—— 『子供はわかってあげない』(1)を監督することになった経緯は?
沖田:「こういうマンガがあるんですが、ぜひ監督していただけませんか?」と企画をいただいたのですが、実はその前から(原作を)読んでいたんです。
設定はシリアスですがタッチが軽やかで、田島列島さん(2)の描かれる独特のユーモアの印象がとても強くて。「その感じを映画にしないとな」と思いました。
—— 映画を作るにあたり、もっとも大事にしたことは?
沖田:「人が演じるということ」だと思います。
マンガは絵もあるし形になっている。しかもこのマンガは上下2巻で、2時間の映画にするにはちょうどいい。だけどそのままやったら「マンガを読めばいいじゃん」という話になっちゃう。
よく「実写化」とか「映像化」といわれますが、そうではなく「映画化」を志しながら進めたんです。
原作には物語の要素がたくさんあるのですが、映画でそれを全部は出来ないなと感じていて、「美波の物語」として作りたいと思いました。
また、原作で「泳いでいる時は独りだし」と影が掛かるようなシーンがあって、確かに泳いでいる時は周りの音から遮断されるなと。田島先生がそこまで意識しているかは分かりませんが、美波と父親の見えない寂しさを表現されているのかしらと感じました。
—— キャスティングのポイントをお聞かせください
沖田:美波役は本当の10代に演じて欲しくて、オーディションというほどではないですが、美波が似合いそうな女優さんに会って話をさせてもらいました。上白石萌歌さん(3)は、美波の飄々とした感じや、子供と大人の瀬戸際の雰囲気がすごく面白く出そうだったのでお願いしました。
門司くん役の細田佳央太さん(4)は、オーディションに来てもらった時に屋上のシーンを演じてもらったんですが、「あ、門司くん、いたわ」って(笑)。原作では若年寄みたいな感じで「若い人で、こんな役を面白くできる人がいるのかな?」と思っていましたが、細田君の真面目さが雰囲気に合っていて。原作とはちょっと違う門司くんだけど、とっても面白くなりそうだと感じました。
美波の実の父・藁谷友充役の豊川悦司さん(5)は、マンガの友充とは見た目のイメージは少し違いますが、「頭の中を覗ける」というのを当たり前のようにやっている豊川さんを想像すると面白くて。一緒に脚本を書いたふじきみつ彦さん(6)とも「そういう豊川さんが見たい」と盛り上がって、豊川さんに決まった後の完成稿では、『NIGHT HEAD』(7)などを思いだしながら、当て書きしています。
美波のお母さん・朔田由起役は、あのとぼけた感じを斉藤由貴さん(8)がやったら面白いんじゃないかなと思って、お声がけさせていただきました。
—— これまでの沖田監督作品に出演された俳優さんが、今回も出演されています
沖田:美波の現在の父・朔田清役の古舘寛治さん(9)は、早い段階で決まってたんです。原作のお父さんに少し似ていたところもあったし、上白石さんと並んだ画がすごく面白そうだと思って、だいぶ前から「良い役があるんで」と、個人的に声を掛けていました。
門司くんのお兄さん・門司明大役は、こういう役なら千葉雄大さん(10)だなと。僕も、また千葉さんとやりたいなと思っていたので、真っ先に(笑)。
原作では完全に女性に見えているので女性のキャスティングもあったとは思うのですが、声の問題も考えて、演技とメイクだけで表現するというちょっと難しいことを、ちょっと難しい事でしたが千葉君にお願いしました。
—— 撮影現場はどのようなことを大切にしたのですか
沖田:映画自体が楽しげな内容でしたし、「楽しい映画を作るんだ」という雰囲気は大事にしていました。
映画の撮影に入る前にも、劇用の家族写真を撮るために、朔田一家のみなさんには遊園地で遊んでもらったりも。
ただ真夏の屋上なんて焼けるように暑かったので、水をガブガブ飲みながら体力を気にしながらでしたけれど(笑)。
プールでの撮影は、背泳ぎで水の中と表を行き来するのに、撮り方も工夫が必要で。GoPro(11)を使ってみたり、サーフボードにカメラを括り付けて並走させたり。キャメラマンの芦澤明子さん(12)が色々なアイデアを出してくださって、あれこれと試しました。
—— これまでの沖田監督作品と同じく、OFF=画面の外を意識した演出が活かされていますね
沖田:今まで観てきた映画の影響もあると思いますが、そういう演出は好きですね。
たとえば、豊川さんのお父さんが、最後にバイバイして家の中に入ってから聞こえてくる音楽とか、自分も仕上で観ていてグッときました。
遠くから聞こえたり、耳を澄まさないとわからない何かの反応とか、押しつけがましくない良さがあるなと思います。画面に見えないものは、想像しますから。面白いですよね(笑)。
—— 門司くんの家を巡る学校での会話から、ポンと飛んで家の前になるように、時間の省略も沖田監督作品には欠かせない演出ですね
沖田:時間省略の面白さも、映画的ですね。
これからもできる限り、説明の無い面白さを見出したいと思っています。
—— 食事のシーンも、大事にされていると思います
沖田:大事にしているという意識はないのですが、食べているシーンを撮るのが好きなんです。俳優さんが立って話をしているより、食べながら話している方が生活感が自然と出るというか。
『子供はわかってあげない』に関しては、田島先生自身もそういうシーンがお好きなんじゃないかと思います。
扇風機が回りながら、お父さんと美波がご飯を食べているとか、印象的な絵で描かれていて、そもそも映画的だったんです。2人の距離が近づいていく感じも良いですよね。
僕はそういうのが得意技だったんで、そのままやらせてもらいました。
お父さんが惣菜のコロッケを買って来るとか、夕食にうどんが出て来るとか、そんなちょっとしたことで心の距離とか気持ちが測れるのなら、良い小道具だなと思います。
—— 作品が完成して
沖田:今回は「楽しい作品を作った」という気がしたので、そういう気持ちが伝わると良いなと。
自分でも、何度も観なおしたくなる作品ですね。
—— コロナ禍で、公開が1年延期になってしまいましたが
沖田:出来たからには早く観てもらいたかったんですけど、当時はそれどころじゃないって状況だったので延期になるだろうとは思っていました。
1年延期になったのには驚きましたが、夏休みのお話でもあるし、そういう時期に観てもらいたいだろうなというのもあって。思うところはありましたが、結果的には良かったなと。
—— 公開後の手ごたえはいかがですか
沖田:色々な方から「面白かったよ」という声をいただいて、作って良かったなと。
ビデオカメラで遊びながら作品を作っていた身からすれば、今回のように「楽しく映画を作る」というスタイルが自分に合っているんだと思います。
この作品で自分の形が1個見えてきたようにも感じました。
夏休みの為の映画を作ったわけではないので、「いい映画がここに1本あるよ」って感じで、末永く楽しんでもらえるといいなと思います。
—— こうして何作も監督作品を作られてきた今、日芸時代は沖田監督にとってどういう意味を持っていたと感じていますか?
沖田:今思えば、「映画が好きだけど、どうしていいかわからない」という気持ちを、とても大事にしていた時間だったと思います。
前回でもお話しましたが、僕の場合は授業というよりも、映画好きの仲間たちと出会えたのが一番良かった。そして、大学で得た仲間たちと自主映画を作ったことが、現在まで全部繋がっているような気がします。
『子供はわかってあげない』が撮れたのも、その頃の経験の延長だなと。
大学を卒業してからも、同じ大学の人と逢うと仲間のような気がします(笑)。それを羨ましがられもするし、自分の財産だなとも思います。
—— 日本の映像業界にとっての日芸の存在とは
沖田:どこかしら、日芸出身の人と人が大学と結びついて、なにかしら生まれています。
形はどうあれ、映画を作りたい人が集まって活気づいていれば、これからも良い作品が作られていくのかなと思います。
これからもあり続けてほしいですね。
—— 練馬区では『映像∞文化のまち』として区内外に発信していきます。練馬区の映像文化の取り組みに対して一言いただけますか
沖田:僕は所沢出身で、西武線沿線の練馬区は身近に感じていました。
その練馬区に、自分の大好きな映画文化が根付いているのが嬉しいです。
これからも練馬でたくさんの作品が生まれると面白いなと思います。
—— 最後にメッセージをお願いします
沖田:『子供はわかってあげない』の上映劇場は少なくなっていますが、まだギリギリ観られるところもあると思いますし、別の機会でも是非観ていただきたいと思います。
この話を聞いて、「自分も作品を作ってみたいな」と思ってくれる方が1人でもいてくれたら嬉しいです。
そして、そんな作品が観られたら良いなと思います。
ありがとうございました。