自分のイメージとは違ったけどすごく良い」みたいなことはありますか?
高野:一番は、やっぱり第1話【2】の“沈黙の30秒”ですね。
「世界の敵になったのだ」と言われたギラ【3】が、「望むところだ!」と応えるまでに沈黙があるんです。
これは台本には書いてなくて、僕の中ではポンポンと進むつもりでした。
それが30秒ぐらい使っている。正味23分の番組の30秒だから、1/46を沈黙に使うのは狂気の沙汰なんです。
だけど、あの間があるからこそギラの気持ちに入れるし、一気に好きになれる。ネットでも「あそこがすごい!」と話題になったのもあり、すごく嬉しかったですね。
あとはやはりアクション。これは本当にスーツアクターさんとアクション監督がすごいと思いました。キャラクターに命が吹き込まれる感じがあります。
例えば、ヤンマ【4】がヤンキー座りで肩に剣を担いでいるとか、カグラギ【5】が戦闘中も胡坐をかくとか、1人1人の戦い方がキャラクターを表している。セリフだけではなく、キャラクターのビジュアルだけでもなく、あの立ち振る舞いが、確実にキャラクターを補強しています。
「こういう戦い方をする人だから、こういうやり取りになるな」とか、自分の中でキャラクターの解像度が上がるんですよ。これはすごいと思いました。
—— シュゴッド【6】に感情があり、シュゴッド同士にも関係性があり、少し恋愛感情がある。みたいな設定は、高野さんの発案なんでしょうか。
高野:作っているとストーリーがどんどん縦軸で進むし、(話が)真面目だから、ちょっと馬鹿馬鹿しいことをやりたいと思って。だからこっちでラブコメみたいなことをしようと考えたんです(笑)。
ただ必然のところもあって、この子たちは今まで何故一緒にいなかったのか?と考えると、何かしらの意思がないと、今まで一緒にいなかった説明がつかない。
各国のシュゴッド、例えばクワガタやカマキリなどは、その国の王様と一緒にいるけれど、他のシュゴットはそれぞれに生活があるんじゃないかと考えました。そうなるとプライベートの話になるから、恋愛関係はどうだ?と。それで、ちょっとかわいらしい三角関係みたいになりました(笑)。
あとは何よりも、シュゴッドをただの兵器や道具にしたくなかった。だからといって友達というのもちょっと違う。それぞれに意思があって、それぞれに生活もあって、それが一つに重なるときもある。人間に都合のいい存在ではないけれど、手を貸してくれることもあるよと。
これは「困難があったときに結束する」という『王様戦隊キングオージャー』自体のテーマでもあるんです。
—— 「五王国異様事案対策用戦略救命部隊」【7】で「王様戦隊」というのは、最初から考えていたのですか?
高野:10話【8】で「我ら王様戦隊!降臨せよ、キングオージャー!」というセリフがあるのですが、あそこで「どこかで“戦隊”という言葉は使わなきゃいけない。でも、“王様”で“戦隊”とはどういうことなんだろう?」と、“王様戦隊”と、向き合うことになったんです。
10話では、かつての伝承で、「矛盾を超える、王様が手を取り合ってありえない事をなす」ことの象徴として“王様戦隊”という言葉が古代の文献にあった、ということにしたんです。だから、19話【9】での名乗りも、最初はそこからとって“王様戦隊”と書いたんですよ。でも、プロデューサーの大森敬仁さん【10】に「これ、意味があった方が良いです。その方がカッコイイじゃないですか」と言われて、僕も好きだから考えたんです(笑)。
「“戦隊”と言いつつ、戦う部隊にはしたくない」というのは、最初からみんなで話していて、“戦略救命部隊”、あくまでも“救命部隊”だというのは決めていました。
でも、“五王国”はいいけど、“様(さま)”はどうするんだよ?と。このことだけを、1日使って調べました。
その時に、古語で異様(いよう)なことを「異様(ことざま)」と書かれているのを見つけたんです。「これしかない!」と、天に感謝しましたね(笑)。
それで、異常事態みたいな意味で“異様事案(ことさまじあん)”と名付けたんです。
19話でみんなが格好良くキメてくれて、本当によかった。そのあとの戦闘シーンもめちゃくちゃ凄くて、加藤弘之監督【11】は天才ですね。
—— リタ【12】が頼る“もっふん【13】”は大事なキャラクターですが、どんなところから発想されたのでしょうか?
高野:リタは(立場的に)本音を表に出さないキャラクターなので、誰にも言えないことは、ぬいぐるみの“もっふん”と話すことにしたんです。リタの苦しい胸の内を、あのもふもふが受け止めてくれるんじゃないかなと。
実は僕はぬいぐるみが大好きで、「自分がデザインしたぬいぐるみを手に入れる」という野望を心に秘めていたんです。それで、プロデューサーから「もっふんのイメージって、何かありますか?」と聞かれたので、ここぞとばかりに自分がずっと考えていたアイデアをその場で描きました。気が付いたらバンダイさんに綺麗にしていただいて、商品化もされるというとんでもないことに(笑)。
—— ご自身がこの作品が大好きとうかがいました。自分がこの作品が大好きなことが、作品にフィードバックされるようなところはありますか?
高野:観ている人みんなに楽しんでほしいと思って書いています。それは、自分が面白いと思うものじゃないと駄目だ、飽きっぽい自分が飽きないものにしたい、自分が毎週観たいと思うものを作りたい、という気持ちがでもあるんです。
この作品は、もちろん脚本も大切なセクションではありますが、いろんな人の技術と才能が結集して出来上がっています。だから、完成したものを観たときにすごく新鮮なんです。
例えばアクションシーンやロボットのシーンなんかは、僕もどうなるかわからないので、より一層新鮮な気持ちで観られるんです。
純粋に1人のファンとして楽しい。だからこそ、もっと観たいものが出てくるという循環が生まれています。
自分がファンとして観ていますから、「こういうのが見たい」、「新しいことをしてほしい」、「びっくりしたい」んです。
僕が脚本を書いていることが最大の欠点ですね(笑)。記憶を消して、1話から観たいです。
スーパー戦隊シリーズ【14】は47作やっている伝統的なシリーズだから、ある意味ルーティン化しているんじゃないかと思っていたんです。でも、初期の打ち合わせで僕が衝撃を受けたのは、「新しいものをやろう!」という気持ちが溢れていることでした。
ある打ち合わせで、大人の事情の絡みで話が停滞した瞬間があり、そのときに僕が「こうしたら丸く収まるんじゃないですかね」みたいなこと言ったんです。そうしたら、隣にいた上堀内佳寿也監督【15】に、「いや、今はどうやったら面白くなるかだけを考えているんです」と言われて。その熱意に感動しました。
そんな気持ちを持っている人たちの集団ですから常に刺激的ですし、それが作品からもにじみ出るんですよ。本当に『キングオージャー』大好きです。
—— ファンの方に最後メッセージをいただけますでしょうか?
高野:今回、観てくれている人たちが温かくて。作品を理解してもらえた上に、好意的に楽しいとか面白いと言ってくれることは、なかなかないんです。
『キングオージャー』を、いろんな人から愛してもらっているという感覚がすごくあります。
嬉しいからこそ、そういう方々に裏切られた気持ちになって欲しくないし、僕自身がファンの代表として「『キングオージャー』に裏切られてなるものか!」と思っています。
最後まで楽しんでもらえるような仕掛けは、今の段階から用意しているので、信じて楽しんでついてきていただけたら嬉しいです。
これからもぜひよろしくお願いします。
今日は本当にいろいろ話せて楽しかったです。ありがとうございました。