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ねりま映像人インタビュー

第35回 宮葉勝行さん 前編

第35回 宮葉勝行さん 前編

2025.03.07

こちらのコンテンツは、是非音声版でお楽しみください

練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化の関わりを紹介する「ねりま映像人インタビュー」のダイジェストテキストです。
今回と次回のゲストは、東映東京撮影所のスーパー戦隊シリーズで、長年にわたり選曲を担当する宮葉勝行さん。また、幼少期から学生時代も練馬区で過ごしていらっしゃいました。
今回は新たに始まった『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』や練馬区のお話を中心にお伺いします。

—— 宮葉さんが担当されている「選曲」は、一言で表すならどんなお仕事でしょうか?

宮葉:音楽監督に近いですね。 番組が始まる前に、どういう音楽が必要なのかを考え、リストアップして作曲家に伝えて音楽を作ってもらう。そして出来上がった映像にその音楽を選んではめていく作業です。
新しいシリーズが始まる前に、企画書を読み、プロデューサーと、第一話の監督と打ち合わせをして、その中で今年は例年とどう違うのか、何をしたいのかを聞いて、それを音楽に組み込んでいきます。

—— 作曲家さんには、どういう形でオーダーするのでしょうか?

宮葉:音楽メニューというリストを作るんです。戦隊シリーズ【1】の場合は、第1回の録音で70曲ほど作るのですが、例えばアクションが多そうな戦隊の場合はアクションの曲を多めにして、ドラマが多そうな場合は心情曲を多めにしたり。その辺りのさじ加減を考えながら70曲に収まるように考えて、そのリストを作曲家さんとレコード会社に送って作ってもらいます。
そのリストに、「こういう曲をお願いします」と書くのですが、作曲家さんに文章で音楽のイメージを伝えるというのがすごく難しくて、それを言葉でどう表現するかは、毎回悩むところですね。

—— 途中でもっと曲が欲しくなったりはしないのでしょうか?

宮葉:6月ぐらいに、20曲から30曲、録り足すことになっているんです。戦隊シリーズでは年間を通して、「何月にどういうキャラが出てきて、何月にどういうロボが出てきて、何月に悪が変わる」という、何となくのスケジュールが出来ているので。だから、1回目の録音ではどのキャラのテーマを録っておく、というのも僕の方で考えます。

—— 年間で合計何曲ぐらい作られますか?

宮葉:テレビで100曲ぐらいですね。その他に、劇場版は全曲新しく録り直しています。譜面とかメロディは同じものですが、大人の事情でいろんな権利問題があるので。
映画の場合はフィルムスコアリングと言って、映像の動きに合わせた音楽を作ってもらうことになっています。

—— 今年始まったばかりの『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』【2】ですが、50周年記念作品にご自身が参加していることをどのようにお考えでしょうか?

宮葉:学生時代に『サンバルカン』【3】『ゴーグルファイブ』【4】などを観ていた頃、「戦隊シリーズが50作まであったりしてね」なんてのは笑い話だったんですけど、まさかそれが現実になるとは。しかも自分が絡むとは、すごく不思議な気分ですね。
戦隊スタッフとしては、関わった本数が多い方なんです。特撮監督の佛田さん【5】の次ぐらいじゃないかな? しかも1年間50本ということは、30年で1,500本以上やっているわけで。そんなにやっているのに、「こんなに成長してなくていいのか?」と、時々自分が情けなくなります(笑)。

—— 『ゴジュウジャー』では、どんなことを大事にしていますか?

宮葉:50周年なので、今までの集大成なのかな?と思いきや、今度の松浦プロデューサー【6】が若手の人で、この機会にガラッと変わった戦隊になるんです。 だから何か大事にしているということよりも、「何か新しいことができるかな?」という期待感と、「新しいことをやらなきゃな!」という責任感というかプレッシャーがありますね。シナリオとか設定がすごく複雑なので、音楽で何とかわかりやすくしていきたいなと思っています。

—— 特に聞いてほしい音楽はありますか?

宮葉:松浦プロデューサーと第一話の田﨑監督【7】を含めた最初の打ち合わせで、「今回は5人が協力するのではなく、5人のはぐれ者が集まった戦隊で、はぐれ者の音楽にしたいから、メインテーマはマカロニウエスタン【8】はどうか?」と監督から提案されたんです。 ちょうど今回の音楽の沢田完さん【9】が担当された『ドクターX』【10】で、割とマカロニっぽいテーマが使われているので、それを推しでいくことになりました。
   いかにマカロニテイストを――その孤独なテイストを、5人の集団ヒーローの中に当てはめていくかが、今回の狙いかなと思っています。

—— メイン監督の田﨑竜太監督は、中学高校の同級生、大学ではサークルも一緒、作品でも『ゼンカイジャー』【11】『ドンブラザーズ』【12】などで関わられており、気心知れた監督だと思います。

宮葉:付き合いが長いというよりも、世代が同じで見ているものは同じ、というところが非常に大きいですね。 同じ世代でしかも子どもの頃に特撮番組をよく観ていたので、理想のヒーロー像が同じなんですよ。
それは田﨑監督だけではなく、世代の近い監督はみんなそうなのですが、「こういうものがカッコイイ」というのは同じなので、自分の好きな音楽つけをしていけば大体通るんです。
田﨑監督に関しては特撮だけでなく、60年代70年代の映画にも非常に詳しくて、そういうところがベースになっているので、その頃の映画の文法通りに音楽をつけていけば、大体NGは出ないです。
彼自身がかなり許容範囲の広い監督なので、多少違っていても自分と同じ方向性であれば「これもありだな」と認めてくれる。こちらとしてもちょっと変わったことをやってもOKが出るので、楽しいですね。

—— 幼稚園から大学卒業までの間、練馬区上石神井でお過ごしになり、91年の『鳥人戦隊ジェットマン』【13】以降は東映東京撮影所【14】のスーパー戦隊シリーズに関わられています。宮葉さんにとって練馬区と言えば、どんなことが思い浮かびますか?

宮葉:練馬区自体は住宅街で、特にプレイスポットが多いわけではありませんが、新宿や池袋への交通の便が非常に良く、小学校時代から新宿にはよく遊びに行ってました。
石神井公園【15】のような、子どもが遊べる自然のスポットもあって、過ごしやすいところです。
大泉では、LIVIN OZ【16】によく行っています。出来てから40年くらいですが、その頃は外付けのエスカレーターがすごく珍しくて、1984年の『超電子バイオマン』【17】ではそのエスカレーターをそのまま秘密基地のシーンで使っていたんですよ。そういう意味では戦隊とは非常に繋がりが深い場所ですね。

—— 最後に一言、ご挨拶をおねがいします。

宮葉:今月から始まりました『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』。ヒーロー番組のNo.1を目指してみんな頑張っておりますので、ぜひご覧ください。よろしくお願いします。

ありがとうございました。
次回も引き続き、宮葉勝行さんにお話を伺いします。

明日の勇気につながる1作宮葉勝行さんのおススメ!

『ポリス・ストーリー/香港国際警察』
(1985年/香港/監督・脚本・主演・武術指導:ジャッキー・チェン/出演:ブリジット・リン、マギー・チャン、トン・ピョウ ほか)
麻薬シンジゲートの摘発に乗り出した香港警察。チェン刑事は激闘の末、ボスのチュウと秘書サリナを逮捕するが、司法取引でサリナは釈放されることに。身辺警護を命ぜられたチェンは、彼女を狙う敵に立ち向かうのだが…!

宮葉:学生時代から好きな映画でしたが、この仕事をやるようになって「これはすごいな!」と思った映画です。ジャッキーが命がけのスタントをやるのは有名ですが、この映画はジャッキー以外のやられ役やヒロインも、スタントがすごいです。
冒頭に、山の斜面にあるバラックの貧民街を車で突っ走るシーンがありますが、走ってくる車とか爆発する家のすぐそばに人がいるんですよ。すごく危ない状況で、バンバン爆発したり、高いところから落っこちたりして。「香港映画を世界に売り出してやる!こんなすごいことやって世界中を驚かしてやるぜ!」という意気込みがすごく感じられて、観ていて燃えますね。
本テキストは音声版のダイジェストです。
是非音声版でお楽しみください。

プロフィール

宮葉 勝行(みやば かつゆき)
練馬区出身。1991年放送の『鳥人戦隊ジェットマン』から、2025年から放送開始した50周年記念作品『No.1戦隊ゴジュウジャー』にいたるまで、34年にわたり「スーパー戦隊シリーズ」の選曲を担当。また、『爆竜戦隊アバレンジャー』(03-04)から『機界戦隊ゼンカイジャー』(21-22)4話まではMAとアフレコも担当している。

ダイジェストテキストに登場する作品名・人物名等の解説

【1】スーパー戦隊シリーズ
東映制作の特撮TVドラマシリーズ。1975から1977年に放送された『秘密戦隊ゴレンジャー』から始まり、現在まで途切れることなく放送が続いている。2025年2月より放送を開始した『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』で49作となる。
【2】『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』
2025年2月より放送中の東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズの第49作品目で、50周年記念作品。モチーフは動物や恐竜=獣(けもの・ジュウ)。悪の軍団ブライダから送り込まれるナンバーワン怪人に立ち向かいながら、センタイリングを求め競い合うゴジュウジャーたちの活躍を描く。
原作:八手三郎/監督:田﨑竜太/脚本:井上亜樹子/出演:冬野心央、鈴木秀脩、神田聖司、松本仁、今森茉耶、三本木大輔、まるぴ、湯田幸希、カルマ、中越典子 ほか (※監督・脚本は第2話放送時点)
【3】『太陽戦隊サンバルカン』
1981年から1982年に全50話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第5作。モチーフは動物。メンバーは男性3人のみで構成されている。機械帝国ブラックマグマの侵攻に立ち向かう、サンバルカンの活躍を描く。
【4】『大戦隊ゴーグルファイブ』
1982年から1983年に全50話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第6作。モチーフは古代文明。メンバーは女性を含めた5人だが、本作で初めて「黒」色の戦士が採用された。暗黒科学帝国デスダークによる世界征服を阻止すべく戦う、ゴーグルファイブの活躍を描く。
【5】佛田洋(ぶつだ ひろし)さん
特撮監督、株式会社特撮研究所代表。『超電子バイオマン』(84-85)の美術スタッフとしてキャリアをスタート。『地球戦隊ファイブマン』(90-91)で特撮監督としてデビュー。以後、スーパー戦隊シリーズ、仮面ライダーシリーズをはじめ一般映画でも特撮監督として活躍。また、『スーパー戦闘 純烈ジャー』(21)などの作品では監督も務める。 『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』にも特撮監督として参加している。
【6】松浦大悟(まつうら だいご)さん
東映のプロデューサー。『機界戦隊ゼンカイジャー』(21-22)『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(22-23)などにプロデューサー補として参加。東映特撮ファンクラブで配信された『忍風戦隊ハリケンジャーwithドンブラザーズ』(22)『爆竜戦隊アバレンジャーwithドンブラザーズ』(23)『暴太郎戦隊ドンブラザーズVS暴太郎戦隊ドンブリーズ』(23)ではプロデューサーに名を連ねる。『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』ではチーフプロデューサーを担当。本作が初プロデュース作品となる。
【7】田﨑竜太(たさき りゅうた)さん
映画監督、テレビドラマ監督。『仮面ライダー』シリーズ、『スーパー戦隊』シリーズのほか、『科捜研の女』シリーズなど、多数の作品で活躍。『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』では、パイロット及びメイン監督を担当する。
ねりま映像人インタビューの第1回第2回では、田﨑監督にお話を伺っています。また、当サイトリニューアル記念「俳優・松田悟志×監督・田﨑竜太 トークセッション 東映東京撮影所と映像∞文化のまち ねりま」のアーカイブも配信しています
【8】マカロニウエスタン
1960年代から1970年代に作られた、イタリア製西部劇のこと。アメリカの西部劇の多くが、保安官や用心棒など「正義の味方」を主人公として描かれるのに対し、マカロニウエスタンでは流れ者や賞金稼ぎなど、アウトロー的な人物が主人公とされることが多い。1964年に公開された『荒野の用心棒』(監督:セルジオ・レオーネ/音楽:エンニオ・モリコーネ/主演:クリント・イーストウッド)の世界的大ヒット以降、500本以上の作品が製作された。
【9】沢田完(さわだ かん)さん
作曲家。映画『モスラ2 海底の大決戦』のオーケストレーターを務めた際に、スコアの仕上げも担当したのをきっかけに劇伴に関わるようになり、以後、映画・ドラマ・アニメ・舞台など幅広いジャンルで活躍している。
【10】『Doctor-X 外科医・大門未知子』
2012年に第1シリーズが放送された、米倉涼子主演のTVドラマ。2024年までにTVシリーズ7期、TVスペシャル1本を放送。2024年12月公開の映画『劇場版ドクターX FINAL』で完結した。
沢田完さんは、シリーズを通して音楽を担当している。
【11】『機界戦隊ゼンカイジャー』
2021年から2022年に全49話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第45作。モチーフは歴代のスーパー戦隊。並行世界を侵略するキカイトピア王朝トジテンドに立ち向かうべく立ち上がった、機界戦隊ゼンカイジャーの戦いを描く。
【12】『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』
2022年から2023年に全50話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第46作。モチーフは、おとぎ話の「桃太郎」。変身後のメンバー5人のうち2人は、全編CGで描かれている。人間界に現れた脳人(ノート)、獣人(ジュート)、ヒトツ鬼(ヒトツキ)から人々を守るために戦うドンモモタロウと4人のお供たちの姿を描く。
【13】『鳥人戦隊ジェットマン』
1991年から1992年に全51話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第15作。モチーフは鳥。本作ではメンバー内での恋愛模様が物語の中心として描かれ、大きな話題となった。次元戦団バイラムの地球侵略に立ち向かうべく結成された、ジェットマンたちの活躍を描く。
【14】東映東京撮影所』
東京都練馬区東大泉に所在する、東映株式会社の映画スタジオ。
【15】石神井公園
練馬区石神井台にある都立公園。古来より武蔵野三大湧水池として知られる三宝寺池があり、それを散策できる公園として1959年に整備された。
【16】LIVIN OZ
リヴィンオズ大泉店のこと。1983年に東映東京撮影所のオープンセット跡地に「西友オズ大泉店」として開業した商業施設。
【17】『超電子バイオマン』
1984年から1985年に全51話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第8作。チームは女性を含めた5人だが、本作で初めて「女性戦士が2人」の要素が採り入れられた。新帝国ギアを率いるドクターマンによる世界征服を阻止すべく集結したバイオマンたちの戦いを描く。
劇中、リヴィンオズ大泉店の外付けエスカレーターが、巨大戦闘母艦「バイオドラゴン」の搭乗用エスカレーターとして登場する。
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