津堅信之
アニメーション研究/日本大学藝術学部講師
『ドラゴンボール』【1】『キン肉マン』【2】『聖闘士星矢』【3】『ONE PIECE』【4】・・・。どれも長く親しまれてきた漫画のタイトルである。これらは
「週刊少年ジャンプ」【5】に連載され、同時にテレビアニメ化された。しかも『ONE PIECE』の放送は20年を超え、『ドラゴンボール』も繰り返し新作が作られて、親子二世代で楽しめるタイトルになった。
これら人気漫画のテレビアニメ版を制作したのが、東映アニメーション(東映アニメ)である。
国内外で人気の高い日本のアニメの特色として思い浮かぶのは、SF、ファンタジー、巨大ロボットの登場などだろう。一方、東映アニメの作品群は、冒頭で挙げたタイトルからわかるように、そうしたジャンルの作品はむしろ少ない。
確かに東映アニメは、かつて
『マジンガーZ』【6】(1972年)を大ヒットさせ、巨大ロボットものアニメを先導したが、最も得意にしてきた分野の一つがアクションものだった。しかも、『ドラゴンボール』から『ONE PIECE』まで、主人公を中心としたアクションを力強く描きながら、仲間を思いやる友情や絆がベースにあり、それは任侠ものに例えられることもある。
超人的な能力をもった主人公のアクションであれば、その視聴者は比較的年少の男の子を中心とした、限られた層で構成されるかもしれない。しかし、東映アニメのアクション作品は幅広い世代から支持されて長期放送を続け、子ども世代がどんどん更新されても人気を維持してきた。誰もが原始的に希求し、期待している「心のヒロイズム」を描き続けてきたのが東映アニメだからである。
日曜日の朝8時半が、魔法少女たちの活躍する時間になって久しい。
このアニメ時間枠そのものは80年代半ばにできて、
『ビックリマン』【7】『ママレード・ボーイ』【8】などのタイトルが並ぶ。ここに魔法少女ものが登場したのは
『おジャ魔女どれみ』【9】(1999年)が最初である。
日曜朝の魔法少女たちのイメージを確立したのは、何といっても
『プリキュア』シリーズ【10】だろう。2004年放送の『ふたりはプリキュア』から現在まで毎年新作を送り出し続けており、半世紀以上前に魔法少女アニメ第1作
『魔法使いサリー』【11】(1966年)を生んだ東映アニメの伝統と創造力を象徴するシリーズになっている。
ここ20年、夜7時台を中心とした、いわゆるゴールデンタイムは、子どもたちのための時間枠ではなくなった。少子化や子ども向け娯楽の多様化、ネットを中心とした視聴環境の変化、さらには学習塾へ通う子どもの帰宅時間の変化などが理由とされる。
週末朝の時間枠に注目し、そこに魔法少女アニメを導入した東映アニメは、子ども向けの新しい文化を作ったといえるかもしれない。
こうして見てくると、東映アニメはもっぱらテレビアニメでヒット作を連発し、ブームを形成してきたようにみえる。最近も、
『おしりたんてい』【12】や
『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』【13】などの話題作を送り出している。
しかし、東映アニメは日本初のフルカラー長編アニメ映画を制作したスタジオであって、その実力は劇場用長編アニメにも活かされてきた。
『おジャ魔女どれみ』シリーズ20周年を記念して昨年公開された長編
『魔女見習いをさがして』【14】は、シリーズの魔法少女が主人公ではなく、子どもの頃に『どれみ』を見ていたという3人の大人の女性が主人公になった。
ある日まったく偶然に出会った3人は、『どれみ』に出会って20年、それぞれの現実を語り合いながら、ひとつの小さな夢を実現しようとする。魔法少女の世界に憧れた思い出と、大人になって接する厳しい日常とを交錯させながら、人生を豊かに彩るためには何が必要なのかまで問いかけたストーリーは、多くの大人の観客を感動させた。
一つのタイトルやシリーズを数十年にわたって作り続けてきた東映アニメにしか成し得ない長編が、『魔女見習いをさがして』だった。
定番を誠実に、長期にわたって作り続けることに加え、その定番を使って次の時代を切り拓くようなエンタテインメントを追求する東映アニメに、これからも期待していきたい。