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ねりま映像人インタビュー

第14回 堀江慶監督 前編

第14回 堀江慶監督 前編

2022.10.05

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※現在の社会状況を考慮しビデオ会議システムを使用して収録いたしました。通信環境の状況により、音声が一部お聞き苦しい箇所がございます。ご了承ください
練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化の関わりを紹介する「ねりま映像人インタビュー」。
今回と次回のゲストは、映画監督の堀江慶さんです。
堀江監督は、日本大学芸術学部映画学科に入学。並行して俳優としても活動され、東映東京撮影所で制作された『百獣戦隊ガオレンジャー』にレギュラー出演されました。
卒業制作作品『グローウィン グローウィン』は各国の映画祭で注目を浴び、テレビドラマ『ハッピーゴーゴー』、映画『ベロニカは死ぬことにした』『忘れないと誓ったぼくがいた』などの話題作を次々と発表されました。
今回は、日大芸術学部在学中のお話を中心にお伺いします。

—— 日本大学芸術学部【1】時代は、練馬区にお住まいだったと伺いました

堀江:大学の1、2年は所沢校舎で、実家から1時間半くらいかけて通っていたのですが、さすがに疲れちゃって。親に下宿させてくれって頼んで、3年生からは桜台に住みました。バイトしてアパート代は自分で出して通っていましたね。

—— その頃の思い出は?

堀江:20年前なのですが、目白通りと西武線の架け替えを一晩でやるというのがニュースになったんです。僕のアパートから近かったので、友達と2人でお酒を持って見物に行ったんです。工事現場の近くで眺めていたんですが、肝心の架け替え工事は時間が掛かっていて、眠くなって帰っちゃったんですよ(笑)
たぶんお酒が飲みたかったんですね。でも、「一晩で架け替えるって凄いよな!」って話していたのを覚えています。今でも目白通りを通ると、当時を思い出しますね。

—— いつごろから、映像制作を意識するようになったのでしょうか?

堀江:小学生とか、けっこう早かったと思います。母が声楽などをやっていた関係で、オペラとかミュージカルとかクラシックのコンサートなんかを聴きに行っていたのですが、もっとリアルなものがやりたいって心が芽生えてきて、レンタルビデオで映画を借りてきて沢山観るようになりました。『ロッキー4』【2】とか『グーニーズ』【3】とか、みんなが好きそうな映画は観ていましたね(笑)。
あと、黒澤明さん【4】『乱』【5】とかをおじいちゃんに連れられて観て、「日本の映画って面白いんだな」と影響を受けました。 実際に作品作りを意識したのは、中学校で進路を考えたときですかね。

—— 日芸を選んだきっかけは?

堀江:自分としては映画に行きたかったし、大学で映画を学べるのは唯一、日芸だけ(当時)だったんです。そこからは戦略的だったんですけど、大学受験をするとして日大の付属校に行けば日芸へのラインが見えるかな?ってことで、日本大学鶴ヶ丘高校に行きました。
高校では、脚本の真似事みたいなことを始めたのですが、わりと普通の高校で、普通の友達ばかりだったので、映画を作ってみようとはならなかったんです。それで高校の2年生の時に、自分が気楽に始められるんじゃないかと、俳優の養成所に応募して通い始めたんです。ちょっとミーハー心もあったのですが(笑)。 俳優を始めたことが、映画とか芸能に関わる最初でしたね。

—— そして、日芸に入学されました

堀江:大学に入った頃には、俳優としてTVや映画なんかにも出させてもらってとても楽しかったのですが、ちゃんと大学で勉強しようと事務所は辞めたんです。日芸には俳優コースもありますが、卒業制作で映画を作れる監督コースを迷わず受験しました。
今もあまり変わってないようですが、1,2年は教養の授業があって、映画についての座学もありますが、監督コースは最初から実習があって、ビデオを使ってドキュメンタリーや5分短編などを撮っていました。
2年生の終わりごろになると、監督コース、撮影コース、録音コースから相方を見つけてチームを組んで、5分や10分の短編を練習しました。
16mmのフィルムで、ちゃんとダビングまでしてしっかりとした1本を仕上げる15分短編を作ったのは3年生です。
そして、30分以上の長編映画に挑戦するっていうのが、卒業制作でした。
4年間で長短あわせて劇映画は4本くらいしか撮れなかったんじゃなかったかな。
僕は4年生の卒業制作で、(監督)デビューしたいって野望がありまして。
商業ベースに乗るような長さ(結果的に92分)にはめられるよう計算して。そこに行きつけるよう、2、3年生で撮るものを考えて、着実に撮って行って、卒業制作でデビューさせていただきました。

—— 卒業制作でデビューするまでを、戦略的に捉えられていたのですね

堀江:ただ、1年生終わりの学園祭で、僕が憧れていた黒沢清監督【6】と、脚本家の高橋洋さん【7】のトークショーを企画して、実行委員長をしたんです。
その時にゲストの枠に劇団東京乾電池【8】のマネージャーさんがいらしていて、名刺を渡されて「俳優をやってみない?」とスカウトされました。
一度やめてから半年くらいで俳優に戻れて、オーディションを受けたり俳優として出演しながら、大学の実習をやっていました。高校の時みたいにミーハー心がない時の方が、良い出会いがあるものですね(笑)。

—— 学校のカリキュラムの他に、自主制作もされていたのですか?

堀江:2年生の時に8mmフィルムで、26分のコンビニ強盗の映画を作りました。それがちゃんとした初監督作品ですね。その頃の学校の仲間を集めて作った作品です。
3、4年になると学校外の人とも知り合って、仲間が増えていきました。俳優の仕事の時の助手さんとか。
でも、そんなに本数は撮ってないです。学校もあったし、ADのバイトもしていたので。

—— ADの経験も?

堀江山崎まさよしさん【9】のPVやライブについていました。あと、僕も出演していた『あいのり』【10】のディレクターに気に入ってもらえて、その方の番組のADについていたんです。ADと自主制作をやりながら学校の課題をやっていたので、ハード過ぎましたね(笑)。
江古田に近い桜台に住んだのは、24時間仕事とか映画とか学校のことをやっていたいって流れもあったからですね。

—— プロの世界でやっていくという覚悟は、その頃に決まっていたのですか?

堀江:そうですね。学校の外でもたくさん影響を受けていましたから、他の学生よりは意識が高かったと思います。
卒業制作で監督デビューして、早く作品を作りたいと思っていましたから、卒業制作で長編を撮るための試算をしたんです。すると、90分の作品で500万円くらい掛かると。そこでスポンサー集めに動いて、650万円集まりました。それは、学校の外でたくさんの知り合いができたから、いろんなところにお願いに行けたのが良かったなと思います。
やっていけるかなと思ったのは、卒業制作『グローウィン グローウィン』【11】が完成した時ですね。これは世に出せば、名刺代わりになって広がっていけるかもしれないと。

—— 2002年に公開された『グローウィン グローウィン』は、インターネットで知った「集団自殺サークル」に参加しようとする話ですが、このようなテーマで制作しようとしたきっかけは?

堀江:自分はスリルが好きで、「生きるか死ぬか」みたいな状況に憧れがあるんです。そういうものの先にこそ「生」が見えるというか、そういう題材をやりたかったんです。
そういう状況に置かれた時に、愛は激しく燃えるものだし、人生を考えるじゃないですか。
自分の中の琴線に触れるような物を調べているうちに、その危うさみたいなものから生を感じられるお話を作ろうとなって、自殺を題材にしました。
改めて観なおすと、僕も若いしスタッフも若いし技術も若いけれど、稚拙さが故に純粋というのを感じますね。
仕事で知り合った方から紹介してもらったりして、三輪明日美さん【12】など学生からするとなかなかできないキャスティングができました。
でも、当時500~600万円くらいの映画でも、回収するのは大変でした。映画を公開してDVDを出して、2年掛かってようやく回収できました。映画ってビジネスは大変だなと、23歳くらいで思いました。

—— 各国の映画祭などに招待されましたが、その時の手ごたえは?

堀江:ドイツでキリスト教会のエキュメニック賞【13】をもらったりしたのですが、ヨーロッパや宗教観のある国は、死と生について真剣だったり真摯なんだなと感じました。それがすごく嬉しいというか、自分よりももっと理解が高いんじゃないかなと思わされるくらいでしたね。

—— ありがとうございました。次回もぜひよろしくお願いします

堀江:ありがとうございました。

明日の勇気につながる1作堀江慶監督のおススメ!

『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』
(1984年/日本/監督:押井守/原作・高橋留美子/出演:古川登志夫、平野文、鷲尾真知子、藤岡琢也 ほか)
廃墟と化した友引高校で呆けている諸星あたる。いったい友引高校に何が起きたというのか――。
あたるとラムが通う友引高校は、本番を明日にひかえた文化祭の準備で大騒ぎ。だが翌日も、あたるたちは文化祭の準備をしている・・・。実は友引高校、いや友引町は、同じ日を延々と繰り返していたのだ!

堀江:僕の育った世代よりも少し前の作品です、ラッキーなことに劇場で観る機会があって。それから何回観たかなって?ってくらい衝撃的で。
文化祭前の1日が繰り返される若さの退屈な日々から大事なものが見えなくなった男の子が、考えさせられて考えさせられて、大事な人の存在に気づいて新しい1歩を踏み出す。
そんなシンプルな話を、素晴らしいSFと世界観で表現していて、若い頃はそこが好きで何度も観ていました。
でも今、自分がこの歳になって家族ができて思うのは、この映画が好きなのはSF要素だけじゃなくて、学生時代のしっちゃかめっちゃかで明日もわからないような日々の先に、大事なものに気づくという部分も気に入っていたのかなと。
実は卒業制作の『グローウィン グローウィン』のメイクさんが僕の奥さんなんです。結婚して20年になりますが、今も一緒にいるのが幸せだなと。
だから今、この映画を観ると、自分とリンクしたかな。自分の選択は正しかったんだなと、勇気が出ますね。
音声版では、更にいろいろな話が出てきます。
是非お聴きください。

プロフィール

堀江慶(ほりえ けい)
プロデューサー・監督・脚本・演出家。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。劇団東京乾電池を経て、大学在学中から俳優として『百獣戦隊ガオレンジャー』など数々の作品に出演。真木よう子主演の映画『ベロニカは死ぬことにした』で初の商業映画を監督。以降 『センチメンタルヤスコ』『忘れないと誓ったぼくがいた』などの脚本・監督をてがける。
2010年、映像プロダクションとして株式会社CORNFLAKESを設立。映画、ドラマ、PV、ゲーム、舞台演出と活動の場を広げている。

登場する作品名・人物名等の解説

【1】日本大学芸術学部
略称・日芸。練馬区江古田にキャンパスがある。写真、映画、美術、音楽、文芸、演劇、放送、デザインの8学科があり、映画や放送、芸能、写真、マスコミなど、数多くの人材を輩出している。
1989年から2019年まで埼玉県所沢市に所沢キャンパスがあったが、現在は全学年が江古田キャンパスにて修学している。
【2】『ロッキー4/炎の友情』
日本では1986年に公開された、シルベスター・スタローン主演・監督作品。『ロッキー』シリーズ第4作で、シリーズ最高のヒットを記録した。2021年には、未公開映像を加え再編集した『ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV』がアメリカで限定公開、日本でも2022年8月より公開された。
【3】『グーニーズ』
1985年に公開された、リチャード・ドナー監督作品。伝説の海賊が隠したという財宝を探す、少年少女たちの冒険が描かれる。
【4】黒澤明(くろさわ あきら)さん
映画監督。1951年『羅生門』でヴェネチア国際映画祭グランプリを獲得するなど、世界のクロサワとして名声を博す。代表作に『野良犬』『生きる』『七人の侍』『蜘蛛巣城』『用心棒』『天国と地獄』『赤ひげ』『影武者』『乱』など。映画手法の面でも内外の映画作家に大きな影響を与え、映画界の至宝と称される。1985年に映画界初となる文化勲章受章。
【5】『乱』
1985年に公開された、黒澤明監督作品。シェイクスピアの『リア王』をベースとし、毛利元就とその息子三兄弟の逸話をヒントに描かれた絢爛豪華な戦国絵巻。
【6】黒沢清(くろさわ きよし)さん
映画監督。1989年の『スウィートホーム』でメジャーデビュー。代表作に、『CURE』『回路』『トウキョウソナタ』『岸辺の旅』『散歩する侵略者』『スパイの妻〈劇場版〉』など。作品は国内外で高く評価されている。2005年に東京芸術大学大学院の映像研究科映画専攻教授に就任、監督業と並行して映像教育にも携っている。
【7】高橋洋(たかはし ひろし)さん
脚本家、映画監督。1990年に森崎東監督のTVドラマ『離婚・恐婚・連婚』で脚本家デビュー。代表作に『女優霊』、『リング』シリーズ、『予兆 散歩する侵略者』など。2004年には『ソドムの市』で長編映画監督デビューも果たしている。
【8】劇団東京乾電池
1976年に、俳優の柄本明、ベンガル、綾田俊樹によって結成された劇団。座長は柄本明が務める。現在は下北沢に「アトリエ乾電池」を構え、70名を超す座員を擁している。
【9】山崎まさよし(やまざき まさよし)さん
シンガーソングライター、俳優。1995年に「月明かりに照らされて」でデビュー。1997年公開の主演映画『月とキャベツ』の主題歌「One more time, One more chance」がロングヒットし、ブレイクする。以後、ミュージシャン、俳優として活躍。代表曲に「セロリ」「僕はここにいる」「全部、君だった。」「8月のクリスマス」「空へ」「影踏み」など。TVドラマ『奇跡の人』、映画『8月のクリスマス』『影踏み』では主題歌と共に主演も務めている。
【10】『あいのり』
1999~2009年まで放送されていた恋愛バラエティ番組。ラブワゴンに乗り様々な国で旅をする男女7人の恋愛模様を追う。放送終了後も、後続番組が放送・配信されている。
【11】『グローウィン グローウィン』
2001年に制作され、2002年に公開された堀江慶監督作品。「集団自殺の会」への参加を決意した青年が、高校時代の友人と共に、自転車で旅をする姿が描かれる。
【12】三輪明日美(みわ あすみ)さん
女優。1998年の庵野秀明監督作品『ラブ&ポップ』に主演し、第20回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。代表作に『17才』『ブギーポップは笑わない』など。
『グローウィン グローウィン』では、久美(くみ)を演じた。
【13】エキュメニック賞
マンハイムハイデルベルク国際映画祭における「エキュメニック審査員特別賞」のこと。ドイツではベルリン国際映画祭に次いで歴史ある映画祭で、エキュメニック審査員特別賞はキリスト教関連団体から贈られる。
『グローウィン グローウィン』は、2002年に開催された同映画祭のコンペティション部門で受賞している。
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