—— 最初に担当した『鳥人戦隊ジェットマン』【1】の頃は、どのように仕事を覚えていったのでしょう?
宮葉:この仕事を勧めてくれた、東映のプロデューサーで大学の先輩の髙寺さん【2】から言われるまで、選曲なんて仕事がこの世にあることすら知らなかったんです。もう見るもの全部初めてで、いろいろなことを勉強するのに一生懸命でした。
音楽録音とか作曲家との打ち合わせに関しては、学生時代に6年間やっていたブラスバンドで培った音楽知識で何とかなりましたが、実際に音楽を録音する、音楽を映像にはめていくというのはまた違うセンスになるので、それはゼロからの勉強でした。
戦隊【3】というのはパターンが決まっているので、「パターンにはめていけば良い」と思っていたんですよ。 でも、実際に現場に行ってみたら、1本1本いい大人が「ああでもない、こうでもない」と、すごく真面目にディスカッションしながら作っていて、「考えていたのと違う」と思って焦りました。
特にデビュー作の『鳥人戦隊ジェットマン』は、今までの戦隊のパターンから逸脱して新しいものをやっていこうということで、これまでのパターンと違うものが結構多かったんです。人間ドラマも多かったし。それを一番初めにできたのは、自分の勉強になったかなと思います。
—— 最初は師匠さんみたいな方に、いろいろ教わりながら仕事を覚えていったということですが、だんだん独り立ちという中で、自分が納得できるようになったのは、どの作品ですか?
宮葉:『カーレンジャー』【4】で制作体制がガラッと変わったんですよ。コロムビアのディレクターは若くなり、プロデューサーも鈴木武幸さん【5】から髙寺さんになって、監督陣も田﨑監督【6】とか渡辺監督【7】とか同世代の人が入ってきたんです。自分が変わったというよりも、自分の感覚が通る体制になったということですね。 師匠から駄目出しされるけど、監督やプロデューサーからはOKされるみたいな、すごくやりやすい雰囲気になりました。
作曲家さんも「見ているものが同じ」世代が増えてきたので、こういうシーンにこういう曲が欲しいという注文がしやすくなりました。
『カーレンジャー』の作曲を担当された佐橋俊彦さん【8】は特撮が大好きな人で、自宅に遊びに行ってそこで打ち合わせしたりして、それ以降もプライベートでもいろいろ付き合いさせていただいています。
—— 作品を手掛ける時に、ご自身として持っているテーマみたいなものはありますか?
宮葉:視聴者がどこで喜びたいのか、どこで盛り上がりたいのかという、受け手側の感覚で作ってはいます。
子どもの頃にヒーロー番組を見て「おー、かっこいい!」って盛り上がったように、今の子どもにも同じ感覚を味わってほしいと思っています。
—— 選曲をやりながら、2003年の『爆竜戦隊アバレンジャー』【9】から2021年の『ゼンカイジャー』【10】の4話までの間、MA【11】とアフレコも担当されました。
宮葉:これはその当時、実写版『セーラームーン』【12】が始まるというので、プロデューサーから「戦隊の録音技師さんがそっちに行くから、選曲とミキサー両方やらないか?」と言われて、音響監督的な仕事をやらせてもらったんです。おかげでちょっとギャラが増えたので、もう『セーラームーン』には足を向けて寝られない感じですね(笑)。
—— MAの仕事として大事なポイントは、どんなところでしょうか?
宮葉:全ての音を聞かせるということですね。MAでセリフ、効果音、音楽、全てのバランスをとらなきゃいけないので。それでセリフを生かす音楽のつけ方を勉強して、その後は音楽のつけ方が少し変わりました。
ハリウッドのSF映画やアクション映画は、日本と比べて音響がすごいじゃないですか。あれは、技術者の意見が強いので、音楽を聞かせるカット、セリフを聞かせるカット、効果音を聞かせるカットと、全カットをすごく計算しているんですよ。
日本の場合は監督のイメージが主なんです。監督の頭の中では、セリフと効果音と音楽、全ての音が一緒に出ているので、それをどうにかしなきゃいけない。それをやっているのは、多分日本映画ぐらいで。
例えばハリウッドや香港のアクション映画でも、戦っている最中はまずセリフがない。動きが止まったところで「お前なかなかやるな」みたいなセリフを言う。
ところが戦隊の場合は戦いながら、動きながら、ずっとセリフを言っている。その間にも爆発が起こるわ銃も撃つわビームも出るわ、怪人は喋りながら火を吐くんですよ(笑)。
ハリウッド映画では、『デッドプール』【13】やMCU版の『スパイダーマン』【14】とかから戦いながら喋るヒーローが出てきましたが、それ以外ではたぶん日本の戦隊とライダー【15】だけですね。 だから日本映画は世界一難しいことをやっていると思います。
—— アフレコでは役者さんに直接指示を出すということになりますが、難しかったことや、面白かったことはありますか?
宮葉:ブラスバンド出身ということもあって、僕自身は大きな声が出ちゃうんですよ。だから大きな声を出せない役者さんに、どう指導したらいいのかがわからなくて、難しいですね。
それでも映像に合わせながら体を動かしてもらったり、オンエアで実際に見てから、「ほら、効果音に負けてるでしょ」みたいな話をしながら、反省してもらったりしています。
今をときめく松坂桃李くん【16】とか、横浜流星くん【17】とか、山田裕貴くん【18】とか、初めてのアフレコで声の出し方を教えたのは僕なわけで、そういう役者さんたちが活躍しているのはすごく嬉しいですね。
—— 34年間の仕事の中で、制作環境も大きく変わってきたところがあると思います。何か印象的なことはありますか?
宮葉:フィルムからビデオ撮影になったおかげで、アフレコはすごくやりやすくなりました。フィルムのアフレコでは1ロール3分ぐらいのフィルムを流しますが、1ヶ所間違えるとその部分だけ録り直すことができないので、また初めからやらなきゃいけないんです。ビデオの場合は部分的に、一言だけでも録り直すことかできるので、すごくやりやすくなりました。アフレコ自体がビデオになったのは『ガオレンジャー』【19】からですね。フィルムで撮ったものを1回ビデオにして、それからアフレコをするようになりました。
34年間の変化の中で言うと、僕の仕事的に一番変わったのは変身アイテムですね。
変身アイテムから出る音は、セリフよりも効果音よりも一番聞かせなきゃいけない。しかも今や、変身だけではなく、パワーアップフォームにチェンジするとき、ロボを呼ぶとき、必殺技を使うとき、全部アイテムから音が出るんです。ということは、クライマックスで劇伴(BGM)とか主題歌、挿入歌の一番の聞かせたいところは、全く使えない。もう飛車角を取られたような状態で、いかに劇伴や主題歌を印象深いところで使うかというのは、戦隊だけではなく、ライダーもウルトラ【20】などもですが、ここ10年の音響的な難しい問題ですね。
—— 最初はみんな上の立場だったプロデューサーや脚本家の方たちが、だんだん同世代になり、若返っていくという中で、ご自身の仕事環境の変化をどのように感じてらっしゃるのでしょうか?
宮葉:とにかく老害にならないように一生懸命です。若い人や子どもとは接する機会がないので、10代後半から20代のファンと、いろんな場所で交流を持って感想を聞いたり、若いスタッフと話したりしています。
—— これからどんな作品に関わりたいとか、やってみたいことなど、野望のようなものがあればぜひお聞かせください。
宮葉:作品に関しては、もう歳も歳だからあんまり仕事は増やせないので、今の仕事が長くできればいいなと思っています。
それから、監督に許してもらえれば、少し音楽の箇所を減らした音楽つけをやっていきたいなとは思っています。 全部説明しなくてもいいかなと思っているので。
悲しいのか、 嬉しいのか、悪に思い入れを持つのか、ヒーローに思い入れを持つのか、そういうのを観客に委ねる音つけがあってもいいんじゃないかな?と思いますね。
—— 最後に一言ご挨拶いただけますでしょうか。
宮葉:戦隊シリーズ、非常に効果音もセリフも多いですが、歌だけではなくBGMも気にして観てくれるようになると嬉しいです。どうかよろしくお願いします。ありがとうございました。