—— 宮葉さんが担当されている「選曲」は、一言で表すならどんなお仕事でしょうか?
宮葉:音楽監督に近いですね。 番組が始まる前に、どういう音楽が必要なのかを考え、リストアップして作曲家に伝えて音楽を作ってもらう。そして出来上がった映像にその音楽を選んではめていく作業です。
新しいシリーズが始まる前に、企画書を読み、プロデューサーと、第一話の監督と打ち合わせをして、その中で今年は例年とどう違うのか、何をしたいのかを聞いて、それを音楽に組み込んでいきます。
—— 作曲家さんには、どういう形でオーダーするのでしょうか?
宮葉:音楽メニューというリストを作るんです。戦隊シリーズ【1】の場合は、第1回の録音で70曲ほど作るのですが、例えばアクションが多そうな戦隊の場合はアクションの曲を多めにして、ドラマが多そうな場合は心情曲を多めにしたり。その辺りのさじ加減を考えながら70曲に収まるように考えて、そのリストを作曲家さんとレコード会社に送って作ってもらいます。
そのリストに、「こういう曲をお願いします」と書くのですが、作曲家さんに文章で音楽のイメージを伝えるというのがすごく難しくて、それを言葉でどう表現するかは、毎回悩むところですね。
—— 途中でもっと曲が欲しくなったりはしないのでしょうか?
宮葉:6月ぐらいに、20曲から30曲、録り足すことになっているんです。戦隊シリーズでは年間を通して、「何月にどういうキャラが出てきて、何月にどういうロボが出てきて、何月に悪が変わる」という、何となくのスケジュールが出来ているので。だから、1回目の録音ではどのキャラのテーマを録っておく、というのも僕の方で考えます。
—— 年間で合計何曲ぐらい作られますか?
宮葉:テレビで100曲ぐらいですね。その他に、劇場版は全曲新しく録り直しています。譜面とかメロディは同じものですが、大人の事情でいろんな権利問題があるので。
映画の場合はフィルムスコアリングと言って、映像の動きに合わせた音楽を作ってもらうことになっています。
—— 今年始まったばかりの『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』【2】ですが、50周年記念作品にご自身が参加していることをどのようにお考えでしょうか?
宮葉:学生時代に『サンバルカン』【3】や『ゴーグルファイブ』【4】などを観ていた頃、「戦隊シリーズが50作まであったりしてね」なんてのは笑い話だったんですけど、まさかそれが現実になるとは。しかも自分が絡むとは、すごく不思議な気分ですね。
戦隊スタッフとしては、関わった本数が多い方なんです。特撮監督の佛田さん【5】の次ぐらいじゃないかな? しかも1年間50本ということは、30年で1,500本以上やっているわけで。そんなにやっているのに、「こんなに成長してなくていいのか?」と、時々自分が情けなくなります(笑)。
—— 『ゴジュウジャー』では、どんなことを大事にしていますか?
宮葉:50周年なので、今までの集大成なのかな?と思いきや、今度の松浦プロデューサー【6】が若手の人で、この機会にガラッと変わった戦隊になるんです。 だから何か大事にしているということよりも、「何か新しいことができるかな?」という期待感と、「新しいことをやらなきゃな!」という責任感というかプレッシャーがありますね。シナリオとか設定がすごく複雑なので、音楽で何とかわかりやすくしていきたいなと思っています。
—— 特に聞いてほしい音楽はありますか?
宮葉:松浦プロデューサーと第一話の田﨑監督【7】を含めた最初の打ち合わせで、「今回は5人が協力するのではなく、5人のはぐれ者が集まった戦隊で、はぐれ者の音楽にしたいから、メインテーマはマカロニウエスタン【8】はどうか?」と監督から提案されたんです。
ちょうど今回の音楽の沢田完さん【9】が担当された『ドクターX』【10】で、割とマカロニっぽいテーマが使われているので、それを推しでいくことになりました。
いかにマカロニテイストを――その孤独なテイストを、5人の集団ヒーローの中に当てはめていくかが、今回の狙いかなと思っています。
—— メイン監督の田﨑竜太監督は、中学高校の同級生、大学ではサークルも一緒、作品でも『ゼンカイジャー』【11】『ドンブラザーズ』【12】などで関わられており、気心知れた監督だと思います。
宮葉:付き合いが長いというよりも、世代が同じで見ているものは同じ、というところが非常に大きいですね。 同じ世代でしかも子どもの頃に特撮番組をよく観ていたので、理想のヒーロー像が同じなんですよ。
それは田﨑監督だけではなく、世代の近い監督はみんなそうなのですが、「こういうものがカッコイイ」というのは同じなので、自分の好きな音楽つけをしていけば大体通るんです。
田﨑監督に関しては特撮だけでなく、60年代70年代の映画にも非常に詳しくて、そういうところがベースになっているので、その頃の映画の文法通りに音楽をつけていけば、大体NGは出ないです。
彼自身がかなり許容範囲の広い監督なので、多少違っていても自分と同じ方向性であれば「これもありだな」と認めてくれる。こちらとしてもちょっと変わったことをやってもOKが出るので、楽しいですね。
—— 幼稚園から大学卒業までの間、練馬区上石神井でお過ごしになり、91年の『鳥人戦隊ジェットマン』【13】以降は東映東京撮影所【14】のスーパー戦隊シリーズに関わられています。宮葉さんにとって練馬区と言えば、どんなことが思い浮かびますか?
宮葉:練馬区自体は住宅街で、特にプレイスポットが多いわけではありませんが、新宿や池袋への交通の便が非常に良く、小学校時代から新宿にはよく遊びに行ってました。
石神井公園【15】のような、子どもが遊べる自然のスポットもあって、過ごしやすいところです。
大泉では、LIVIN OZ【16】によく行っています。出来てから40年くらいですが、その頃は外付けのエスカレーターがすごく珍しくて、1984年の『超電子バイオマン』【17】ではそのエスカレーターをそのまま秘密基地のシーンで使っていたんですよ。そういう意味では戦隊とは非常に繋がりが深い場所ですね。
—— 最後に一言、ご挨拶をおねがいします。
宮葉:今月から始まりました『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』。ヒーロー番組のNo.1を目指してみんな頑張っておりますので、ぜひご覧ください。よろしくお願いします。
ありがとうございました。
次回も引き続き、宮葉勝行さんにお話を伺いします。
明日の勇気につながる1作宮葉勝行さんのおススメ!
『ポリス・ストーリー/香港国際警察』
(1985年/香港/監督・脚本・主演・武術指導:ジャッキー・チェン/出演:ブリジット・リン、マギー・チャン、トン・ピョウ ほか)
麻薬シンジゲートの摘発に乗り出した香港警察。チェン刑事は激闘の末、ボスのチュウと秘書サリナを逮捕するが、司法取引でサリナは釈放されることに。身辺警護を命ぜられたチェンは、彼女を狙う敵に立ち向かうのだが…!
宮葉:学生時代から好きな映画でしたが、この仕事をやるようになって「これはすごいな!」と思った映画です。ジャッキーが命がけのスタントをやるのは有名ですが、この映画はジャッキー以外のやられ役やヒロインも、スタントがすごいです。
冒頭に、山の斜面にあるバラックの貧民街を車で突っ走るシーンがありますが、走ってくる車とか爆発する家のすぐそばに人がいるんですよ。すごく危ない状況で、バンバン爆発したり、高いところから落っこちたりして。「香港映画を世界に売り出してやる!こんなすごいことやって世界中を驚かしてやるぜ!」という意気込みがすごく感じられて、観ていて燃えますね。