—— 練馬区の思い出
松田:やはり大泉学園の東映東京撮影所(1)ですね。電車を乗り継いで通っていたのですが、同じ都内なのに気候の違いに驚いたり、毎日通う駅から撮影所の道のりに新鮮さを求めて、いろんな道を歩いたりしていました。一度迷って遅刻したこともあります(笑)。
大泉独特のちょっと複雑な道に、「今日はこういうふうに行こう」と楽しませてもらえた気がします。
—— 『仮面ライダー龍騎』(2)の「秋山蓮」役を演じることになった経緯
松田:デビューしてちょうど3年目のになったころで、マネージャーと「そろそろ全国的な大作(の役)をもぎ取らないと、俳優としてのキャリアも始まっていかないな」ってよく話していたんです。
そこに、1通のオーディション要項が届きました。それには、『仮面ライダー龍騎』のプロデューサー・白倉伸一郎(3)さんの署名が入った手紙が添えられていたんです。「この作品は、ニューヨークのテロ(4)がきっかけに作ることになった。もし、1人1人が自らの正義を貫いたら、世の中がこんなふうになってしまうんだ。ということを、『仮面ライダー』という作品を使って描きたい。かなり重いテーマになるが、協力してくださる方はオーディションに参加してほしい」と書かれていたんです。当時、「仮面ライダー」に出演することがプラスかマイナスかみたいなことが議論されていた時期でした。「イメージが付く」とかね。でも、僕もマネージャーも「イメージくらい付けていただけるものに出ないことには、自分のキャリアが始まらない」と話していたので、これは絶対に獲るんだ!という気持ちでオーディションに挑み、第4次までもつれましたが獲らせていただきました。
撮影初日にいたるまでを「仮面ライダーのなり方」(5)で紹介しましたけど、本当によく考えて必死に獲りに行った仕事でしたね。
—— 配役決定後の準備は?
松田:撮影までに、2ヶ月くらいあったと思います。1年間の作品に出演するというのは初めてでしたが、そういう作品に対してすごく強い憧れがあったんです。
1週間でクランクアップする作品でも、真実味を持たせるために役作りをします。これが、俳優としてひとつの役を1年間演じ続けたら、どんなことが起こるのか? 1年あれば僕自身も成長するし、その成長は雪だるまが大きくなるように役にも盛り込まれます。なので、その成長がおかしくならないよう、核となる最初の役設定を、その2ヶ月で作らなければと思ったんです。
それで、「秋山蓮」とはこういう人なんだという履歴書を作りました。僕にとっては、役に向き合う、掘り下げる時間が大事だったんです。そうして出来たものを皆に共有してもらったほうが良いと思って、衣装合わせの日にその履歴書を、白倉さんと田﨑竜太監督(6)にお見せしました。その瞬間のこともよく覚えていますが、最初は笑っていたお二人が、そのあと神妙な表情で履歴書を読まれていて、ふと顔を上げた田﨑監督が僕を見て「ありがとう」とおっしゃったんです。その時に、僕が「秋山蓮」を演じる事への“信頼の種”みたいなものが生まれた瞬間を感じました。
それが僕の中では「1年間ひとつの役に向き合う」ということを約束する儀式でもあったし、最初の核を作るとても大切な作業だったんです。
—— 撮影開始までの間に、感じていたこと、思っていたこと
松田:当時23歳だった僕が向き合うにはあまりにも大きなプロジェクトだったので「何かあったらどうしよう?」というのはいつも思っていましたね。
「仮面ライダー」って、劇場版やおもちゃなどの情報が常に先行して発表されるんです。でも、『仮面ライダー龍騎』はニューヨークのテロの影響でできた作品なので、脚本がまとめて出来ていなかったんです。今撮っている話数の2話先が出来ていないみたいなこともあって、劇場版の脚本なんて出来てないのに発表して大丈夫?(笑)なんて思っていました。
当時受けたインタビューを見た脚本の井上敏樹(7)さんにも「松田だけプロデューサー目線なんだよな」って言われて「僕、心配性なんですよ」と答えたりしていましたが、「秋山蓮」を演じながら、現場を俯瞰して見ていたと思います。それは『仮面ライダー龍騎』が僕の人生において、もっとも大きな、もっとも重要な仕事だと、僕自身が感じていたからです。
—— 撮影が始まってから、現場で感じたことは?
松田:温かいし、厳しい現場でした。例えば田﨑監督は、演出のことをロジカルに説明して下さるんです。逆に、キャメラマンの松村さん(8)はものすごく感情的なんです。コンピューターで練り上げられたような言葉と、下町の頑固親父の怒鳴り声が同時に飛び交う現場で僕ら役者は動くのですが、あの感じが、僕は性に合ったんです。ロジカルな田﨑監督の言葉では冷静になれる。でも冷静すぎると演技に熱が足りない。そこに強い言葉で僕の心の中の炎に薪をくべてくれるのが松村さんでしたね。
明日の勇気につながる1作松田悟志さんのおススメ!
『252 生存者あり』
(2008/日本/監督:水田伸生/主演:伊藤英明、内野聖陽)
松田:あくまで仮想の大震災がベースになっていて、その後、東日本大震災が起きてしまったので見るのが辛いシーンもあるんですが、この映画はレスキュー隊を描いた作品です。
僕は当時『龍騎』の後で62、3㎏くらいのガリガリ体型だったのを、この作品に向けて80㎏まで体重を増やして、若手のレスキュー隊員・青木を演じました。
もう救助は無理だという状況でも、「レスキュー隊があきらめたらそこで終わりじゃないですか」と突っ込んで行くのが青木なのですが、その結果がどうなるかということも含めて観ていただきたいです。
僕は何年かに一度、必ず観なおすようにしていますが、この作品は人間の命についてすごく考えされますし、親子の愛や、人と人とのお互いの尊厳を尊重しあう関係、そして「諦めないで生きていくというのはこういうことなんだ」というのがものすごく色濃く描かれていて、観た後に「こういう涙をたまに流さなきゃいけないな」と感じさせてくれます。