INDEX
①松本清張原作の映画『砂の器』とは

作家の
松本清張【1】は1954年から1961年の間、練馬区に在住し、数々の傑作を世に出した。『砂の器』もその時代の作品で、1960年に『読売新聞』夕刊に連載された代表作の一つ。
国鉄蒲田操車場内で発見された男の殺害死体の捜査をめぐり、さまざまな謎と世相が絡み合いながら、容疑者として浮かび上がった男の動静を描く……。
すでにベストセラー作家であった清張は『砂の器』連載当初から
橋本忍【2】脚本・
野村芳太郎【3】監督による映画化を橋本・野村両名に依頼しており、最初の映画化企画が
松竹【4】で上がったのは1961年であった。だが、撮影が長期に渡ることなど、リスクが大き過ぎたため企画は頓挫してしまう。
その後、さまざまな映画会社に難色を示された同企画であったが、松竹の看板監督であった野村監督は会社を辞しても手掛けると宣言し、橋本は自らのプロダクションを設立。結局、松竹がGOサインを出し、橋本プロダクションとの第1回提携作品としてクランクインにこぎ着け、1974年に初映画化を果たした。
映画版は原作を大きく脚色し、数行しか書かれなかった父子が各地を放浪するシチュエーションを大きく扱って、単なるミステリーではない情感あふれる大作に仕上がった。
日本には、無理解によるハンセン氏病患者への過剰な差別が生じた時代が続いた歴史があり、メディアで扱うことも避けられていた事情もあったため、映画『砂の器』は社会的な作品としても話題作になり、高い評価を受けて大ヒットを記録したのである。
②『砂の器 映画の魔性』著者・樋口尚文氏トークイベントレポート
松本清張の練馬時代の名作『砂の器』が、「午前十時の映画祭」で上映
「凄いメロドラマを作るという意思が全編に行き渡っている」

5月17日、映画評論家・
樋口尚文【5】氏が『砂の器』の魅力を語る、「午前十時の映画祭15」『砂の器』のトークイベント付き特別先行上映がTOHOシネマズ日本橋で実施された。
2005年に逝去された野村監督が残した資料を元に、8年もの歳月をかけた研究書『砂の器 映画の魔性――監督野村芳太郎と松本清張映画』を上梓した樋口氏は、『砂の器』への強い思い入れを持っている。
松本清張原作の映画の中でも、名作として知られる映画『砂の器』とは、いったいどういう作品であったのか。
74年の初映時、中学生だった樋口氏は、中央区築地に所在した「松竹セントラル」で映画『砂の器』を鑑賞している。樋口氏はそこで観客の大人たちが「大丈夫ですか!? というくらい号泣している。」のを目撃したのだという。
「ハンセン氏病の療養所に入所している本浦千代吉(演:加藤嘉)が、今西刑事(演:丹波哲郎)に事情を聴取されるシーンがあります。そこで千代吉は、ある写真を見せられると、泣きながら何も知らないと言い張るんです。その悲劇的なシーンで、もう千代吉が泣いているのか、観客が泣いているのか分からないくらい、みんなで号泣していたのを思い出しました。」
1960年から1961年にかけて読売新聞夕刊に連載された原作小説は、ハンセン氏病を物語の背景とした清張作品の中でも著名な一つで、東北訛りのようなズーズー弁や超音波といった材料を使い、翻弄されながらも次第に現代社会の闇にたどり着いていく刑事の捜査を描いている。
ところが毎日が〆切という新聞連載の形式に、清張は執筆ペースを乱されたところもあったのか、物語は多少、強引に展開していく部分がある。この推理劇を映画化するにあたって、脚本家の橋本忍と監督野村芳太郎は、物語の構成を大胆に変更。推理劇を主軸として進む原作の中に、ほんの数行、書かれたに過ぎない、本浦千代吉と息子がたどる過酷な放浪の旅に着目し、そこを情緒的なドラマとして大スケールで映像化。映画のクライマックスの見せ場に持ってきたのだ。
「初めての新聞連載小説を書くうちに、清張さんの手には余ったようで、無理筋な展開もあるんです。脚本の橋本さんは、そんな原作を読んで映像化は無理だと、一回投げている。ところが突然、閃いて、三行くらいしかない親と子の旅路をメロドラマに大転換すればいいんじゃないかと思いついたんです。
観客をガンガン泣かせる、凄いメロドラマを作るんだという意思が、映画の全編に行き渡っている。原作とは全然違いますね。無理筋な展開もあるんですが、勢いで見せてしまえるのが映画ならではですね。」
「壮大な、原作とは違うセンチメンタリズムの塊」

原作『砂の器』は、苦労人で遅咲きの作家・松本清張が嫌っている人間のタイプ、戦後派のセレブリティ的な文化人を痛烈に批判する、一種の悪漢小説でもある。
「それを橋本さんが、シナリオで全く別物に変えている。」と樋口氏は指摘する。
タイトルの意味も、映画のオープニングで、旅の途中の千代吉の息子が、水辺で、ほのぼのと器を作る砂遊びをするシーンが挿入され由来になっているが、原作では、砂の器のように、もろくはかない虚栄の才能を、皮肉を込めて指摘しているのだ。
もちろん無理筋な展開が残った個所もある。
「清張原作を映像にすると、お客さんが「あれ?」という箇所がいっぱいあります。脚本家の橋本さんは大胆に変えちゃいましたけど、野村監督は、ある種の映画のウソをまかり通らせるために繊細に演出を考える。犯人の愛人が、殺人の証拠になる血染めのシャツを列車から撒いて処分する「紙吹雪の女」のシチュエーションは、脚本を読んだ
黒澤明【6】が「そんなものはトイレに流せばいいのに」と指摘した部分ですが、映画ではさらっと終わらせています。野村監督は演出に関するメモをかなり残していますが、そこは「お客さんに考えさせないようにさらっと行く」という趣旨のことを書いています(笑) 。
橋本・野村の両輪が無かったら、原作とは違うセンチメンタリズムの塊のような作品は出来上がらなかった。観客は泣いたり笑ったり、楽しむのが、いいんじゃないかと思いますね。」
また樋口氏は、この作品のもう一つの主役が「音楽」だという。
「映画『砂の器』は、後半部の音楽会が捜査のシーンと重なっていくところが見せ場です。コンピュータを使用したノンリニア編集ができる現在であれば可能だと思うんですが、51年前の、時間も限られている中で、絵と音をどうやってシンクロさせて作ったのか。調べていくと、かなり密に打ち合わせをやっていることが分ってきました。
音楽には50年を経て、いろんな発見があったんです。音楽家の
芥川也寸志【7】さんは、野村・橋本とトリオを組んで、良い作品をたくさん作曲してらっしゃるけれども、この大作では、音楽監督という立場になって、
菅野光亮【8】さんというジャズピアニストを表に立てています。」
当時、日本音楽著作権協会(JASRAC)理事長を務めていた芥川氏は、音楽使用料規定の改定に関しての啓蒙活動も行っており、国会にも出席するなど、公の立場としても多忙を極めていた。
「それで『砂の器』のような長い曲を書くのは、手に余るところがあったんじゃないかなと思います。菅野さんは有名なジャズピアニストですが、オーケストレーションを勉強した人ではないからリスキーな人選だったのではないかと思って調べていくと、芸大の同期だった芥川さんの奥様の推薦があったようです。
60年代、菅野さんはジャズピアニストとして、当時のソ連でライブのツアーをやっていました。これが大人気でウクライナ(当時はソ連領)とかモスクワとか、いろんなところを旅していた。あまりにも人気で、そのときに書いていた曲が、1966年くらいにソ連のレーベル「メロディア」で『影』というタイトルでレコード化されていたんです。これが映画『砂の器』の主題曲と同じメロディなんですよ。その『影』のメロディを大事に取っておいて、映画音楽として仕立て上げたわけです。」
「壮絶なギャンブル。それが映画の魔性」

樋口氏は、野村監督の遺された映画関連資料、膨大なメモやノートの中から、清張氏からの手紙を見つけたという。当初、61年に映画化されるはずだった『砂の器』は、当時の松竹の社長・
城戸四郎【9】氏が難色を示したことで、制作にストップが掛けられていた。
「清張氏の手紙は――いい加減、城戸社長もゴーサインを出してくれないかな。ぼくが言うのもなんだけれど、
高峰秀子【10】さんをキャスティングしたら、社長もうんと言ってくれるんじゃないかな……というサジェスチョンのような、応援のような内容が書いてありました。高峰さんというのは、1974年の映画での、
島田陽子【11】さんに相当する役だと思いますね。」
ではなぜ城戸社長は、映画化に難色を示したのか。
「ハンセン氏病という社会的な主題が重いという面もあったんですが、映画を作る立場からすると、もっと重大な要素があります。これだけロケーション撮影が多いと、天候に左右されるので、予算が掛かり過ぎるんです。
それに主人公が「音楽」だというのも凄く危険。作曲家にお願いして、出来上がったのがとんでもない曲だったら、誰も直すことができない。実は、物凄い賭けなんですよね。では、なぜ野村・橋本コンビが、そんなリスクが三拍子揃っている危険な企画を会社の社長に止められながら、のめり込んでいったのか。橋本さんは自分で制作会社の橋本プロを作り、松竹の看板監督だった野村さんは、会社を辞めるとまで言って『砂の器』に傾倒した。それはある種の壮絶なギャンブルです。それが「映画の魔性」なんだと思います。」
結局、『砂の器』企画が再度の検討によって実現するのは、映画産業が斜陽になり、魅力的でも危険な企画にのめっていく体力が会社に無くなっていた1974年であった。
ただ樋口氏は、逆にこの年代が奏功していたと考える。
1951年に書いた処女作
『西郷札』【12】が直木賞候補となり、デビューを果たした松本清張。1957年に最初の映画化作品
『顔』※1(監督:大曽根辰保)が公開されて以降、清張映画は矢継ぎ早に制作される。ところが同時期の1959年は、経済成長と受像機の価格の低下により、テレビは家庭に急速に普及して200万台を超えることになる。こうして映画『顔』から10年ほどで、映画産業は地滑り的に凋落の一途を辿っていく。
「遅咲きで花開いた清張さんの小説
「点と線」【13】や
「眼の壁」【14】といった、一連のベストセラーが出た50年代末は、戦後の日本映画の観客動員数がピークだった時期なんです。つまり映画を作れば、企画がつまらなくてもお客さんが来ちゃうような、甘えに陥っていた時期ともいえる。新進作家の清張さんの小説にも、映画各社が飛びついたんですが、粗製乱造になって、つまらない作品が多い。ところが、そんな流れの中で作られた映画
『ゼロの焦点』※2がそこそこ当たったので、続く企画として検討され、1961年に頓挫したのが『砂の器』だったんです。
日本映画界がそこそこリッチな1961年に、乱造される番組のひとつとして映画化されるのではなく、日本映画がどん底の時期の1974年に、決死の覚悟で作ったのが映画『砂の器』成功の秘密だったのかなという気がします。」
作品の裏側には、橋本・野村の名コンビが抱える、日本映画の環境に対する切実な思いがあったのかもしれない。
「『砂の器』には、いろいろな昭和の景色が映っている」

また樋口氏は『砂の器』以外のオススメの清張原作の映画を挙げてくれた。
「橋本脚本の作品では、1960年公開の
『黒い画集 あるサラリーマンの証言』※3(監督:堀川弘通)があります。これは大変な傑作で、ある殺人に関する出来事を目撃したサラリーマンが、それを自供すると不倫がバレ、自分の生活が脅かされてしまう。追い詰められた主人公役の小林桂樹は果たして本当のことを言えるのか、というサスペンス作品で、清張さんの作品の「素直な」映画化では最高峰に近いと思います。
野村監督作品では、1958年公開の
『張込み』※4(脚本:橋本忍)。これも刑事二人が主人公で、逃走中の犯人が現れそうな元恋人の家を張り込んで動静を観察する物語です。もう一つは1970年公開の
『影の車』【15】(脚本:橋本忍)。自分のエゴのため、血迷って愛人の子供を殺しそうになる小心者のサラリーマンを加藤剛さんが演じています。原作は「潜在光景」という短編小説ですね。
野村・橋本コンビの清張原作映画はどれも面白いんですが、反対に、これらを観てもらえると、映画『砂の器』が、いかに異色かということがわかると思います。」
そして樋口氏は映画『砂の器』の魅力を、こう語ってくれた。
「『砂の器』には、いろいろな昭和の景色が映っています。それを観ると「昭和は、こんなだったな」と思い出しますし、描かれる人間たちのクラスタ――昭和のセレブリティもいれば、庶民もいれば、文化人もいれば、いろいろな層の、昭和の暮らし向きが見えてきます。そんなところにも尽きせぬ魅力があって、中毒みたいに何度見ても発見がある。そして最後には、確実に大満足、大号泣のあのシーンが待っている(笑)。ここが息の長い人気の理由かなと思います。」
樋口氏は最後に、「51年前の映画が、現在もみなさんに愛され、私が最初に観た劇場と同じような熱気の中で、こういうお話させてもらうというのは、もの凄い稀有なことだなと思います。映画の魔性に賭けた映画人の想い、皆さんを娯楽で楽しませようという意気込みは不滅だなということを感じました。「午前十時の映画祭」というのは、配信でも見られる作品を大スクリーンでご覧いただくのが主旨です。『砂の器』もスマホで見るのでは伝わらない情感がいっぱいあるなと感じた作品です。ぜひ「午前十時の映画祭」をはじめ、旧作の上映の際には、大きなスクリーンの劇場に、熱烈に足をお運びいただきたいなと思います。」と感想を述べ、大きな拍手に包まれてトークショーは閉会となった。
③松本清張 練馬在住時代に映画化された作品
監督:大曽根辰保 脚本:井手雅人 瀬川昌治 音楽:黛敏郎 原作:「顔」 出演:岡田茉莉子 大木実 笠智衆 森美樹ほか
■ポイント
清張原作の初映画化作品。内容は大きく変更され、主人公は原作の、ある劇団の新進男優が、水商売から成りあがった人気ファッションモデルとなった。
監督:野村芳太郎 脚本:橋本忍 音楽:黛敏郎 原作:「張込み」 出演:大木実 宮口精二 高峰秀子 田村高広ほか
■ポイント
野村監督が脚本家の橋本とコンビを組み、清張原作映画の監督を務めたのは、本作が第1作である。原作で張り込みを行うのは刑事1人だが、刑事の内面を表現するため、若手とベテランの2人の刑事を登場させた。橋本は脚本の疑問点を解消するため、練馬区関町の清張宅を訪問している。ノンクレジットだが助監督は山田洋次が務めた。
『眼の壁』(1958)
監督:大庭秀雄 脚本:高岩肇 音楽:池田正義 原作:「眼の壁」 出演:佐田啓二 鳳八千代 高野真二 朝丘雪路 ほか
■ポイント
手形詐欺という知能犯的経済犯罪を描いた推理小説の先駆的作品。『点と線』の次に連載された長編で、物語には、さまざまな社会的な話題が盛り込まれている。3部作で約3000万人の観客を動員した大ヒット恋愛映画『君の名は』(53)の佐田と大庭監督のコンビによって映画化された。
『共犯者』(1958)
監督:田中重雄 脚本:高岩肇 音楽:古関裕而 原作:「共犯者」 出演:根上淳 船越英二 高松英郎 叶順子ほか
■ポイント
映画は、主人公の内堀(根上淳)が名家の娘の雅恵(叶順子)と婚約披露宴を行うシーンから始まる。また銀行強盗の共犯の町田(高松英郎)は、犯行時に殺人も犯していて、成功している主人公の追いつめられ度が、原作よりもアップしている。脚本を担当した高岩は、同年公開の松竹映画『眼の壁』も手掛けている。
『影なき声』(1958)
監督:鈴木清順 脚本:秋元隆太 佐治乾 音楽:林光 原作:「声」 出演:二谷英明 南田洋子 宍戸錠 高原駿雄 ほか
■ポイント
鈴木清順の初期監督作品の一つで、日活初の清張原作映画である。原作は大きく変更され、脇役だった新聞記者がフィーチャーされて事件を追うサツ廻り敏腕記者として描かれた。また原作では、第1部で殺されるヒロインの運命も変更されている。劇中、50年代当時の練馬区の石神井地域の秋祭りやあぜ道が、ロケ地として使われている。
『点と線』(1958)
監督:小林恒夫 脚色:井手雅人 音楽:木下忠司 原作:「点と線」 出演:南廣 山形勲 高峰三枝子 加藤嘉 ほか
■ポイント
鉄道の時間表をトリックに使ったトラベルミステリーの開祖的作品だが、映画版は、原作が変更されている。井手雅人は脚色としてクレジットされている。小林監督は、同年、映画版『月光仮面』シリーズをヒットさせたミステリー・サスペンスの名手で、ほかに多羅尾伴内、金田一耕助、少年探偵団物を演出している。東福岡署の刑事役で加藤嘉も出演。
『かげろう絵図』(1959)
監督:衣笠貞之助 脚本:衣笠貞之助 犬塚稔 音楽:斎藤一郎 原作:「かげろう絵図」 出演:市川雷蔵 山本富士子 滝沢修 柳永二郎 ほか
■ポイント
新聞連載の長編時代小説を、長谷川一夫とのコンビで多くの時代劇映画を手掛けた衣笠が監督。原作の完結前に公開され、一部設定やストーリーが変更され、映画オリジナルの結末となっている。主人公の島田新之助を、『眠狂四郎』シリーズで知られる大映の看板スター・市川雷蔵が演じている。
『危険な女』(1959)
監督:若杉光夫 脚本:原源一 音楽:林光 原作:「地方紙を買う女」 出演:渡辺美佐子 芦田伸介 下元勉 高友子ほか
■ポイント
原作は、1957年に初めてTVドラマ化されており、映画『危険な女』は2度目の映像化である。主演の渡辺美佐子は、今村昌平監督作品『果しなき欲望』(1958)でブルーリボン助演女優賞を受賞した名バイプレイヤーだ。
監督:堀川弘通 脚本:橋本忍 音楽:池野成 原作:「証言」 出演:小林桂樹 中北千枝子 原知佐子 織田政雄 ほか
■ポイント
連作シリーズ「黒い画集」の、1958年発表の短編小説「証言」を初映画化。清張が「小説の映画化は短編ほど成功するという考え方を、この映画でいよいよ確信した」と激賞した作品だ。
『波の塔』(1960)
監督:中村登 脚本:沢村勉 音楽:武満徹 原作:「波の塔」 出演:有馬稲子 津川雅彦 桑野みゆき 南原宏治 ほか
■ポイント
原作は女性誌に連載された恋愛ロマン色が強いサスペンス小説である。この作品によって青木ヶ原樹海が一躍、自殺の名所として注目された。『古都』(63)、『智恵子抄』(67)で、二度、米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた中村監督の手腕が光る。
『黒い樹海』(1960)
監督:原田治夫 脚本:長谷川公之 石松愛弘 音楽:大森盛太郎 原作:「黒い樹海」 出演:叶順子 藤巻潤 根上淳 北原義郎 ほか
■ポイント
原作は婦人誌に連載された長編サスペンス。警視庁刑事部鑑識課法医学室に勤務していた変わりダネ作家・長谷川公之と、産業スパイものの『黒の試走車』(62)、ハードボイルドアクション映画『ある殺し屋』(67)などのサスペンスを得意とした石松愛弘が脚本を担当した。
監督:原田治夫 脚本:長谷川公之 石松愛弘 音楽:大森盛太郎 原作:「黒い樹海」 出演:叶順子 藤巻潤 根上淳 北原義郎 ほか監督:野村芳太郎 脚本:橋本忍 山田洋次 音楽:芥川也寸志 原作:「ゼロの焦点」 出演:久我美子 高千穂ひづる 有馬稲子 南原宏治 加藤嘉 ほか
■ポイント
清張原作映画の中でも著名な作品のひとつで、脚本家・橋本忍と監督・野村芳太郎コンビの作品。脚本には山田洋次も参加している。クライマックスシーンは、能登金剛の「ヤセの断崖」を舞台に設定されており、主人公と犯人が対峙するなど、原作がアレンジされている。このシチュエーションは、のちに2時間サスペンスドラマの定番となった。
『黒い画集 ある遭難』(1961)
監督:杉江敏男 脚本:石井輝男 音楽:神津善行 原作:「遭難」 出演:伊藤久哉 児玉清 香川京子 土屋嘉男 ほか
■ポイント
東宝の「黒い画集」シリーズの第3弾。雪の鹿島槍(長野県)でロケが行われ、寒さでカメラが動かなくなり、焚き火で温めながら行ったという。監督の杉江は青春映画やアクション映画、コメディ映画まで、幅広いジャンルの作品を手掛けるプログラムピクチャーの名手であった。
『黄色い風土』(1961)
監督:石井輝男 脚本:高岩肇 音楽:木下忠司 原作:「黄色い風土」 出演:鶴田浩二 丹波哲郎 佐久間良子 柳永二郎 ほか
■ポイント
原作は、当初、『黒い風土』のタイトルで『北海道新聞』夕刊に連載された新聞小説だった。単行本化の際、内容が大幅に削除され、タイトルも改められている。この長編の原作を映画化する際には、登場人物や設定を簡略化、または変更された。
『黒い画集 第二話 寒流』(1961)
監督:鈴木英夫 脚本:若尾徳平 音楽:斎藤一郎 原作:「寒流」 出演:池部良 新珠三千代 平田昭彦 志村喬ほか
■ポイント
東宝の『黒い画集』の3本目だが、タイトルに「第二話」がつけられている。監督の鈴木は、サスペンスの名手として評価が高い演出家。セミ・ドキュメンタリータッチの作風が持ち味で、本作でも街中でのゲリラ撮影を含めたロケが多用されている。原作は、登場人物が罠にはめられる場面のリドルエンディングで終わるが、映画版では、その後の様子も描かれている。
④映画『砂の器』「午前十時の映画祭15」にて上映

映画『砂の器』は、「午前十時の映画祭15」にて全国66の劇場で上映が行われる。
詳しいスケジュールと上映劇場は「午前十時の映画祭15」公式サイトでご確認いただきたいがこの機会に映画館の大スクリーンで、映画『砂の器』を是非ご覧いただきたい。
「午前十時の映画祭」とは、特に素晴らしい傑作映画を選び、 全国の映画館で1年間にわたって連続上映する企画。2010年から始まった「午前十時の映画祭」は2025年3月までの期間、全316作品を上映してきた。
練馬区との関連作品を挙げると、東映東京撮影所の前身である太泉スタジオで撮影された、黒澤明監督の
『野良犬』【16】や、東映東京撮影所制作の
『飢餓海峡』【17】『新幹線大爆破』【18】。そして松本清張原作の『砂の器』といった作品が上映されてきた。
現在開催中の「午前十時の映画祭15」では、これまで「午前十時の映画祭」で上映した全316作品の中から「もう一度スクリーンで見たい作品」を募集。集まった71,742票を参考にしながら日本で上映可能な25本の名作を上映している。
そのなかで選ばれた日本映画は3本――『八甲田山』『砂の器』『七人の侍』である。すでに『八甲田山』の上映は終了しているが、今回取り上げた『砂の器』『七人の侍』の上映はこれからなので、何度見ても、いつ見ても、誰が見ても感動する「午前十時の映画祭15」の名作をぜひ映画館の大きなスクリーンで楽しんでほしい。
『砂の器』上映スケジュール
6月27日(金)~7月10日(木):グループB劇場
7月11日(金)~7月24日(木):グループA劇場
『七人の侍』【新4Kリマスター版】上映スケジュール
10月17日(金)~11月6日(木):グループA・B劇場共通
※劇場によって上映期間が異なります。
※「午前十時の映画祭」という名称ですが、上映開始時間は午前10時と限らず、劇場によって異なります。
詳しくは劇場公式サイトをご確認ください。
「午前十時の映画祭」公式サイト
https://asa10.eiga.com/
上映劇場一覧
https://asa10.eiga.com/2025/theater/