—— 練馬区といえば、どこが思い浮かびますか?
田﨑:東映東京撮影所(1)に通い始めて30数年。僕にとってのおヘソのような感じですね。
大泉学園駅のそばは交通に支障がでてしまうのでロケではあまり使いませんが、例えば光が丘など、ロケをしやすい街や場所には何度も行っています。
—— 「映像の世界に生きる」という確信は、いつごろ持てたのでしょうか。
田﨑:助監督になるのは、それほど難しくないんです。
『仮面ライダーBLACK』(2)は毎日放送が始める全く新しい枠だったので、東映の撮影所としては新規にスタッフを集めなければならなかったわけです。そこに僕は「やってみたいです」と入った。これは、今の若い方でもあり得ることです。
でも、そこから先、助監督から監督になれるのか?
例えば1つの作品には監督が1人。助監督が4人くらい。単純に考えると、助監督から監督になれる確率は1/4。実際には年齢や経験の差もあるのですが、なんとなくそう考えたほうがいいなと思って、なるべく前へ前へ出るようにしていました。結局それが修業だったんですけど。
そして監督になって1、2年して、「このまま監督としてやっていけるのかな」と思いました。
それまでは不安でしたね。
—— 長く続くシリーズの現場だからこそ得られるものは?
田﨑:仮面ライダー(3)だと、助監督を経た30代の監督が育って来たという実績があります。
そういう人を育てるという意味で、シリーズは「ゆりかご」として優れていると思います。
—— 助監督時代の経験から、今の自分につながることは?
田﨑:コミュニケーションの仕方ですかね。
例えば、台本は文字情報です。パソコンのデータとしてはキロバイト。それが映像化されるとギガバイトのデータになっている。
その間を埋めるのが、僕ら現場の仕事なんです。それは一人じゃできない。
カメラマンに指示を出したり、俳優さんに説明したり、言葉で伝えなきゃならない。
これをいかに効率よくやりとりするかというのが、修業(助監督)時代に培った能力かな、と思います。
—— 「超力戦隊オーレンジャー」(4)、「激走戦隊カーレンジャー」(5)、「電磁戦隊メガレンジャー」(6)で監督としてシリーズの現場に入り、得られたことは?
田﨑:同じ撮影の現場でも、助監督と監督では見え方が全然違うなと。
監督の目線からすると、助監督時代はまだまだお気楽に現場を見ていた気がします。
まず監督になると、タイムマネージメントが必要。スタッフに対する采配も必要。そして一番大切な、「芝居をどう作っていくか」ということがあります。
もちろん、助監督もタイムマネージメントやスタッフの事を考えますが、肝心要のお芝居については「監督と俳優さんのもの」という“聖域”のような意識があって、そこに突っ込んでいけないところがあったように思います。
監督になって、俳優さんに芝居をつけるというときに、「俳優さんに対しての言葉を自分が持っていない」ということに気づいて、そこから色々と考えるようになりました。
—— 「星獣戦隊ギンガマン」(7)でパイロット監督(8)を経験して感じたことは?
田﨑:パイロット監督は、変身パターンからサブタイトルの出かた、アイキャッチ、オープニング、エンディング、なども含めて、1から10まで全部作るんです。
作曲家の先生との打合せもパイロット監督がするのですが、ここで「作曲家に対しての言葉」が必要になって来るんです。「ギンガマン」は佐橋先生(9)でしたけど、共通するものがあったりしたので、最初に佐橋さんと仕事ができたのは良かったです。
セットのデザインを美術デザイナーと作っていくのもパイロット監督の仕事なのですが、これは責任重大。そのセットを1年間使うので、変な構造にすると(他の監督から)「撮り辛いな」と(笑)。
—— 数多いシリーズ監督経験の中で「この経験が自分を監督として進化させた」と強く感じる作品は?
田﨑:『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4』(10)です。
現在、年に2、3本公開されている仮面ライダー映画のきっかけになった1本でもあります。
それまでの仮面ライダー映画は、「まんがまつり」的な興行の複数の中の1本として作られていました。
本作は、『百獣戦隊ガオレンジャー』(11)と2本立てで、仮面ライダー映画としては70分(ディレクターズカット版は88分)という異例の長尺で、ある程度の予算を付けるというのも初めてでした。
あれは勉強になりましたね。一緒にTVをやっていたスタッフが、「これは映画だ」と目の色が変わるのも目の当たりにしました。
TVと違い、「映画は映像そのものにお客さんからお金を払っていただく」ものですので、「お金を払って観ていただける価値のあるものを提供できるか」というのが、映像屋の我々としては気になるところでもあるし、覚悟みたいなものもありました。
監督として、大きな経験を積ませていただいたと思っています。
—— 強く心に残るシリーズはありますか?
田﨑:『仮面ライダー555』(12)でしょうか。
白倉プロデューサー(13)、井上敏樹先生(14)の脚本、監督は僕というチームで、『アギト』(15)『龍騎』(16)『555』と3年続いたシリーズをパート1~3と捉えた場合、パート3がその後のシリーズの運命を握っているように思い、これが成功すれば長く続くシリーズになるのではという気がしていました。
なので、それまでの経験をすべてぶち込んで全力で当たりました。
—— 「撮影所で1年間同じ作品に携わる。また翌年も同じスタッフで別の作品に携わる」という環境は、ご自身にどのような影響がありましたか?
田﨑:撮影所は竜宮城って感じなんですよ。あの中にいると時間を感じないんです。
『アギト』『龍騎』『555』の頃はまだまだ古参のスタッフがいて、60過ぎの照明部さんがものすごく重いライトを担いで歩いてたりました。竜宮城(撮影所)にいるとそれが普通だったんです。
そういう意味では、自分が進化したって実感はなくて、螺旋の中にいるのかもしれません。
明日の勇気につながる1作田﨑竜太監督のおススメ!
『search/サーチ』
(2018/アメリカ/監督:アニーシュ・チャガンティ/主演:ジョン・チョー)
田﨑:この環境下で映画館に行けず、自宅で映画を楽しんでいる方もいらっしゃると思います。
自宅で観るのに非常に適しているという意味で、この作品をお勧めしたいなと。
これは、娘が行方不明になったお父さんが、いろんな方法を駆使して娘を探すというのがメインプロット。
この映画が面白いのは、最後の最後までコンピューター、TV、スマホの画面だけで物語が進行するんです。
「その画面だけで失踪事件とその真相を見せ切る」という斬新な映画で、自宅で観るなら臨場感があると思います。