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ねりま映像人インタビュー

第15回 堀江慶監督 後編

第15回 堀江慶監督 後編

2022.10.14

こちらのコンテンツは音声でもお楽しみいただけます。

※現在の社会状況を考慮しビデオ会議システムを使用して収録いたしました。通信環境の状況により、音声が一部お聞き苦しい箇所がございます。ご了承ください
練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化の関わりを紹介する「ねりま映像人インタビュー」。
今回のゲストも、映画監督の堀江慶さんです。
今回は、東映東京撮影所での『百獣戦隊ガオレンジャー』のお仕事と、その後の監督としてのお仕事、また映像制作会社設立についてもお伺いします。

—— 2001年放送の『百獣戦隊ガオレンジャー』【1】でガオイエロー=鷲尾岳(わしおがく)役でレギュラー出演したきっかけは?

堀江:大学在学中にスカウトされた事務所からの、オーディションですね。その前の『未来戦隊タイムレンジャー』【2】『仮面ライダークウガ』【3】も受けたんですが落ちちゃって。でも、どちらも良いところまでは残ったらしく「次も来てくれ」と言われて。目をかけてもらってたのか、最終みたいなところによばれて出演が決まりました。
それが大学3年の時だったんですが、僕は卒業制作を撮りたくてたまらない人間だったんですよ(笑)。
大泉で夕方まで撮影して、そのまま江古田の(日藝【4】の)編集室に直行して、夜11時くらいまで作業させてもらいました。

—— 1年間続く作品に参加したことを、どのように感じられましたか?

堀江:若かったというのもあるんでしょうけど、1年間も演じていると、だんだんと役が身体に馴染んでいくというか、気持ちもその人になっていくんですね。そういう意味では純粋だったんだなと思います。
俳優人生で一番幸せな仕事だと思います。
また、映画とは違って「何日までにこれを撮って」というシステマチックなものを見られたのは良い経験でしたね。監督として「こうやって作品を作っていくものもあるんだ」と気づけたのは、全部終わった頃でしたけど。

—— 1年間の撮影で、印象に残っていることは?

堀江:撮影の最後、泣きましたね。泣くようなタイプではないですが、それが「1年間」という事だと思います。
最初は「俺がヒーローものを演じるのか」と思っていたのが、まんまとハマったなぁって。そういう意味でも、1年間って大きい仕事でしたね。

—— 『ガオレンジャー』の後も、監督業をしながら俳優の仕事も続けておられました

堀江:『ガオレンジャー』が終わってすぐに、結婚したんです。そして卒業制作『グローウィン グローウィン』【5】を公開したのが同じ頃でした。『ガオレンジャー』のファンが映画を観に来てくれたりもしていたんですが、僕はやっぱり監督をしたかった。だから、俳優は早々に辞めようと思っていました。みんなびっくりしてたけど、なんなら『ガオレンジャー』を最後にしようってくらいだったんです。でも、たまたま俳優の仕事がいくつか来て、子どもも生まれて生活費を稼がなきゃならないし(笑)受けられる仕事は受けようと。
25歳の終わりの頃に『ベロニカは死ぬことにした』【6】の監督のオファーが来て、これは取材もふくめて集中して取り組もうと、タイミングも良かったので俳優を辞めて、監督1本に絞りました。

—— 監督としての、純粋な商業デビュー作、TVドラマ『ハッピーゴーゴー』【7】は、どのようなきっかけで?

堀江:学生時代にバラエティーのADをしていた時に、プロデューサーから「お前、映画を撮ってるらしいな」って言われて。「番組内のミニドラマだけど、これだけ予算があるから1本やってみろ」って戴いた仕事でした。
加藤紀子さん主演で、オリジナル脚本で好きな事やっていいといわれたので楽しかったです。
でも、助監督経験もなかったし、オファーを受けるなんて初めてで嬉しすぎて、プロ意識が薄かったなというのが反省点ですね。
例えば、この俳優さんを美しく撮ることが、この企画の大きな意図だったのを知らないとか、プロジェクト全体で何を狙っているのかという大枠をわかっていないとか。そういうのが反省ですよ。

—— 2006年の『ベロニカは死ぬことにした』は、脚本家の筒井ともみさん【8】がプロデュースした作品でした

堀江:僕の中期の作品で、自分でも上手くいったなっていう『全身と小指』【9】って映画がありまして、それを観た筒井ともみさんから電話がかかってきました。 『全身と小指』は、『グローウィン グローウィン』のような生きるか死ぬかのタブーみたいなのをまたやりたくて、兄と妹の禁断の恋をテーマにしたR-18作品だったんですけど、それを観た筒井さんが「すごく合致した」と言ってくれたのは嬉しかったですね。

—— 『ベロニカは死ぬことにした』と、『グローウィン グローウィン』は、合わせ鏡のようにも見えます

堀江:そういっていただけて嬉しいですね。2002年の『グローウィン グローウィン』から、2006年の『ベロニカは死ぬことにした』の間に結婚して、子どもが生まれたことが自分の中ではすごく大きくて。同じ「自殺」というテーマに立ち向かうことができたのは、その5年間のおかげだと思います。 それは僕にとってもすごく良かったです。

—— 2015年公開の『忘れないと誓ったぼくがいた』【10】も、素晴らしい作品でした

堀江:原作を読んで、思い出って忘れていくものだけど、それが目に見えて消えていくのをビジュアルにしたら面白いなと思ったんです。そういう「忘れることって悲しいな」という感覚を残したいなって。
演出としては、入念なリハーサルをしました。若い2人に(役に)ハマってほしいなと。「小手先で出来る世界じゃないから、相手を想うことについて真摯に考えてほしい」なんて話しながら、お芝居を固めていきました。

—— 2010年に株式会社CORNFLAKES【11】を設立され、映像制作全般に乗り出されましたが、そのきっかけは?

堀江:映画やドラマの監督としての仕事が、その先も安定していくのかな?という不安が20代後半から30歳くらいの頃にあったんです。当時それなりに食べていけてましたけど、40、50代になった時に、職人として生きていくのは大変だなと。それで制作母体を作ろうと思ったんです。
(作品を)バジェットで受けて、その中で自分でできるようなら監督して、作品に向いた監督がいればその人に譲って、僕はラインプロデューサーとして受けていく。そのつもりで立ち上げたんです。
とはいえすぐに仕事が来るわけでもないので、細かく関われる仕事はないかな?と、CGも始めました。CGアーティストを何人か呼んで日々の仕事を回す感じで、たまに僕もCGのディレクターとして入って『戦国無双』【12】とか『三国無双』【13】などに携わった時期もありました。

—— これからやりたいことはありますか?

堀江:個人的な野望としては、オリジナル作品でバズりたいですね。心理的なことじゃなくて、影響力のあるものとして。
長尺の映画かどうかはわからないけど、培ってきたのは物語ですから。
劇映画で、ドラマで、今の若い子も年上の映画界の先輩方も「すごいもの作っちゃったな」って、全世代が納得するバズり方がしたい(笑)。 フォーマットは考えなくていいかな。逆にフォーマットにこだわると失敗すると思います。
舞台がいいのか、CGのゲームなのかわからないですけれど。でも、もう少しで出てくるんじゃないかって気はしています。

—— これまでを振り返って、日藝時代は堀江さんにとってどんな糧になっていると思いますか?

堀江:映画とか映像を目指している人は、入り口にもなるのでそういう学校に行ったほうが良いと思います。仲間もできるし、そういうことばかり考えている人たちと共に過ごせる時間は、かけがえがない気がします。
僕が練馬で過ごしたのは2年間でしたが、学校の外でも中でも仲間に囲まれて幸せでした。
学校に行くのは、オススメです。

—— 最後にメッセージをお願いします

堀江:今はスマホで撮ってなんでもできる、SNSでいくらでも表現できる時代ですから。映像、演劇、デザインに拘わらず、フォーマットにはこだわらず、大小の場を考えないでどんどん表現して発信して良いと思います。 自分にとっての1本とか作品は、年齢関係なく人生に於いて大事です。
そういうものが残せると人の豊かさが変わる、成長させると思うので、もし自分の中で表現したいものがあったら、小さなことからでもぜひやってみてほしいですね。 ありがとうございました。

音声版では、更にいろいろな話が出てきます。
是非お聴きください。

プロフィール

堀江慶(ほりえ けい)
プロデューサー・監督・脚本・演出家。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。劇団東京乾電池を経て、大学在学中から俳優として『百獣戦隊ガオレンジャー』など数々の作品に出演。真木よう子主演の映画『ベロニカは死ぬことにした』で初の商業映画を監督。以降 『センチメンタルヤスコ』『忘れないと誓ったぼくがいた』などの脚本・監督をてがける。
2010年、映像プロダクションとして株式会社CORNFLAKESを設立。映画、ドラマ、PV、ゲーム、舞台演出と活動の場を広げている。

登場する作品名・人物名等の解説

【1】『百獣戦隊ガオレンジャー』
東映制作の特撮アクションドラマ「スーパー戦隊シリーズ」第25作目。2001年2月~2002年2月放送。全51話。百獣の王・ライオンをはじめとする動物をモチーフとしている。ガオレンジャーのメンバーは、ガオイエロー=鷲尾岳役の堀江さんを始め、金子昇、酒井一圭、玉山鉄二などが出演。
【2】『未来戦隊タイムレンジャー』
東映制作の特撮アクションドラマ「スーパー戦隊シリーズ」第24作目。2000年2月~2001年2月放送。全51話。「時間」をテーマにしている。タイムレンジャーのメンバーは、永井マサル、勝村美香など。
【3】『仮面ライダークウガ』
東映制作の特撮アクションドラマ「平成仮面ライダーシリーズ」第1作。2000年1月~2001年1月放送。全49話。TVシリーズとしては、『仮面ライダーBLACK RX』から10年ぶりの「仮面ライダー」作品となる。仮面ライダークウガ=五代雄介(ごだい ゆうすけ)を、オダギリジョーが演じた。
【4】日本大学芸術学部
略称・日藝。練馬区江古田にキャンパスがある。写真、映画、美術、音楽、文芸、演劇、放送、デザインの8学科があり、映画や放送、芸能、写真、マスコミなど、数多くの人材を輩出している。
1989年から2019年まで埼玉県所沢市に所沢キャンパスがあったが、現在は全学年が江古田キャンパスにて修学している。
【5】『グローウィン グローウィン』
2001年に制作され、2002年に公開された堀江慶監督作品。「集団自殺の会」への参加を決意した青年が、高校時代の友人と共に、自転車で旅をする姿が描かれる。
【6】『ベロニカは死ぬことにした』
2005年に制作され、2006年に公開された堀江慶監督作品。パウロ・コエーリョの同名小説を映画化。主演は真木よう子。
【7】『ハッピーゴーゴー』
2002年に放送された堀江慶監督によるTVドラマ。フジテレビの深夜番組「ハローランド」内のミニドラマとして全8話が制作された。番組MCの加藤紀子をはじめ、津田寛治、松金よね子、秋本奈緒美、蛭子能収などが出演している。
【8】筒井ともみ(つつい ともみ)さん
脚本家・小説家。1976年にTVアニメ『ドン・チャック物語』で脚本家デビュー。1978年のテレビドラマ『透明ドリちゃん』以降、『太陽戦隊サンバルカン』など東映制作の作品の脚本も手掛けた。代表作に『華の乱』『失楽園』『海猫』『食べる女』など。 『ベロニカは死ぬことにした』では、脚本執筆とプロデュースを兼任した。
【9】『全身と小指』
2005年に制作され、2006年に公開された堀江慶監督作品。出演に池内博之、福田明子、片岡礼子など。兄妹の禁断の恋を描いたR-18作品。
【10】『忘れないと誓ったぼくがいた』
2015年に公開された堀江慶監督作品。平山瑞穂による同名ファンタジー小説を映画化。主演は村上虹郎、早見あかり。会った数時間後に相手の記憶から消えてしまう現象に苦しむヒロインと、彼女を忘れないために奮闘する青年の切ない恋を描く。
【11】株式会社CORNFLAKES
2010年に新たな創作の活動母体として堀江慶監督が設立した、幅広いエンタテインメントに対応した制作プロダクション。
【12】『戦国無双』
日本の戦国時代を舞台にしたアクションゲームシリーズ。堀江監督は、『戦国無双4』(2014)『戦国無双4-II』(2015)のシナリオ監修、CG総監督を務めた。
【13】『真・三國無双』
「三国志」や「三国志演義」をモチーフにしたアクションゲームシリーズ。堀江監督は、『真・三國無双6』(2011)のCG監督、『真・三國無双7Empires』(2014)のOP監督を務めた。
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