—— 『忍風戦隊ハリケンジャー』【1】で1年以上東映東京撮影所【2】に通われましたが、撮影所のある練馬区といえば、どんなところが思い浮かびますか?
長澤:17歳から「ハリケンジャー」の撮影に携わっているのですが、「東映撮影所学校」に1年3ヶ月ぐらい通っているような感覚で、とても愛着のある場所が練馬区ですね。
撮影の合間に、ちょっと時間あるから何か食べに行こうかとか、ちょっと時間あるからプリクラ撮りに行くなんてこともありますし。撮影に迷惑がかからない程度で、自由に遊べたのが撮影所の近辺だけだったので、そういう意味では、良い気分転換をさせてもらっていた場所でもあります。
目の前のOZ(現・リヴィンオズ大泉店)も「さまさま」でした。ご飯もOZで食べていたし、ゲームセンターで遊ばせてもらったりとか、差し入れを買ったりとか、OZで全ての娯楽が完結するので、たくさん利用させていただきました。
—— 長い歴史のあるシリーズに主要な役で参加するということが決まったとき、どのような思いでしたか?
長澤:まだ高校生だったので、自分も子供の頃見ていた「スーパー戦隊シリーズ」【3】のオーディションを受けに行くことはわかっていたと思いますが、それが1年も続く作品で、こんなに大変で、20年経っても「ハリケンブルー」って言われるような自分にとっての代表作になるなんて、考えてなかったですね。
ただ目の前にあることに一生懸命なだけだったので、放送が始まってからの周りの変化についていけなかったのを覚えています。
小さなお子さんを連れてるお父さんお母さんに街で声をかけていただいたりとか。そういうことが今までなかったので、何か不思議でした。
みんなから「七海ちゃんだっ!」って言われると、「すごい、みんな観てるんだ!」っていうような。
前からお芝居をさせてもらっていたんですけど、自分のことをたくさんの方に知ってもらったのは『ハリケンジャー』だったので、生活も環境も一気に変わったような感じでしたね。
—— 実際に撮影現場に入られて、どのような感触を持ったか覚えてらっしゃいますか?
長澤:もう何もわからなかったです。普通の芝居と違って、「怪人が現れた!驚け!」って言われてリアクションしても、「そんなんじゃわかんないよ、もっと大きく驚くんだ!」って注意されたりとか、全てが初めてのことで。
ハリケンジャーの3人が、おちこぼれからはい上がっていくというストーリーなんですけど、それと同じように私達3人を役者としても成長させてもらっていたような現場で、毎日新鮮で、毎日たくさんのことを教えてもらって、毎日目の前のことをやるのに必死でした。「今日は何々をやるんだ。これから何々をするんだ。ここで爆発するから」って言われて、「爆発って何?、どっから来るの?どうしたらいいの?」みたいな(笑)。そういうわからないことを、スーツアクターの方にもいろいろなやり方、動きやリアクションの取り方を一つ一つ教えてもらいながら、育ててもらった感じですね。
—— 「ハリケンジャー」は、変身した後もマスクの中の顔が見える場合があるので、生身のアクションだけではなく、変身後のアクションもご自身でやるところが結構あったと伺いました。
長澤:そうなんです、マスクオフっていうのがあって。私達は衣装合わせの段階で自分専用のスーツとマスクを作っていただきました。
爆破とかでやられたらマスクが開いて本人が見える。みたいなシーンが結構あって、なんじゃこりゃ?って感じですよね(笑)。でも、自分がヒーローになった感があって、凄く楽しかったです。
—— スタッフの皆さんは、どんな方たちでしたか?
長澤:私達3人が本当に素人のような感じで、皆さんも「育ててやらなきゃ、教えてやらなきゃ」っていう気持ちを持っていただいたと思います。
私達もわからないと、監督だったりアクション監督さんだったり、キャメラマンさんなどにも「どうしたらいいですか?」って聞きに行けたので、その都度教えてもらってどんどん関係が密になって行きました。
渡辺勝也監督【4】に関しては、1,2話のパイロット版を撮って、普通はシリーズの終わりの方は次のシリーズに行くんですけど、「ハリケンジャーは最後まで撮りたい」っておっしゃって最終話も撮ってくださいました。
そういうところにもスタッフの方の愛情をすごく感じました。
キャメラマンの菊池亘さん【5】はほとんどメインで入ってくださって、たっくさん怒っていただいて(笑)いろいろ教えてもらいました。あんなに厳しくされることってないと思うので、自分にとっては本当に良い経験になりました。
アクション監督の竹田道弘さん【6】は一見とても怖そうなんですけど、本当にチャーミングで愛情のある方で。「絶対怪我をさせない」というのが大前提で、(私たちに)アクションをやらせるということは信頼してもらっているし、「きっとお前はできる。やるんだろう?」というふうに気持ちも乗せてくれます。無理のない範囲でかっこいいアクションを撮ってくれるし、引き出してくれるので、私のアクションの一番最初の土台を作ってもらったのは、竹田さんだなと思っております。
本当にスタッフ、キャストみんなで愛を込めて撮ったな、作っているな。というのが、「ハリケンジャー」だなという感じがします。
—— 共演の皆さんとの話をお伺いします。その後の『忍風戦隊ハリケンジャー 10 YEARS AFTER』【7】や『忍風戦隊ハリケンジャーでござる! シュシュッと20th Anniversary』【8】でも、「ハリケンジャー・ゴウライジャーチームは本当に仲がいいんだな」という感じがします。
長澤:自分たちのことなので他のチームと比べたことがないのでわからないですけど、いい距離感なんでしょうね。
いい感じに年齢が離れてたんですよ。私と塩屋瞬くん【9】が1個違いで、山本康平くん【10】はまたそのちょっと上で、ゴウライジャー【11】の2人がやっぱりちょっと上で。当時はそんなに絡みがなくて、あまりプライベートで話したという記憶もないんですけど。
だから20年経って、お互い良い感じに年をとったので、いろいろ話せるようになったなと。親戚みたいな感じですね。
そして私達のグループには、みんなの話を受け止めてくれて、まとめてくれる、山本康平くんという母のような偉大な人がいるので。やはり“やーさん”がいたのが大きいかなと思います。
いつも私のわがままを聞いてくれて、塩屋先生の暴走を止めてくれて、姜暢雄くん【12】のむちゃぶりに応えてくれて、白川裕二郎くん【13】のケアを怠らないという(笑)。だからきっと、チームワークがいいのかなと思いますね。
—— 敵役のフラビージョ/山本梓さん【14】、ウェンディーヌ/福澄美緒さん(*引退し、「10YEARS」では松田佳代名義)【15】の2人とも仲が良かったと伺いました
長澤:はい。もうすごく大好きで、あずちゃんとは2歳、佳代ちゃんとは4歳違うのですが、友達というよりも、姉妹みたいな感じで仲良くさせていただいています。撮影後もプライベートで遊んだり、お互い結婚して子供が生まれたら子供同士で遊んだり。家族ぐるみの関係を今でも続けているので、本当に出会いって大切だなと思います。
—— 1年間一つの役を演じ続ける体験をされましたが、長澤さんご自身が大きく変わったような、そういうふうに思ったことはありましたか?
長澤:気持ちは変わりましたね。女優さんになりたいと思って、自分から履歴書を書いて事務所に入った人間なんですけど、いきなり戦隊物のヒロインに受かって、撮影と同時にTVでどんどんどんどん放送されて、劇場公開や、イベントを開催したらすごい人が集まったり、地方でのイベントも全国からいろんな人が集まってくれたりと、自分の思っていた以上に周りから見られるようになったというか。
なので、いつの間にか本当に女優さんになっちゃったんだな。という後から客観的に気付くというか。
フラフラした高校生でいたのに、「ちゃんとした大人にならなきゃいけない」みたいな。
高校入学したときに、「卒業までに芸能界が無理だと思ったら大学に進学しなさい」と親と約束して芸能活動をさせてもらっていたので、「これってもう大学行かなくていいよね?もういいよね?受験しなくていいよね?」って親に聞きました(笑)。
—— TVシリーズ1年間の中で、強く印象に残ってることはありますか?
長澤:前半はわからないことが多くて芝居も難しかったり、どうやって演じるんだろう?と悩んでたんです。
30話の自分のメイン回で、フラビージョの山本梓ちゃんと一緒にアイドルユニット組むお話があって、自分たちで衣装を買いに行ったり、ダンスの振り付けの練習をしたり、ちょっとお芝居もできるようになってきて、撮影にも慣れてきたので、すごくそれが楽しくって。
そのときにキャメラマンの菊池さんが初めて、「奈央が気持ちを作ってるんだから、お前ら早く準備しろ!」と周りのスタッフに言ってくれていて、「役者として菊池さんに認めてもらえた!」と思ったのは、すごく自分の中で印象的ですね。
—— 1年間一つの役を演じるということは、長澤さんにとってどういう思いがありますか?
長澤:私は、『ケータイ捜査官7』【16】もそうですし『大魔神カノン』【17】もそうですが、結構そういう役に恵まれていて。最初に「ハリケンジャー」を経験したので、全然大変だという感じることはなかったです。
「ケータイ」や「カノン」のときは、並行して他の役もやっていましたが、他の作品よりは(役に対する)愛着がありますよね。他の現場をやりながら、「今日は『ケータイ捜査官7』の現場だ。またみんなに会える!」とか、自分の役に対しても「今日はどういうお芝居にしよう?ちょっと遊びを入れてみようかな?」とか、ちょっとずつ膨らませられる余裕が持てるかな。
やはり1年間やった作品は、終わった後も自分の中でとても記憶に残っていますし、大事だなと思えるものですね。
共演者の方が活躍してると、やっぱり気になります。「すごい!」って、それこそ家族のような目線で、思えるので幸せですよ(笑)。
なかなか1年間の現場はないので、それをたくさん経験させてもらえてるのは幸せだなと思います。
—— 1年3ヶ月かけてきた番組が終わったとき、どんな思いだったのでしょうか?
長澤:終わっちゃうときは寂しくて泣き崩れました。岩船山【18】で最後にクランクアップしたのですが、もう終わるのが嫌で寂しかったのをすごく覚えています。
でもその後からショーが始まるので、みんなと会えないのが寂しいのではなく、「ハリケンジャー」というシリーズが終わってしまうことが寂しくて。だから「10 YEARS AFTER」を作ろうと思っちゃったんでしょうね(笑)。
—— そのあたりのお話は、後編でじっくりお伺いしたいと思います。ありがとうございました
明日の勇気につながる1作長澤奈央さんのおススメ!
『マンマ・ミーア!』
(2008年/イギリス、ドイツ、アメリカ/監督:フィリダ・ロイド/脚本:キャサリン・ジョンソン/出演:メリル・ストリープ、ピアース・ブロスナン、コリン・ファース、ステラン・スカルスガルド、アマンダ・サイフリッド ほか)
ギリシャのとある島で小さなホテルを営むドナは、娘・ソフィの結婚式を明日に控えていた。ヴァージン・ロードを父親と歩きたいと願うソフィは、ドナの日記から父親候補3人を見つけ、ドナの名前で招待状を送っていた。この計画を知らないドナ。事情も知らずに島を訪れる父親候補のサム、ハリー、ビル。20年ぶりの再会に、様々な問題が巻き起こる。
長澤:私の大好きな作品です。これを観ると、勇気も湧いてくるし、ハッピーになれるし。
今は忙しくてなかなかゆっくり座って観ることはできないんですけど、流しておいて家事をする。みたいな感じで、良い気分転換にもなるので、私の1本は『マンマ・ミーア!』です。
ミュージカルが好きで、歌っているのが好きなんです。
素晴らしい楽曲と、わかりやすいハッピーな話。(ソフィ役の)アマンダちゃんが可愛すぎるのも大好きです。
自分の悩みもなくなるぐらいのハッピーな歌声とダンスと、映像もとっても綺麗なので、いつもこれを観て、私はリセットしています。
この日常からちょっと非日常になれるというか、そういうふうにこの作品と長いことお付き合いさせてもらってますね(笑)。