INDEX
①『機動警察パトレイバー2 the Movie』 公開 30th 突破記念 上映&トークイベントレポート
2024年2月4日にユナイテッドシネマ豊洲にて開催された「
『機動警察パトレイバー2 the Movie』【1】公開30th突破記念 上映&トークイベント」。
第1部のオリジナルサウンド版上映、第2部のサウンドリニューアル版上映のそれぞれにて、後藤隊長役・
大林隆介さん【2】、南雲隊長役・
榊原良子さん【3】、そして荒川茂樹役・
竹中直人さん【4】によるトークイベントが開催され、会場には多くのパトレイバーファンが詰めかけました。
第1部の本編上映後、ゲスト登壇前の場内に荒川茂樹の声で「本題に入る前にちょっと見ていただきたい物がありましてね。パトレイバー2と言うんですが。」と映画本編のセリフを用いたアナウンスが流れ、会場は一気にテンションが上がります。
ゲスト登壇後、3名が揃うのは約30年ぶりということで、まずは当時のアフレコの思い出話から。
竹中さんは
押井守監督【5】作品には初参加で「押井さんの圧倒的な空気感にやられた」「これが本物の押井守か」と、緊張感をもってアフレコに臨んだことが印象に残っているそうです。また「すごくしゃべる役だったので、どの辺の声かっていうのを2人で探り合った」「あまり作り過ぎないトーンでいきましょう」と、押井監督と相談しながら荒川の役作りをしたことをよく覚えているとのこと。
大林さんは「押井さんからは何にもなかったですね」と、これまで通りに後藤隊長を演じたのに対し、榊原さんは押井監督とかなり演技についてのやり取りをされたそう。「まったく違う人格にされたので」「パト2で南雲さん嫌いになりましたっていう人が多かったんです」とこれまでのシリーズとやや異なる南雲隊長のキャラクター設定に戸惑った思い出を語っていました。特にラストの柘植と手を握り合うシーンに対しては「あれ、見てられない」とコメント。竹中さんは「すごく良いシーンじゃない」と返答しますが「女性と男性で捉え方が違うの」「だから面白いの」と人によって視点が異なる魅力を語り、会場からも賛同の拍手が起きました。
また、榊原さんは竹中さんの演技に対しても言及。「これがこの先アニメーションでも使われていくテンションなんだろうな。私もレベルアップしたい。そう思って必死になって稽古しました」と、ご自身の演技を変えるきっかけになったと語っておられました。
この他にも、竹中さんの他作品における声色再現や、柘植行人役の故・
根津甚八さん【6】の思い出話など、様々な話題で盛り上がったトークイベント第1部は、竹中さんによる「10年後にまた会いましょう」との挨拶で締めくくられ、大喝采を浴びて終了しました。
第2部はトークイベントからスタート。ゲスト登壇前アナウンスは、後藤隊長と南雲隊長の掛け合いで「うちの小隊、リニューアル版見ないんだから」「課長代理として命令することもできるのよ」「してみれば、命令」「結構、では第1小隊もこれより独自に観賞します」「気、変わった」と映画内でも特に印象に残るシーンのパロディが展開され、会場の笑いと拍手を誘います。
ゲストが登壇し、押井守監督の印象を問われると、榊原さんは「パトレイバー2が素晴らしい映画になったのは、押井さんが南雲しのぶの人格を変えて人身御供にしたからだと思ってます」とのコメント。場内からは大きな拍手が上がります。
竹中さんは「押井さんの力強い眼差し、佇まい、人を射抜くような目つき、格好良かったです」とややオーバー気味に印象を語っていましたが、それに対して大林さんは「う~ん。どうなのかねぇ」と返し、場内は大笑い。「でも、天才だと思ったね」とも語っていました。
さらに、竹中さんは劇中の長台詞について「染み込んでくるんです。押井さんの台詞って」「奥に秘められた、深く暗い、重く伸し掛かってくるようなすごい言葉がある」ととても印象深かったと話されました。
「注目してほしいシーン」について、榊原さんは「南雲隊長が柘植さんを逮捕しにいく地下のシーン」を挙げ、最近になって「後藤さんに“差し違えてもなんてのは御免だよ”と言われて背を向けている南雲隊長がどういう表情をしているのか、4つ考えました」とコメント。
大林さんは、松井刑事に対する「またまた、精神的にお返ししますって」との台詞を再現され、場内は大きな拍手に包まれました。
竹中さんは荒川の「戦争だって、そんなものはとっくに始まってるさ」と後藤隊長との会話シーンを挙げられていました。
そして最後に特別企画。映画の冒頭で荒川と後藤隊長、南雲隊長が初対面し、3人でビデオ映像を検証するシーンが生で再現されました。所々アドリブを加えた3名の生演技に、会場からは大きな拍手が贈られ、イベントは大盛況で終了しました。
②『機動警察パトレイバー』とは
概要
『機動警察パトレイバー』【7】とは、1988年にOVAが発売されて以来、漫画連載、映画、小説、テレビアニメ、ゲームなどが同時に展開されたメディアミックスの先駆けとなった作品。
本作では登場するロボットを汎用人間型作業機械、つまり重機のような存在と位置づけ「レイバー」と呼称。そのレイバーが工事現場などを中心に普及している近未来の東京を舞台に、レイバーによる犯罪を取り締まる警察用レイバー、通称「パトレイバー」とこれを運用する人間たちのドラマが描かれる。
作風はロボットアクションだけでなくシリアスからコメディまで幅広く、シリーズ開始から35年以上を経た現在でも高い人気をほこっている。
「機動警察パトレイバー」のこれまで
初期OVA(1988年~1989年)
全7話構成で、5話、6話が前後編で連続している以外は1話完結のオムニバス形式。これまでのロボットアニメに囚われず、ロボットそのものの活躍よりも、ロボットを動かす人々に着目したバラエティに富んだストーリーが展開される。
漫画連載(1988年~1994年)
「週刊少年サンデー」にて6年に渡って連載された長編シリーズ。敵組織である「シャフト・エンタープライズ 企画7課」との戦いを中心に、ゆうきまさみによるリアルな人間ドラマが描かれている。OVA版とは基本設定は共通しているがストーリー展開が異なる。
機動警察パトレイバー劇場版(1989年7月)
OVA版の好評を受けて公開された劇場版。OVA版と地続きの世界観であり、当時としては目新しいコンピューターウィルスによる犯罪を描いた斬新な作品。
テレビシリーズ(1989年10月~1990年9月)
明るいノリでギャグを交えたバラエティに富んだシリーズ。OVA版、漫画版とは異なる新たなストーリー展開だが、後半には漫画版のエピソードも取り入れている。
小説版(1989年~1993年)
伊藤和典による劇場版のノベライズ、およびテレビシリーズの脚本を手掛けた横手美智子によるオリジナルストーリー。OVA版~劇場版のストーリーを踏襲している。
また、小説としては後年に、押井守により「TOKYO WAR – 機動警察パトレイバー」(1994年)や「番狂わせ 警視庁警備部特殊車輛二課」(2011年)が執筆されている。
新OVA(1990年11月~1992年4月)
テレビシリーズの続編。人間ドラマを中心としながらもコメディ要素が色濃く打ち出されたシリーズ。
機動警察パトレイバー2 the Movie(1993年8月)
旧OVA~劇場版1作目の流れを受けた劇場版2作目。当時ではまだ少なかったCGを採用し、東京を舞台に押井守監督独自の戦争観に基づいた重厚なストーリーが展開される。
また、物語の鍵を握る人物の声を竹中直人、根津甚八が演じたことも話題となった。
WXIII 機動警察パトレイバー(2002年3月)
実に9年ぶりの映画作品。監督は高山文彦。漫画版のエピソード「廃棄物13号」をモチーフに、レイバー襲撃事件を捜査する2人の刑事の視点から新たなパトレイバーの世界が描かれる。
ミニパト(2002年3月)
「WXIII 機動警察パトレイバー」と同時上映された、ディフォルメされたキャラクターによる3DCGパタパタアニメ。全3話の短編が週替わりで上映された。
押井守がシナリオを担当し、1話毎に担当キャラクターによるマニアックな独り語りが展開され、面白可笑しい作品に仕上がっている。
THE NEXT GENERATION パトレイバー(2014年~2015年)
「機動警察パトレイバー2 the Movie」の流れをくむ押井守監督による実写作品。全13話、および長編映画「THE NEXT GENERATION パトレイバー首都決戦」が作成された。
不況によりレイバーが衰退し、パトレイバーも存在意義がなくなった2013年の東京を舞台にしている。
機動警察パトレイバーREBOOT(2016年)
「日本アニメ(ーター)見本市」にて作成された8分程の短編アニメ。
上記以外にもゲームや劇場版のサウンドリニューアルDVDなど、様々なメディアを横断したシリーズ展開がされている。
今後の展開
2017年に新プロジェクト「機動警察パトレイバー EZY」の制作が発表された。
現時点では公開日や展開メディア、作品内容については発表されていないが、HEADGEARのメンバーである出渕裕が監督を務めることもあり、これまでのパトレイバーの歴史を踏まえた作品になることが予想される。
シリーズスタートから35年以上経た現在でも、イベントの開催やグッズの発売が行われている人気コンテンツであるパトレイバーが、令和の時代にどのような進化した姿で我々を魅了してくれるのか、大いに期待したい。
③『機動警察パトレイバー』出渕裕氏インタビュー
『機動警察パトレイバー』の原作・HEADGEARのおひとりであり、現在制作中の『機動警察パトレイバー EZY』監督でもある出渕裕氏に作品への想いなどを伺いました。
—— 漫画家・ゆうきまさみさんと「パトレイバー」の企画を練っているときに、一番面白いと思ったポイントは何ですか?
出渕:今までのリアルロボットものと言われるジャンルでは、基本ロボットは「兵器」として描かれていましたが、今回は「警察車両」に当たる扱いであったこと、相手を破壊したり殺傷するのではなく「捕縛」する点です。
—— アニメ化する際に最も大事にしたことは何でしょうか?
出渕:伊藤(和典)さんが参加されて仰っていたことですが「焼き魚定食のようなアニメ」でしょうか。
10年後の未来と言ってもほぼ「現代」を志向していましたから、いま考えると視聴者の身近にいる、いそうな選抜されたエリートではない主人公たちを、ややヘタレも加味してリアルに平凡に描けたらと思っていたのかなあ。
—— OVAが発表された後、劇場版・テレビアニメシリーズなど作品が様々な形で広がったことを、どう感じましたか?
出渕:なんか知らぬ間に増殖しちゃっていくなあ、でしょうか(笑)
©HEADGEAR
—— 企画立ち上げから40年近く経ち、新作『機動警察パトレイバー EZY』プロジェクトが始動したことをどのように感じていますか?
出渕:諸条件がクリアされて、オリジナルの精神を失わない感じでネクストジェネレーションを描いていけるようになったんだなと。スタンスを変えるつもりはないので、果たしてそれがいま現在のアニメファンにどう響くのか、響かないのか、そう言ったことも試される作品になるのかなと。
—— 現状の制作状況など、お話しいただける範囲で教えていただけますか。
出渕:ほふく前進で着実に、亀の歩みで進んでいます(笑)
時間をかけさせてもらえている分、目の肥えている現在の観客にも、納得してもらえる仕上がりにはなっているかと思います。