映像∞文化のまち ねりま

ねりま映像人インタビュー

第36回 宮葉勝行さん 後編

第36回 宮葉勝行さん 後編

2025.03.14

こちらのコンテンツは、是非音声版でお楽しみください

練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化の関わりを紹介する「ねりま映像人インタビュー」のダイジェストテキストです。 音声版は更に内容が充実しています。是非お聴きください。
ゲストは前回に引き続き、選曲の宮葉勝行さん。今回は、スーパー戦隊の仕事を続けた34年の仕事歴と、この間における現場の変化などのお話を中心に伺います。

—— 最初に担当した『鳥人戦隊ジェットマン』【1】の頃は、どのように仕事を覚えていったのでしょう?

宮葉:この仕事を勧めてくれた、東映のプロデューサーで大学の先輩の髙寺さん【2】から言われるまで、選曲なんて仕事がこの世にあることすら知らなかったんです。もう見るもの全部初めてで、いろいろなことを勉強するのに一生懸命でした。 音楽録音とか作曲家との打ち合わせに関しては、学生時代に6年間やっていたブラスバンドで培った音楽知識で何とかなりましたが、実際に音楽を録音する、音楽を映像にはめていくというのはまた違うセンスになるので、それはゼロからの勉強でした。
戦隊【3】というのはパターンが決まっているので、「パターンにはめていけば良い」と思っていたんですよ。 でも、実際に現場に行ってみたら、1本1本いい大人が「ああでもない、こうでもない」と、すごく真面目にディスカッションしながら作っていて、「考えていたのと違う」と思って焦りました。
特にデビュー作の『鳥人戦隊ジェットマン』は、今までの戦隊のパターンから逸脱して新しいものをやっていこうということで、これまでのパターンと違うものが結構多かったんです。人間ドラマも多かったし。それを一番初めにできたのは、自分の勉強になったかなと思います。

—— 最初は師匠さんみたいな方に、いろいろ教わりながら仕事を覚えていったということですが、だんだん独り立ちという中で、自分が納得できるようになったのは、どの作品ですか?

宮葉『カーレンジャー』【4】で制作体制がガラッと変わったんですよ。コロムビアのディレクターは若くなり、プロデューサーも鈴木武幸さん【5】から髙寺さんになって、監督陣も田﨑監督【6】とか渡辺監督【7】とか同世代の人が入ってきたんです。自分が変わったというよりも、自分の感覚が通る体制になったということですね。 師匠から駄目出しされるけど、監督やプロデューサーからはOKされるみたいな、すごくやりやすい雰囲気になりました。
作曲家さんも「見ているものが同じ」世代が増えてきたので、こういうシーンにこういう曲が欲しいという注文がしやすくなりました。
『カーレンジャー』の作曲を担当された佐橋俊彦さん【8】は特撮が大好きな人で、自宅に遊びに行ってそこで打ち合わせしたりして、それ以降もプライベートでもいろいろ付き合いさせていただいています。

—— 作品を手掛ける時に、ご自身として持っているテーマみたいなものはありますか?

宮葉:視聴者がどこで喜びたいのか、どこで盛り上がりたいのかという、受け手側の感覚で作ってはいます。
子どもの頃にヒーロー番組を見て「おー、かっこいい!」って盛り上がったように、今の子どもにも同じ感覚を味わってほしいと思っています。

—— 選曲をやりながら、2003年の『爆竜戦隊アバレンジャー』【9】から2021年の『ゼンカイジャー』【10】の4話までの間、MA【11】とアフレコも担当されました。

宮葉:これはその当時、実写版『セーラームーン』【12】が始まるというので、プロデューサーから「戦隊の録音技師さんがそっちに行くから、選曲とミキサー両方やらないか?」と言われて、音響監督的な仕事をやらせてもらったんです。おかげでちょっとギャラが増えたので、もう『セーラームーン』には足を向けて寝られない感じですね(笑)。

—— MAの仕事として大事なポイントは、どんなところでしょうか?

宮葉:全ての音を聞かせるということですね。MAでセリフ、効果音、音楽、全てのバランスをとらなきゃいけないので。それでセリフを生かす音楽のつけ方を勉強して、その後は音楽のつけ方が少し変わりました。
ハリウッドのSF映画やアクション映画は、日本と比べて音響がすごいじゃないですか。あれは、技術者の意見が強いので、音楽を聞かせるカット、セリフを聞かせるカット、効果音を聞かせるカットと、全カットをすごく計算しているんですよ。
日本の場合は監督のイメージが主なんです。監督の頭の中では、セリフと効果音と音楽、全ての音が一緒に出ているので、それをどうにかしなきゃいけない。それをやっているのは、多分日本映画ぐらいで。
例えばハリウッドや香港のアクション映画でも、戦っている最中はまずセリフがない。動きが止まったところで「お前なかなかやるな」みたいなセリフを言う。
ところが戦隊の場合は戦いながら、動きながら、ずっとセリフを言っている。その間にも爆発が起こるわ銃も撃つわビームも出るわ、怪人は喋りながら火を吐くんですよ(笑)。
ハリウッド映画では、『デッドプール』【13】やMCU版の『スパイダーマン』【14】とかから戦いながら喋るヒーローが出てきましたが、それ以外ではたぶん日本の戦隊とライダー【15】だけですね。 だから日本映画は世界一難しいことをやっていると思います。

—— アフレコでは役者さんに直接指示を出すということになりますが、難しかったことや、面白かったことはありますか?

宮葉:ブラスバンド出身ということもあって、僕自身は大きな声が出ちゃうんですよ。だから大きな声を出せない役者さんに、どう指導したらいいのかがわからなくて、難しいですね。
それでも映像に合わせながら体を動かしてもらったり、オンエアで実際に見てから、「ほら、効果音に負けてるでしょ」みたいな話をしながら、反省してもらったりしています。
今をときめく松坂桃李くん【16】とか、横浜流星くん【17】とか、山田裕貴くん【18】とか、初めてのアフレコで声の出し方を教えたのは僕なわけで、そういう役者さんたちが活躍しているのはすごく嬉しいですね。

—— 34年間の仕事の中で、制作環境も大きく変わってきたところがあると思います。何か印象的なことはありますか?

宮葉:フィルムからビデオ撮影になったおかげで、アフレコはすごくやりやすくなりました。フィルムのアフレコでは1ロール3分ぐらいのフィルムを流しますが、1ヶ所間違えるとその部分だけ録り直すことができないので、また初めからやらなきゃいけないんです。ビデオの場合は部分的に、一言だけでも録り直すことかできるので、すごくやりやすくなりました。アフレコ自体がビデオになったのは『ガオレンジャー』【19】からですね。フィルムで撮ったものを1回ビデオにして、それからアフレコをするようになりました。
34年間の変化の中で言うと、僕の仕事的に一番変わったのは変身アイテムですね。
変身アイテムから出る音は、セリフよりも効果音よりも一番聞かせなきゃいけない。しかも今や、変身だけではなく、パワーアップフォームにチェンジするとき、ロボを呼ぶとき、必殺技を使うとき、全部アイテムから音が出るんです。ということは、クライマックスで劇伴(BGM)とか主題歌、挿入歌の一番の聞かせたいところは、全く使えない。もう飛車角を取られたような状態で、いかに劇伴や主題歌を印象深いところで使うかというのは、戦隊だけではなく、ライダーもウルトラ【20】などもですが、ここ10年の音響的な難しい問題ですね。

—— 最初はみんな上の立場だったプロデューサーや脚本家の方たちが、だんだん同世代になり、若返っていくという中で、ご自身の仕事環境の変化をどのように感じてらっしゃるのでしょうか?

宮葉:とにかく老害にならないように一生懸命です。若い人や子どもとは接する機会がないので、10代後半から20代のファンと、いろんな場所で交流を持って感想を聞いたり、若いスタッフと話したりしています。

—— これからどんな作品に関わりたいとか、やってみたいことなど、野望のようなものがあればぜひお聞かせください。

宮葉:作品に関しては、もう歳も歳だからあんまり仕事は増やせないので、今の仕事が長くできればいいなと思っています。
それから、監督に許してもらえれば、少し音楽の箇所を減らした音楽つけをやっていきたいなとは思っています。 全部説明しなくてもいいかなと思っているので。
悲しいのか、 嬉しいのか、悪に思い入れを持つのか、ヒーローに思い入れを持つのか、そういうのを観客に委ねる音つけがあってもいいんじゃないかな?と思いますね。

—— 最後に一言ご挨拶いただけますでしょうか。

宮葉:戦隊シリーズ、非常に効果音もセリフも多いですが、歌だけではなくBGMも気にして観てくれるようになると嬉しいです。どうかよろしくお願いします。ありがとうございました。

本テキストは音声版のダイジェストです。
是非音声版でお楽しみください。

プロフィール

宮葉 勝行(みやば かつゆき)
練馬区出身。1991年放送の『鳥人戦隊ジェットマン』から、2025年から放送開始した50周年記念作品『No.1戦隊ゴジュウジャー』にいたるまで、34年にわたり「スーパー戦隊シリーズ」の選曲を担当。また、『爆竜戦隊アバレンジャー』(03-04)から『機界戦隊ゼンカイジャー』(21-22)4話まではMAとアフレコも担当している。

ダイジェストテキストに登場する作品名・人物名等の解説

【1】『鳥人戦隊ジェットマン』
1991年から1992年に全51話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第15作。モチーフは鳥。本作ではメンバー内での恋愛模様が物語の中心として描かれ、大きな話題となった。次元戦団バイラムの地球侵略に立ち向かうべく結成された、ジェットマンたちの活躍を描く。
【2】髙寺成紀(たかてら しげのり)さん
プロデューサー。東映で『忍者戦隊カクレンジャー』(94-95)『超力戦隊オーレンジャー』(95-96)などのサブプロデューサーを務めたのち、プロデューサーとして『仮面ライダークウガ』(00-01)『激走戦隊カーレンジャー』(96-97)など特撮アクション作品を担当。 その後、KADOKAWAに移籍し、『大魔神カノン』(10)などをプロデュースしている。
【3】スーパー戦隊シリーズ
東映制作の特撮TVドラマシリーズ。1975年から1977年に放送された『秘密戦隊ゴレンジャー』から始まり、現在まで途切れることなく放送が続いている。2025年2月より放送を開始した『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』は49作目で、シリーズ50周年記念作品でもある。
【4】『激走戦隊カーレンジャー』
1996年から1997年に全48話放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第20作。モチーフは車。地球への侵攻を開始した宇宙暴走族ボーゾックに立ち向かう、自動車会社ペガサスの社員たちで結成されたカーレンジャーたちの活躍を描く。
【5】鈴木武幸(すずき たけゆき)さん
プロデューサー。東映テレビ部に所属し、数々の作品に携わる。スーパー戦隊シリーズでは、『太陽戦隊サンバルカン』(81-82)から『超力戦隊オーレンジャー』(95-96)まで15作品をプロデュースした。
【6】田﨑竜太(たさき りゅうた)さん
映画監督、テレビドラマ監督。『仮面ライダー』シリーズ、『スーパー戦隊』シリーズのほか、『科捜研の女』シリーズなど、多数の作品で活躍。『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』では、パイロット及びメイン監督を担当する。
※ねりま映像人インタビューの第1回、第2回では、田﨑監督にお話を伺っています。また、当サイトリニューアル記念「俳優・松田悟志×監督・田﨑竜太 トークセッション 東映東京撮影所と映像∞文化のまち ねりま」のアーカイブも配信しています。
【7】渡辺勝也(わたなべ かつや)さん
監督・演出家。『超新星フラッシュマン』(86-87)よりスーパー戦隊シリーズの助監督を務め、『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(92-93)で監督デビュー。以降もスーパー戦隊シリーズ、仮面ライダーシリーズなど多数の作品で活躍している。
【8】佐橋俊彦(さはし としひこ)さん
作曲家。TV、映画、アニメ、ゲーム、ミュージカルなど、様々な作品で活躍。スーパー戦隊シリーズ、仮面ライダーシリーズにも多数参加している。
【9】『爆竜戦隊アバレンジャー』
2003年から2004年に全50話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第27作。モチーフは恐竜。地球侵略を開始した邪命体エヴォリアンとの戦いに身を投じる、アバレンジャーたちの活躍を描く。
【10】『機界戦隊ゼンカイジャー』
2021年から2022年に全49話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第45作。モチーフは歴代のスーパー戦隊。並行世界を侵略するキカイトピア王朝トジテンドに立ち向かうべく立ち上がった、機界戦隊ゼンカイジャーの戦いを描く。
【11】MA(エムエー)
セリフ、効果音、音楽など映像につける「音」の要素をミキシングして仕上げること。
【12】実写版『美少女戦士セーラームーン』
2003年から2004年に全49話が放送された、東映制作の特撮ドラマ。原作は、アニメ化もされ大ヒットシリーズとなった武内直子の同名漫画。5人のセーラー戦士を、沢井美優、浜千咲(現・泉里香)、北川景子、安座間美優、小松彩夏が演じている。
【13】『デッドプール』
2016年に公開された、アメリカのスーパーヒーロー映画。マーベル・コミックの同名キャラクターをベースにした作品で、『X-MEN』と世界観を共有する。続編として『デッドプール2』(18)『デッドプール&ウルヴァリン』(24)が制作されている。
【14】MCU版の『スパイダーマン』
2017年に公開された、アメリカのスーパーヒーロー映画『スパイダーマン:ホームカミング』及びその続編『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(19)『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(21)のこと。マーベル・コミックの同名キャラクターをベースにした実写映画の2度目のリブート版であり、マーベル・コミック原作のスーパーヒーロー映像作品を同一世界のクロスオーバー作品とする「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」シリーズとして制作された。
【15】仮面ライダーシリーズ
東映制作の特撮TVドラマシリーズ。 第1作目は、1971年4月放送開始。また、2000年放送の『仮面ライダー クウガ』以降、毎年新シリーズが放送され続けている。
【16】松坂桃李(まつざか とおり)さん
俳優・モデル。2009年に『侍戦隊シンケンジャー』の志葉丈瑠/シンケンレッド役で俳優デビュー。主な作品に、映画『アントキノイノチ』(11)『孤狼の血』(18)『雪の花 -ともに在りて-』(25)、TVドラマ『梅ちゃん先生』(12)『パーフェクトワールド』(19)『御上先生』(25)など。
【17】横浜流星(よこはま りゅうせい)さん
俳優・モデル。2012年に『仮面ライダーフォーゼ』でTVドラマ初出演。『烈車戦隊トッキュウジャー』(14-15)ではヒカリ/トッキュウ4号を演じた。主な作品に映画『愛唄 -約束のナクヒト-』(19)『流浪の月』(22)『正体』(24)、TVドラマ『初めて恋をした日に読む話』(19)『私たちはどうかしている』(20)『べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺〜』(25)など。
【18】山田裕貴(やまだ ゆうき)さん
俳優。2011年に『海賊戦隊ゴーカイジャー』のジョー・ギブケン/ゴーカイブルー役で俳優デビュー。主な作品に、映画『あの頃、君を追いかけた』(18)『BLUE GIANT』(23/アニメーション)『ゴジラ-1.0』(23)、TVドラマ『特捜9』シリーズ(18~24)『SEDAI WARS』(20)『君が心をくれたから』(24)など。
【19】『百獣戦隊ガオレンジャー』
2001年から2002年に全51話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第25作。モチーフは動物。邪悪な鬼・オルグによる地球上生命絶滅の危機に立ち上がる、ガオレンジャーたちの活躍を描く。
【20】ウルトラシリーズ
1966年放送の『ウルトラQ』『ウルトラマン』を始祖とし、現在に至るまで断続的に続く円谷プロダクション制作の特撮ドラマシリーズ。
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