—— 練馬区の思い出や、印象的な場所などはありますか?
加藤:やはり東映東京撮影所【1】が一番大きいですね。Vシネマ【2】、その後の映画、それからテレビの作品でもほぼほぼ東映東京撮影所に関わっています。数限りなく通いましたし、いろいろな仕事をその中でやっています。
一般の方はわかりづらいかもしれませんが、撮影所には大きく言うと3つ機能があります。
一つは撮影の準備や、機材や必要な道具を置いたり、撮影に関する物事を回していく場所。我々はスタッフルームと呼んでいます。
もう一つは、皆さんご存知と思います、ステージ。大きい倉庫みたいな建物があって、その中にセットを組んで撮影をします。
セットは土木に近い形で、トンテンカンテンと建てなきゃいけないので、人件費も含めて、結構お金がかかる。
その代わり(借りた建物や部屋などと違い)自由に撮れるという、自由度の高さがあります。
ただこれは予算が高いので、僕のやってきた仕事でこのシステムを使ったことはあまりないです。
最後の一つが、皆さん意外と知らないかもしれない、仕上げとしての機能です。
撮った映像を切り出して編集をして、その後この映像に音をつけていくわけです。音楽や効果音、それから録った音を調整して聞きやすくするとか。この仕上げの作業でデジタル合成なども行います。私はこの仕上げに関する部分でよくお邪魔していました。
一時期は週何回か、仕上げや準備で大泉にいたことが結構多かったですね。
—— 2019年5月公開の映画『としまえん』【3】にも関わってらっしゃいます
加藤:この作品は、元々は東映ビデオ【4】で「お安い(低予算の)映画をやろうよ」っていう話をしていて、いろいろなところで打ち合わせをしていました。東映東京撮影所の現・所長の木次谷良助さん【5】と話をする中で、彼らも大きい作品ばかり受けるのではなく、小さい作品も受けて数を増やしたいという思いがあった。そのために第2制作部を作るので、そこに担当させてもらえないか?という話になったんです。それで2本、新生の東映東京撮影所第2制作部でやってもらうことになり、一つはBL(映画『花は咲くか』【6】)で、もう一つがこの映画『としまえん』でした。
撮影所で助監督をやっていた社員の高橋浩さん【7】が『としまえん』で監督するということも含めて、東映東京撮影所と東映ビデオで、マッチングして制作しました。
木次谷さんは、としまえんさん【8】や練馬区関係のいろいろな方とお知り合いで、「としまえんの中だけで物事をやってみる」って話に賛同していただけました。
としまえんさんには非常によくしていただきました。1ヶ所であれだけの「撮り物」(撮って絵になる対象物)があるのはもうレアケースで、ありがたいとしか言いようがなかったです。
練馬区役所さんにも色々な折衝のお手伝いをしていただいて、我々としては非常にありがたい、とても思い出に残っている作品です。
—— ありがとうございます。東京撮影所での加藤さんのお仕事のお話ですが、準備と仕上げが多かったということですね。
加藤:そうです。東映東京撮影所自体も、第1・第2制作部があって何度か制作をお願いしたことがあります。あとは『相棒』【9】だったりとか、『スーパー戦隊シリーズ』【10】、『仮面ライダーシリーズ』【11】などを作っている東映テレビ・プロダクション(通称:テレビプロ)に制作をお願いすることもありました。
でも、どちらかというと、東映ビデオの作品を持っていって、撮影所で仕上げをすることが多かったです。
東映ビデオの子会社「セントラル・アーツ」【12】(TVドラマ『探偵物語』【13】や『あぶない刑事』【14】 などを制作していた制作会社。社長は黒澤満さん【15】)で制作することがすごく多かったので。
—— セットを建てずに撮影所自体で撮影することもあったと伺いました。
加藤:これはどこもやっていることで、我々は「所内を飾る」って言い方をします。
例えば、ちょっとした飲み屋横丁の小路なんかを、所内に看板を置いたり、ぼんぼりを吊るしたりして作るんです。
夜間の撮影となると、光量が必要で当然照明をたかなきゃいけない。実際の飲み屋街にお邪魔してナイターで撮るとなると、ご迷惑をかけてしまうこともありますし、使用料が発生したり、撮影できる時間が限られたりする。だから所内でやるのが一番いいんです。
—— 2005年のTVドラマ『Sh15uya』(シブヤフィフティーン)【16】も第1話ではずいぶん所内を使ったと伺いました。
加藤:そうですね、ほぼ所内です(笑)。
渋谷の話なので、実際に行ってもいますが、現実の渋谷は皆さんがよくご存知のあたりがほぼ撮影禁止でほとんど撮れない。だから渋谷らしいところをバックにしてちょっと撮影して、角を曲がったら、もう撮影所に飾った小路に入る。みたいな感じでした。
『Sh15uya』って、「シブヤ」って言った瞬間に自分たちでハードルをめっちゃ上げてるワケです(笑)。
とはいえ第1話は、やっぱり一番派手にしなきゃいけないし、いろいろ説明しなきゃ視聴者がわからないから、そのための出し物もいっぱい出さないといけないというのもありました。
『Sh15uya』はサイバーな設定の美少女変身SFなんです。
それで当時、アメリカから帰って来たアクション監督の横山誠さん【17】に入ってもらい、当時非常に珍しかったワイヤーアクション【18】を取り入れたんです。
ただ、ワイヤーアクションのためには、高いところに滑車を吊らなければならず、これを撮影場の外でやろうとするとクレーン車を持って行かなきゃいけない。これはなかなか大変なので、撮影所内でやることが多かったですね。
あとロイター板(跳び箱の踏み切り板)みたいなもので、ガス圧で跳ね上げて人間を吹っ飛ばす装置があるんです。アホじゃないの?ってくらい飛ばせるんですが、そういうのもロケ先では使えないので、所内で撮影しました。
そういう目新しいものを出して、視聴者の興味を引きたかったので、第1話は特に撮影所が非常に多くというか、最初の渋谷を撮ったら後は撮影所って感じでしたね。
—— 第1話のアクションはすごく派手で、帰国した横山誠さんはアクション監督デビュー戦を見事に飾ったような印象です。
加藤:ワイヤーを引く人を、ワイヤーリガーっていうんです。滑車があって、てこの応用で人が宙を舞うんですけど、ワイヤーリガーの方たちがそのシステムを組むときに、物理の教科書を持ってくるんですよ。
「ここにやると1/4になって、ここに掛けるから1/8の力になるはず。そのかわりスピードがこうなる」なんて計算を、教科書を持ちながらやっているんですよ。
本当にあの当時は珍しいことだったので、大変興味深く、当時私もメイキングで撮っていました。
本当に凄かったですよ。夕方過ぎてからのナイター撮影でしたが、夕方4時過ぎぐらいから段取りを始めたら、所内からどんどん人が集まるんです。JACさん【19】とかがものすごい勢いで見に来て、ギャラリーがめちゃくちゃ多くて(笑)。メイキングにもチラっと映っていると思います。大変面白かったですね。
—— 『Sh15uya』のプロデューサーとして、今、振り返ってどのように感じられますか?
加藤:めちゃくちゃ面白かったですよ(笑)。
ド深夜で、しかも首都圏だけしかやってないっていう代物でしたけど、TVでできることの「極み」みたいなところをやれたかなと思います。夜中の2時の番組なのに、「お金も時間も掛かるフル3Dの化け物が出てきて襲われるっていうのって、おかしくない?」って(笑)。
変身美少女役の新垣結衣さん【20】が、ほぼデビューに近いような形で一緒にやらせていただけましたし、面白かったですね。
日本の今の特撮が、そこからどこまで進化しているのかというと、見せ方自体は進化していると思うんですけど、特撮合成だったりはそこまで進化してないじゃない?と思ったりもするので、そこからどんどん前に進んで世界をリードできるぐらいのところまで行かなきゃな。と思います。
—— 横山アクション監督とは、劇場版『仮面ライダー THE FIRST』【21】でもご一緒されています。物語前半で1号ライダーがビルの上から落ちて着地するアクションが印象的でした。
加藤:いろいろなカットが重なっていますが、着地のカットそのものは屋外で撮りました。
テストのときに、さっきの物理の教科書が出てくるんですよ。本当に生きる死ぬの問題なので、飛び降りる人間が自分で全部計算して、「絶対大丈夫」というところまで納得して。
ワイヤーの先にブレーキがついているんです。それで、ある距離までくると、ワイヤーに対してブレーキがかかる。ただワイヤーは伸びるので、どこまで引っ張って上げるかによって変わってしまう。事前に計算はしていますが、一発勝負になってしまうんです。
思ったよりもワイヤーが伸びたので、かなり激しくかかとを打っていたはずなんですけど、横山さんのチームは痛いの大好きなので(笑)。
でもセーフティを取りすぎちゃうと、地上にバウンドしない状態で空中でブラーンって止まってしまう。だから「痛い目に合わなきゃしょうがない」って理屈になって。あれはたまげました(笑)。
—— 作品全体として『仮面ライダー THE FIRST』と続編の『仮面ライダー THE NEXT』【22】の2本を、プロデューサーとしてどのように振り返りますか
加藤:もう一度、石ノ森章太郎先生【23】の原作の『仮面ライダー』【24】に戻ろうっていうことをやったんですね。
仮面ライダーっていろんな要素がくっついていって、バイクに乗らない仮面ドライバーもいたり、どんどん変わっていく。それも大変いいことだと思うんです。
でも、石ノ森先生が描いたものにもう1回戻ろうよというのは、やってみたら面白くて。
石ノ森先生の仮面ライダーは、マスクを装着して仮面ライダーになる。そのパワーは人体改造によって得られたものであり、マスクやスーツが強化するものではない。そしてそれによって生まれるファンタジーのアクションを、当時日本で一番新しい方法でお見せできたのは、非常に楽しかったし、非常に名誉なことだったと思います。
明日の勇気につながる2作加藤和夫さんのおススメ!
『狂い咲きサンダーロード』
(1980年/日本/監督:石井聰亙/脚本:石井聰亙、平柳益実、秋田光彦/出演:山田辰夫、中島陽典、南条弘二、小林稔侍 ほか)
幻の街サンダーロード。権力に日和った暴走族に反旗を翻し、暴走を続ける仁。しかし、これを心よく思わないエルボー連合に報復され、手足を切断されてしまう。だが、復讐に燃える仁は闇マーケットで得た仲間の協力を得て戦闘マシーンと化し、エルボー連合との最終決戦に挑む!
加藤:1本ということでしたが、僕がなぜこの商売を目指したかっていう大事な映画も1本あったんで、2本紹介させていただきます。
この『狂い咲きサンダーロード』を観て、映画を商売にしたいなと思ったんです。
こんな狂ったことができるんだったら、映画でご飯が食べられるようになりたいと。
本当にかっこいい映画で、音楽もめちゃくちゃかっこいいんですよ。
DVDまでにはなってるはずなんで、観られるツテがあれば、ぜひ観ていただきたいです。
『デルタ・フォース』
(1986年/アメリカ・イスラエル/監督:メナヘム・ゴーラン/脚本:ジェームス・ブルーナー、メナハム・ゴーラン/出演:チャック・ノリス、リー・マーヴィン、ロバート・ヴォーン ほか)
カイロ発ニューヨーク行きの旅客機ATW282便がアラブ人テロリストにハイジャックされた。アメリカ陸軍特殊部隊デルタフォースのニック・アレクサンダー大佐は、退役していたスコット・マッコイ少佐を召集。困難な救出作戦に挑む!
加藤:あなたの映画ベスト1はなんですか?とよく聞かれますが、それは愚問だと思っていまして。ベスト1は20本ぐらいあるんです(笑)。
でも、新人たちに「こういうのを観ろ」という時などに出すのが『デルタ・フォース』です。
アメリカの一時期のとんでもない大B級映画の中の一つです。お話もよくできているんですけど、全体に無駄がないんです。アクション映画として無駄がないというのは、実はすごく難しいんです。
おすすめできる作品はいろいろあるんですけど、よっぽどのことがない限り観る気にならないような作品を出しておいた方が、皆さんの一つの知恵になるのかしらと思いました(笑)。
この2本をぜひご覧なっていただきたいですね。