映像∞文化のまち ねりま

ねりま映像人インタビュー

第11回 橋本一監督 後編

第11回 橋本一監督 後編

2022.03.04

こちらのコンテンツは音声でもお楽しみいただけます。

※現在の社会状況を考慮しビデオ会議システムを使用して収録いたしました。音声に聴き取りにくい箇所がございますがご了承ください
練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化の関わりを紹介する「ねりま映像人インタビュー」。
今回のゲストも、映画監督の橋本一さんです。
橋本監督は、日本大学芸術学部から東映に入社し、京都撮影所に配属となりました。
2013年からはフリーとなって東映制作以外の作品にも意欲的に参加されています。
2021年には、映画『HOKUSAI』やTVシリーズ『相棒』第20シーズンの監督をされました。
今回は、東映東京撮影所でのお仕事、また現在のお仕事のお話を中心にお伺いします。

—— どのような経緯で京都撮影所【1】に所属しながら、東京撮影所【2】での作品にも参加するようになったのですか?

橋本『忍風戦隊ハリケンジャー』【3】が最初ですね。これは、『科捜研の女』【4】に携わっていたプロデューサーが『ハリケンジャー』にも携わっていて、そのご縁で「ちょっとやってみませんか?」と声を掛けていただきました。この手の作品はどっちかというと好きだったので、「面白そうだ。是非」と参加したんです。「スゴイ世界だな」と思いながら撮っていましたね(笑)。
その後が、『相棒』【5】の第2シーズンです。これも京都で別のミステリー物でご一緒したプロデューサーから声を掛けてもらいました。
最初はお試しで1本だけ。その後、1シーズンだけお休みをいただきましたが、コンスタントに続けて呼んでいただいています。

—— 京都と東京、仕事のやり方などの違いはありましたか

橋本:一番違っていたのは、スタッフですね。
京都では、東映京都撮影所以外では仕事をしていない人が多かったのですが、東京は他で仕事をしている人が多く、同じチームが撮影所の中で歩いていて「また会ったね!」なんてことはあまりなかったです。
それから京都では、撮影所からの集合・出発が基本なんですよ。
東京の場合は、新宿だったり渋谷だったりに集合して、解散も新宿や渋谷って感じで。
京都では撮影所で支度をしてバスに乗って出発して、撮影が終わったら撮影所に戻って来るので、撮影所にベースがある。
東京は撮影所に司令塔があるけれど、実際にはいろんなところから集まって来る。
そこが、全然違うところだと思います。

—— 東映東京撮影所に通っていることの、練馬の思い出はありますか?

橋本:京都から東京に来ている時って、ほぼほぼ大泉学園なんですよ。大泉にある東映の寮に泊まっていて、そこから新宿や渋谷の集合に行っていたので、やはり大泉学園界隈ということになりますね(笑)

—— ドラマ『相棒』にはseason2から参加され、season15からずっとパイロット【6】を担当されています。特に大事にしていることはありますか?

橋本:これは初めて参加したときに、プロデューサーの方に「どんな感じなんですか?どんなふうにしてたらいいでしょう?」って尋ねたんです。
その時に言われたのが、「何していただいても結構です。ともかく2人が魅力的だったら、どんなことがあっても結構。ともかく、このコンビが際立つ面白い話、撮り方であれば、どんなことでも結構ですから、何の遠慮もいりません」ということでした。
すごく楽な気分で始めたのを覚えています。そのことは、今も忘れないようにしていますね。

—— 劇場版も2本を担当されていますが、テレビと違うところはありますか?

橋本:僕はテレビの劇場版は結構多いんですけれども、やっぱりテレビのお客さんを裏切っちゃいけないっていう部分もあります。かといって、初めて見るお客さんもやっぱり取り込んでいきたいし、観ていただきたいってのもある。
ここを1から説明するわけにもいかないけれども、初めて見るお客さんには「こういう世界でこういう人なんです」っていうのを伝えなきゃいけない。
そこのバランス感は、すごく気遣うところで難しいですね。

—— 『探偵はBARにいる』【7】も、非常に評価が高い作品です。本作を監督することになった経緯は?

橋本:『相棒』で最初に声をかけてくださったプロデューサーの方から、「こういう映画をやってみたいんだけど」って言われて、それで「やりたいです!」って(笑)。
北海道が舞台の探偵ものですが、北海道に行ったこともなかったので、すごくワクワクしながら準備から進めました。
ハードボイルド。それでアクションもあり、バイオレンスもあり、ちょっとエロティックな部分もあるみたいな。この映画の主役が大泉洋さん【8】であるっていうところが、これをどうするかっていうところが、勝負所だったと思うんですよね。
初めて大泉さんにお会いしたときに、サービス精神旺盛なコミカルな方であると同時に、根はやっぱり非常にハードルボイルドな方だなと。
こっちもそのつもりで「かっこいいです!かっこいいです!」って言いながら撮っていたのが、すごく思い出深いです。

—— 松田龍平さん【9】とのコンビがすごく良かったですね

橋本:あれがね、最初のイメージと全然違ったんですよ。
もっと多弁なっていうか、ペラペラ喋って掛け合いがちゃんとうまくやれるイメージっていうので始まったんです。初日に初めて2人が掛け合いしたら、まぁ、かみ合わないんですよ。見事に。これが面白くって(笑)。「これだよ!」って話になって、ポンポン行くよりもこの間のずれ方っていうか、ペラペラ喋る大泉さんと、ワンテンポ遅れて返事する松田さんの面白さは絶妙だった。
これはね、なかなか字面で思いつかないテンポだなと思って。実際2人が顔を合わせて1枚掛け合わせてみてこそ何か生まれた感じだなあと思いましたけれども。

—— 監督の作品では、物語冒頭で既にいなかったりとか、最初の方でいなくなった方たちの思いが、後半で沸き上がってくる作品が多いように思えます。

橋本:特に意識しているわけじゃないですけど、映画ってばっちり顔が出てない人こそ大事だっていうのは、常になんとなく僕の中ではありますね。年を取れば取るほどそういうふうになっていくわけですから。
別れがあった事によって、そういう人たちへの想いにとらわれながら生きていくっていうのは、すごく人間としての性根の部分というか、本質の部分だと思うんです。
死んでしまった人とか、いなくなっちゃった人への想いが、最後にそれがバーッと、全キャラクターはそれに向かって動いてたんだなっていうのがほどける瞬間って、なんかすごく気持ちがいいというか、共感もしやすいっていう感じがするんですよね。
「あいつの想いを今、彼は晴らしたのね」とか「彼はそれを受け止めたんだね」っていうのって、すごく映画的というか人間的な話になってるんじゃないかなとは思います。やっぱりそういう映画に僕も弱いっていうかなんか、こう共感してしまいます。
特に『臨場』【10】というドラマは、「死ぬと本当に物になっちゃう。でもそれは肉体としてであって、心は残していくべきだし残っていく」というテーマにすごく乗れましたし、そこに向かって僕らもドラマを作っていきました。
本当に僕らも死んじゃったら燃やされて終わりなので、どっかで残ってくれると嬉しいじゃないですか。
だから、亡くなるってこの世からいなくなるってちょっと寂しいですけど、でも、僕が作ったものはちゃんと残ってくれる。前回『七人の侍』【11】ってタイトルを出しましたけど、何年前の映画ですかっていう話ですよね。
それが、今も不変のパワーを持って、新しい世代たちが見て、何か感銘を受けるっていうのは良いことだし素晴らしいことだし、やっぱり人間ってそういうものなのかなと。
常に何か自分の想いを、次の人たちへ残していけるっていうのが素晴らしいことだなと思っています。

—— 昨年公開された『HOKUSAI』【12】では、非常に挑戦的な絵作りをされいて、北斎という題材にものすごく合っていたと思います

橋本:キャメラマンが良い意味での遊びが好きな方だったで、「普通の時代劇じゃやらないようなことをやりましょう」って、いろんな手を使って大変面白く撮ってもらいました。
ワイヤーを張り巡らして、普通じゃできないようなカメラワークとかいっぱいやっていただいて、撮影自体も楽しかったですね。
「映画自体が歳を取ったらどうなるだろう」っていうのもやってみたかったんです。
北斎が若い頃のシーンには、そういうカメラワークをいっぱい突っ込んで、歳を取るにつれどっしりとしたカメラワークでカット数も少なくなっていくみたいな。
だから前半は本当カットが多いわ、ややこしいカメラワークが多いわで、現場は大変だったんですよ。

—— 監督の長いキャリアで様々な作品、現代劇も時代劇も撮られている中で、改めて日芸【13】時代がどういう意味を持っていたとお考えでしょうか?

橋本:前回でも申し上げた通り、現場に行ったら「学校で学んだことなんて」っていう側面もあるにしても、やっぱりあの学校でいろんな仲間たちと触れ合い、いろんな映画を見て、先生方に教えられ、そこで実際実習なんかで撮ったことによって得たものっていうのは、最終的には今、糧になっていると確信しています。
歳を取って、いろんなことを載せたり積み重ねたりはしていますけれど、基本はあのとき、僕がやりたいこととか、こういうふうにやろうとか思っていたことをなぞっているという気はしますね。
だから驚くほど、「学生時代に撮ってたカットと同じだ!」みたいな瞬間があったりするんです。そんな時に、「あのときの思いのまま、俺はやってるんだな」って感じます。

—— 京都、東京を含め、「東映撮影所」という場で育ったことは、今、監督にとってどういう意味があると思いますか?

橋本:今でも東京でやっていますし、機会があればまた京都にも戻りたいと思ってまして、過去形じゃないですね。
やっぱり育ての親ですよね。なんだかんだいって、京都もそうだし東京もそうです。僕にとっては大半をここでやっていますから。やっぱり大事な育ての親だし、大切にしていきたいと思っています。

—— 練馬区では『映像∞文化のまち』として区内外に発信していきます。練馬区の映像文化の取り組みに対して一言いただけますでしょうか

橋本:大変素晴らしい事だと思いますし、さっき申し上げた通り、後々まで残していける形のあるものっていう映像文化は、本当に大切であるし大事だと思います。
ですので、僕たちも後世までちゃんと残していける、残す価値があるものを常に作りたいし、掘り起こしたいと思っています。
そういう側面もありながら、映像の中に残されている街を観て、「あのときはこんな店があったんだ」とか、「あのときここって建物なかったんだ」というのは、素晴らしい体験だと思います。
ですので、練馬という街で撮っているときは、皆さんもちょっとご協力いただいて、僕たちが撮った作品を何年も後になって見返して、「あんな風になっていたんだね」というのを楽しんでいただけたらと思います。
僕たち作り手以外に、受け止める方たちも一緒になって、何かこういったことを盛り上げて行っていただけると、僕は嬉しいなと思います。

—— 最後にメッセージをお願いします

橋本:常に僕自身も新しいこと、新しいもの、今撮っているものだけじゃない、何かにチャレンジしていきたいと思っています。
コロナとかで、なかなか新しい事にチャレンジするのが難しい時代になってきているとは思うんですけれども、やがてこれは過ぎ去ると僕は思っていますので、またそうなったら、共に新しい映画、新しいドラマで、心おきなく自由にみんなで触れ合えるような世の中になっていけたらいいなと思ってますし、そうなるように皆で頑張っていきましょう。 ありがとうございました。

音声版では、更にいろいろな話が出てきます。
是非お聴きください。

プロフィール

橋本一(はしもと はじめ)
映画監督・テレビドラマ監督。日本大学芸術学部映画学科監督コースを卒業。1990年東映に入社し、京都撮影所に配属される。
1997年、沢口靖子さん主演の時代劇ドラマ『新・御宿かわせみ』で監督デビュー。その後『科捜研の女』、『相棒』、『臨場』などの大ヒットドラマシリーズや、映画『探偵はBARにいる』(11)、TVドラマ『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』(15)を始めとする話題作品を監督。時代劇、現代劇を問わず幅広いジャンルの作品を数多く手がける。
2013年に東映を退社、フリーに。その後も東映作品だけでなく、他社作品も精力的に監督。2021年にはドラマ『相棒』20期のパイロット監督を務めたほか、映画『HOKUSAI』『劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班』などの監督作品が公開された。

登場する作品名・人物名等の解説

【1】東映京都撮影所
京都府京都市右京区太秦に所在する、東映株式会社が所有する映画スタジオ。敷地内には映画のテーマパーク「東映太秦映画村」などがある。
【2】東映東京撮影所
東京都練馬区東大泉に所在する、東映株式会社の映画スタジオ。
【3】『忍風戦隊ハリケンジャー』
東映制作の特撮アクションドラマ「スーパー戦隊シリーズ」第26作目。2002年3月~2003年2月放送。全51話。橋本監督は巻之十一「夢喰いと再出発」、巻之十二「テッコツと父娘」の2本を担当。
【4】『科捜研の女』
1999年にスタートし、現在Season21が放送中のサスペンスドラマシリーズ。主演は沢口靖子。京都府警科学捜査研究所を舞台に、法医研究員・榊マリコの活躍を描く。橋本監督はSeason1~7まで参加。橋本監督が、シリーズを方向づけるパイロット監督を務めたのは、本作Season3が初となる。
【5】『相棒』
2000年から放送されている刑事ドラマシリーズ。主演は水谷豊。警視庁「特命係」に所属する杉下右京と、その「相棒」の活躍を描く。2000年から2001年にかけて単発ドラマとして放送、2002年10月から連続TVドラマとして放送。これまでに劇場版4作とスピンオフ映画2作が公開されている。橋本監督は、season2から参加(season6のみ不参加)。season15以降は現在放送中のseason20に至るまで、全てパイロット監督を担当している。また、『相棒シリーズ X DAY』、『相棒 -劇場版IV- 首都クライシス 人質は50万人! 特命係 最後の決断』の2本の劇場版も監督している。
【6】パイロット監督
長期にわたるテレビシリーズの作品で、作品の方向性を決める役割を負った監督。通常は第1話の監督がパイロット監督となる。
【7】『探偵はBARにいる』
2011年に公開された映画。橋本一監督作品。北海道札幌市すすきのを舞台に、私立探偵(大泉洋)と助手・高田(松田龍平)が、とある事件に巻き込まれながらもその真相を追う。第24回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞を受賞した。橋本監督は続編の『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』(13)も引き続き監督している。
【8】大泉洋(おおいずみ よう)さん
俳優、タレント、声優、コメディアン、作家、歌手。代表作に、TV『水曜どうでしょう』(96~)『救命病棟24時 第3シリーズ』(05)『真田丸』(16)『鎌倉殿の13人』(22)、映画『茄子 アンダルシアの夏』(03※アニメ)『探偵はBARにいる』(11)、『清須会議』(13)『青天の霹靂』(14)、『恋は雨上がりのように』(18)など。
【9】松田龍平(まつだ りゅうへい)さん
俳優。代表作に、映画『御法度』(99)『青い春』(02)『探偵はBARにいる』(11)『まほろ駅前多田便利軒』(11)『舟を編む』(13)『散歩する侵略者』(17)、TV『ハゲタカ』(07)『あまちゃん』(13)など
【10】『臨場』
2009年4月から6月に放送された検視官を中核に据えた警察ドラマ。主演は内野聖陽。原作は横山秀夫。橋本監督は、本作、続章ともにパイロットを担当。2012年公開の劇場版も監督している。
【11】『七人の侍』
黒澤明が監督した、日本映画の金字塔と呼ばれる時代劇映画の傑作。1954年公開。主演は三船敏郎、志村喬ら。戦国時代を舞台に、野武士から村を守るために百姓に雇われた7人の侍が、村人と様々な軋轢を乗り越えながら共闘する姿を描く。第15回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞。
【12】『HOKUSAI』
2021年5月に公開された映画。橋本一監督作品。稀代の天才絵師・葛飾北斎の生きざまが、全4部構成で描かれる。青年・壮年期の北斎を柳楽優弥、老年期を田中泯が演じている。
【13】日本大学芸術学部
略称・日芸。練馬区江古田にキャンパスがある。写真、映画、美術、音楽、文芸、演劇、放送、デザインの8学科があり、映画や放送、芸能、写真、マスコミなど、数多くの人材を輩出している。 1989年から2019年まで埼玉県所沢市に所沢キャンパスがあったが、現在は全学が江古田キャンパスにて修学している。
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