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ねりま映像人インタビュー

第44回 佐藤順一監督 後編

第44回 佐藤順一監督 後編

2026.02.27

こちらのコンテンツは、是非音声版でお楽しみください

練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化の関わりを紹介する「ねりま映像人インタビュー」のダイジェストテキストです。
音声版は更に内容が充実しています。是非お聴きください。
ゲストは前回に引き続き、アニメーション監督の佐藤順一さん。
今回は日藝時代や東映動画時代について伺います。

—— 日大芸術学部【1】への入学希望はいつ頃固めたのでしょうか?

佐藤:高校のときにアニメーションの仕事をしたいなと思っていたんです。いくつか候補を挙げたのですが、その中で一番行きたかったのが日藝でした。親からは「少なくとも大学にしろ」と言われていたので専門学校の選択はなく、他の大学だとアニメーションそのものを勉強できる講義がなく、(当時は)日藝しか選択肢がない状態でした。

—— 池田宏先生【2】月岡貞夫先生【3】の講義を受講されていますが、どんなことを教わったのでしょう?

佐藤:池田先生はアカデミックで、順序立てて1から理論的に教えてくれる感じでした。月岡先生は割と実技派というか、実際に作画をしたり絵を描きながらの授業なのですが、東映動画時代の自分のやんちゃ話をいっぱい話してくれるのが面白かったですね。

—— そのほかの先生からは、どんな講義を受けたのでしょう?

佐藤:一番驚いたのは「映画鑑賞批評」という、映画学科の生徒が大講堂に集まって毎週1回映画を見て、その批評を提出するという授業です。僕は映画少年ではなく、そこまで日本映画を見る機会はなかったので、ここでいろんな映画を知ることができたのはやはり大きかったですね。 印象に残って忘れられないのが、仲代達矢さんの『切腹』です。衝撃的でびっくりしました。

—— そのほかに印象に残っている授業はありますか?

佐藤:映画鑑賞批評の先生の別の講座で、映画の文化的なところだけではなく、ビジネスまわりの話をしてくれたことがあって。その話が今でも自分が作品を作るときの参考になっています。
簡単に言うと、映画の全盛期は、例えば10本作ったら6本ヒットする時代だったのでいろんなチャレンジができた。対して斜陽期では10本作って1本しかヒットしないからチャレンジができなくなる。 新しいことにチャレンジしていかないと、だんだんクリエイティビティは痩せていく。という話でしたが、それがずっと心に残っていて、自分の作品作りに関しては、それをずっと反芻しています。

—— 東映動画【4】時代のお話も伺います。スタジオのある大泉での生活が長かったと思いますが、平成版『悪魔くん』【5】や、『セーラームーン』【6】をやっていた頃は、どんな生活サイクルだったのでしょうか?

佐藤:1987年に結婚したのですが、その前後は、家になかなか帰れない日もあったりしました。『悪魔くん』の頃になると子供もいたので、ちゃんと帰っていたと思います。

—— 『悪魔くん』ではシリーズディレクターを担当されましたが、主にどんな仕事だったのでしょうか?

佐藤:基本的には立ち上げのところですね。 当初のシナリオ打ち合わせに参加して、方向を決めるときに意見を出したり、キャラクターデザインの方や美術の方たちと打ち合わせをして、どういうものが必要か確認して発注したり、全体のレール作りみたいなものが主な仕事です。

—— 大泉に通われていた頃の、印象的な出来事や場所などはありますか?

佐藤:『悪魔くん』の頃だったかな、大泉の近辺がどんどん変わっていくんですよ。 今、LIVIN OZ【7】があるところには昔は東映東京撮影所【8】のオープンセットがあって、向かいのシネコンのところには食堂がありました。奥には広い駐車場があるのですが、たまにそこにでかい岩山なんかが作ってあって、特撮の爆発シーンを撮っていたりして、そういう我々が普通見ることがない風景を見ることができました。
それから、昔の東映の刑事ものなどを見ていると、「これ東映動画の建物だよね?」ということがよくありました。東映動画の建物の前に警察だったり、病院の看板を建てて撮影していたんですよ。それも面白かったですね。

—— 『美少女戦士セーラームーン』『おジャ魔女どれみ』【9】『ケロロ軍曹』【10】『カレイドスター』【11】など、大ヒットシリーズのディレクターを務められていますが、立ち上げの時はどういうところを軸にして考えていくものなのでしょうか?

佐藤:一番大事なのは、「これ、誰が見るんですか?」ということ、ターゲットですね。「この人たちは何を楽しむのだろう?」「どんなことを考えて生活しているんだろう?」「何が好きなんだろう?」みたいなことを含めてリサーチして、方向性を考えるのが最初の仕事です。

—— 佐藤監督が抜けた後もシリーズが続いていますが、シリーズが成功し定着するための一番大事なことは、どんなことだと思われますか?

佐藤:最初に「こういう人たちに見せるよ」「ここはちゃんと守ろうね」という土台をちゃんと作っておいて、「もうあとは好きにやってください」と言えるところまで準備をしておくんです。好きなように暴れられる土俵をちゃんと作ってあげるということですね。
あとは作品の世界観やギャグをどれぐらい入れるかもですけど、作品を作るために事前にどういうことをやっていけばいいかを決めておくんです。「『セーラームーン』らしくなる」「『どれみ』らしくなる」というものを土俵も含めて作っておくことが、一番重要かなと思います。

—— 佐藤監督が『セーラームーン』を手掛けられたのはとてもお若い頃ですが、どこからそれを得られたのでしょうか?

佐藤:自分の作品作りの姿勢というか、最初から子供向けのものを作りたいと思って入ってきているので、「子供たちが何を楽しむかな?」ということが先にあるのだと思います。
あと、前回お話した籏野義文プロデューサー【12】が僕をかわいがってくれたと同時に、いろんなところに連れて行ってくれたんです。 僕はその当時まだ助手でしたが、玩具チームとの打ち合わせやオーディション前のキャスティングの打ち合わせ、ビジネスチームが脚本家とプロデューサーとガチバトルしているところにも立会いました。見ているだけではありますが、その場にいたことで自然とスキルが高くなったというのはあると思います。特に今は演出さんもそんな打ち合わせの現場に行くことはないですし、でもああいう現場を1回見ておくということは本当にためになります。商業アニメーションは、ちゃんとお客さんがいて物を売るという仕組みの中で作るものですからね。

—— 話が前後しますが、日藝在学中に東映動画の研修生試験を受けられました。躊躇はなかったのですか?

佐藤:なかったですね。 そもそもアニメーションの仕事をするのが目的でしたので。 学校で得られるものも多かったのですが、親の財力では学費で無理をさせているのはわかっていたんです。そういうのもあって、「辞めて、働いて、しかもアニメができるのなら一石三鳥」でした。

—— だからこそ旗野プロデューサーとの出会いもあり、佐藤順一という日本のアニメーション界における大きな存在が生まれたように思います。

佐藤:『セーラームーン』だって、僕にこなかった可能性がいくらでもあるわけですが、たまたま僕に来てそこで評価されましたから。 作品と人の出会いには相当恵まれたなと思います。

—— これからの野望のようなものがあればぜひお伺いしたいです。

佐藤:そもそもが「子供たちに向けて作品を作りたい」というスタートだったのですが、昨今は子供の数が減っていたりもして、子供向けの番組自体が昔よりも減ってきてはいるんです。 ただなくなってはいないし、日本では少なくなったかもしれないけれど、ターゲットを世界に広げたらまだまだ子供たちはいるので、「世界の子供たちが同じアニメーションを見て楽しんでいる」ということができたら、それは大きな未来に繋がると思うんです。できればそのようなアニメーションを作れたらいいなと思っています。

—— 最後にご挨拶をお願いします。

佐藤令和版『悪魔くん』【13】を最後まで見ていただけるとわかると思いますが、すごく続編を見たくなる作品になっております。ぜひ見ていただいて、皆さんの応援をいただけたら、「また次も!」ということもあるかもしれませんので、応援のほどよろしくお願いいたします。『悪魔くん』を作ったスタッフたちも、今は別の作品を作っておりますので、そういった作品もぜひぜひ見ていただけると我々の力になりますし、また新しいアニメーションの表現も広がると思います。視聴者あってのアニメーションですので、ぜひぜひ見ることでお力をいただければなと思っております。

—— ありがとうございました。

本テキストは音声版のダイジェストです。
是非音声版でお楽しみください。

プロフィール

佐藤順一(さとう じゅんいち)
日本大学芸術学部映画学科在学中に東映動画の研修生試験を受けて合格し、大学を辞め東映動画(現在の東映アニメーション)に入社。1990年代に『美少女戦士セーラームーン』『夢のクレヨン王国』『おジャ魔女どれみ』といった児童・少女向け作品を中心に手掛け、数多くの名作を世に送り出す。2023年からNETFLIXで配信されている令和版の『悪魔くん』では総監督を務める。現在ではオリジナル作品の制作も積極的に行なっており、企画段階から精力的に関わった作品を発表している。

ダイジェストテキストに登場する作品名・人物名等の解説

【1】日大芸術学部
通称「日藝」。練馬区江古田にキャンパスがある。写真、映画、美術、音楽、文芸、演劇、放送、デザインの8学科があり、映画や放送、芸能、写真、マスコミなど、数多くの人材を輩出している。
1989年から2019年まで埼玉県所沢市に所沢キャンパスがあったが、現在は全学年が江古田キャンパスにて修学している。
【2】池田宏(いけだ ひろし)さん
アニメーション監督。1959年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社、『空飛ぶゆうれい船』(69)や『どうぶつ宝島』(71)などを監督する。東映動画在籍中に日本大学芸術学部に非常勤講師として「アニメーション」講座を担当。東映動画退社後、任天堂でゲームソフトの開発に携わった。
【3】月岡貞夫(つきおか さだお)さん
アニメーション作家。高校卒業後、漫画家・手塚治虫のアシスタントとなる。手塚氏の意向で東映動画(現・東映アニメーション)のアニメ映画『西遊記』(60)の制作に参加。この間に東映動画に入社する。自らが企画したTVアニメ『狼少年ケン』(63-65)の放送初期には、演出・原画・動画まですべて一人でこなすという「天才アニメーター」ぶりを発揮した。その後東映動画を退社し、虫プロでTVアニメ『W3(ワンダースリー)』(65-66)や『悟空の大冒険』(67)などに関わった。日本大学芸術学部の映画学科の講師も務めた。
【4】東映動画
現在の東映アニメーションのこと。1956年に東映動画として練馬区東大泉に設立された、60年以上の歴史を持つアニメーション製作会社。1958年の日本初の長編カラーアニメ映画『白蛇伝』を皮切りに、数々の名作アニメを製作。1979年には映画『銀河鉄道999』が大ヒットし、爆発的なアニメブームを引き起こした作品のひとつとなる。コンピュータによるアニメ製作、自社コンテンツの海外販売などにも早くから取り組み、日本のアニメ産業のけん引役ともいえる存在となった。1998年には東映アニメーション株式会社と社名変更し、現在へと至っている。代表作には『ドラゴンボール』シリーズ、『セーラームーン』シリーズなど、誰もが知る超ヒット作が居並び、現在も『ONE PIECE』や『プリキュア』シリーズなど、世代を超える人気コンテンツを生み出し続けている。
【5】平成版『悪魔くん』
東映動画が製作し、1989年から1990年まで全42話が放送されたTVアニメ。原作は水木しげるによる同名漫画。1万年にひとりの救世主・悪魔くんが、「十二使徒」たちと共に悪魔軍団に立ち向かう。
原作:水木しげる/シリーズディレクター:佐藤順一/脚本:小山高男、菅良幸、岸間信明 ほか/出演:三田ゆう子、古川登志夫、深雪さなえ、永井一郎、田の中勇、西原久美子、丸山詠二 ほか
【6】『美少女戦士セーラームーン』
1992年から1997年まで5シリーズ(無印、R、S、SuperS、セーラースターズ)全200話+スペシャル1話が放送されたTVアニメ。アニメーション製作は東映動画(現・東映アニメーション)。原作は武内直子による同名漫画。人間の言葉を喋る不思議な黒猫・ルナに、愛と正義のセーラー服美少女戦士・セーラームーンに選ばれた中学生・月野うさぎが、仲間と共に妖魔に立ち向かう姿を描く。社会現象化するほどの大ヒットとなり、世界40ヶ国でも放送された。
佐藤監督は、2作目『R』の13話(通算59話)まで初代のシリーズディレクターを務めた。
原作:武内直子/シリーズディレクター:佐藤順一、幾原邦彦、五十嵐卓哉/シリーズ構成:富田祐弘、榎戸洋司、山口亮太/出演:出演:三石琴乃、久川綾、富沢美智恵、篠原恵美、深見梨加、古谷徹、潘恵子、高戸靖広 ほか
【7】LIVIN OZ
リヴィンオズ大泉店のこと。1983年に東映東京撮影所のオープンセット跡地に「西友オズ大泉店」として開業した商業施設。
【8】東映東京撮影所
東京都練馬区東大泉に所在する、東映株式会社の映画スタジオ。
※当サイトのTOPICS「東映東京撮影所の<いま> ~東映東京撮影所所長・木次谷良助氏が語る~」では、東映東京撮影所を詳しく紹介しています。
【9】『おジャ魔女どれみ』
1999年から2000年に全51話が放送されたTVアニメ。アニメーション製作は東映アニメーション。 魔女に憧れる小学生・春風どれみが、ひょんなことから本物の魔女・マジョリカに出会い、仲間たちとともに“魔女見習い”として修業に励む姿を描く。シリーズディレクターを務めた佐藤監督は、企画段階から参加している。
本作のヒットを受け、続編TVシリーズやOVA、劇場版も制作された。
原作:東堂いづみ、シリーズディレクター:佐藤順一/シリーズ構成:山田隆司/出演:千葉千恵巳、秋谷智子、松岡由貴、宍戸留美、石毛佐和、永澤菜教、高村めぐみ ほか
【10】『ケロロ軍曹』
2004年から2011年まで7シリーズ全357話が放送されたTVアニメ。原作は吉崎観音による同名漫画。アニメーション製作はサンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)。地球征服の任を帯び、ケロン星からやってきたケロロ軍曹と彼が率いる「ケロロ小隊」の面々が巻き起こす騒動を描く。佐藤監督は第103話までは総監督、以降は監修として参加した。
劇場版のほか、ドラマCDやゲームなどメディアミックス展開も行われており、2026年には新作映画やTVシリーズも予定されている。
原作:吉崎観音/総監督(第103話まで)、監修(第104話以降):佐藤順一/出演:渡辺久美子、小桜エツ子、中田譲治、子安武人、草尾毅、川上とも子、桑島法子、斎藤千和、能登麻美子、池澤春菜 ほか
【11】『カレイドスター』
2003年から2004年に全51話が放送されたTVアニメ。アニメーション製作はGONZO DIGIMATION。世界的に大人気のエンターテイメント「カレイドステージ」ショウに憧れる少女・苗木野そらが、ステージの花形「カレイドスター」を目指して様々な試練に立ち向かう姿を描く。
原案:佐藤順一/監督:佐藤順一、平池芳正(27話以降)/出演:広橋 涼、大原さやか、子安武人、西村ちなみ、折笠富美子、小桜エツ子、下野紘 ほか
【12】籏野義文(はたの よしふみ)さん
プロデューサー。1961年より東映動画で企画・プロデューサーとして多数の作品を手掛けた。代表作に、映画『アラビアンナイト・シンドバッドの冒険』(62)『サイボーグ009』(66)『空飛ぶゆうれい船』(69)、TVアニメ『狼少年ケン』(63-65)『デビルマン』(72-73)『聖闘士星矢』(86-89)『SLAM DUNK』(93-95)など。1995年2月逝去。
【13】令和版『悪魔くん』
水木しげる生誕100年記念作品として東映アニメーションが製作し、Netflixにて2023年より全12話が配信中のアニメ。2026年1月より、TOKYO MXなどにて地上波でも放送中。原作は水木しげるによる同名漫画。二代目「悪魔くん」こと埋れ木一郎と、相棒・メフィスト3世が、不可思議な事件に挑む怪奇探偵バディストーリー。前述の平成版『悪魔くん』の続編にあたる。
原作:水木しげる/総監督:佐藤順一/シリーズディレクター:追崎史敏/脚本:大野木寛、金月龍之介、吉野弘幸/出演:梶裕貴、古川登志夫、三田ゆう子、ファイルーズあい、下野紘 ほか
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