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ねりま映像人インタビュー

第38回 森田順平さん 後編

第38回 森田順平さん 後編

2025.07.18

こちらのコンテンツは、是非音声版でお楽しみください

練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化の関わりを紹介する「ねりま映像人インタビュー」のダイジェストテキストです。ゲストは、前回に引き続き俳優の森田順平さん。
今回は森田さんが長年演じられた『3年B組金八先生』の乾先生役、そして『クレヨンしんちゃん』、『轟轟戦隊ボウケンジャー』などのお話を中心伺っていきます。

—— 『3年B組金八先生』【1】では乾友彦【2】先生役を31年間演じられましたが、どんなきっかけで作品に参加されたのでしょうか?

森田:きっかけは、作家の小山内美江子さん【3】ですね。NHKの水曜時代劇『早筆右三郎』【4】でお会いしたんです。その後、朝ドラ『マー姉ちゃん』【5】も小山内先生がお書きになって、マー姉ちゃんの初恋の人という役で出たんです。その流れがあって、『金八』にもお声をかけていただきました。

—— 第1シリーズ第9話「数学が好きになる法」では、金八先生との価値観の違いによるぶつかりが描かれていました。

森田:実を言うと第9話になるまで、まだ自分の中で迷いがあったんです。若かったので、嫌な役をやるのって嫌だな、モテモテの役をやりたいなと。だから何か一つ踏み切れない。ところが演じているうちに、「そうか、違うぞ。乾は嫌なやつじゃなくて、一生懸命なんだ!」と思ったんです。 そうしたら乾が急に自分のところに来てくれたみたいで、初めて役と一体化できたんです。まさに第9話が乾の“開眼の回”。 自分の役者人生も、大きく舵の方向が変わったという気がします。

—— 長いシリーズの中で劇中での立場も変わり、結婚されたり子どもが生まれたりもしました。

森田:あれは小山内先生が、僕が結婚したから、乾も結婚させよう。僕に赤ちゃんできたから、乾にもそうさせよう。という、実体験をそのまま芝居に使えるように、ちょっと遅れて書いてくれたんです。

—— ファイナルの作中で卒業生たちが金八先生の卒業式をやる中、その歌声を職員室で聞いている、あの感慨深げに見つめている表情が、乾先生にとってのラストシーンとしても印象深かったです。

森田:もうセリフも何もない、ただただとにかく30何年間を思い出していたんです。
ファイナルの監督は生野慈朗さん【6】ですが、「乾先生のあの顔はもっといただきたかったので、長回ししてすみません」と言われました。いつまでもOKが出ないので、こちらもずっといろんなこと思い出しているうちに、「なんかやばい、泣きそう」と、いろんな表情が出てくるのをずっと撮られていたんですよ。放送されたのは、自分でも何を考えていたときの顔かわからないですけれども、良かったなと思います。

—— 長いシリーズの撮影中のことで、特に印象に残ってるものはありますか?

森田:とにかく、職員室が大変なんです。みんながみんないろんなことを喋るのですが、乾は最後にぽそっと言ったりする。そこで僕がNGを出したら、もう一回頭から撮らなきゃならないんです。武田鉄矢さん【7】といつも「職員室は緊張するね」と話してました。
あとは教室での授業のシーン。乾も授業があるのですが、実を言うと小山内先生の脚本には「乾の授業である」と書いてあるだけなんです。仕方がないから、スタッフからもらった教師しか見られない教科書ガイドを調べて、毎回自分で考えた授業をしたんです。大変でしたけど、生徒役の子たちも喜んでくれました。僕の同級生に数学の博士がいるので、彼に電話して正しい数学の授業になっているか確認も取っていたんですよ。

—— 職員室での役者さんとのエピソードはありますか?

森田財津一郎さん【8】にはずいぶんお世話になりました。最初は僕のことを認めてくださらなかったんですよ。多分、僕が迷ってるときですね。 でも先ほどお話しした第9話で、「森田くん、素晴らしい!」と、握手をしてくださったんです。初めて認めていただけて、涙が出てきましたね。だから本当に、財津さんは未だに尊敬しています。大好きです。

—— この31年間の「乾友彦」は、森田さんにとってどんな存在でしょう?

森田:間違いなく、もう1人の僕です。違う人生を歩んでいるもう1人。スーツを着て、職員室なり教室に行くと、自分の場所のような気がして落ち着くんです。 今、もう1回再開されても、多分そうなると思います。

—— 『クレヨンしんちゃん』【9】では、しんちゃんが通う幼稚園の園長先生(通称:組長先生)役を納谷六朗さん【10】から引き継がれています。

森田:紹介で今の事務所に入った時、そこにいらしたのが大重鎮の納谷六朗さん。声優のことなどいろいろ教えてくださって、すごくお世話になりました。
六さんが亡くなられて1年ぐらい、園長先生の出番はなかったのですが、番組で園長先生を復活させることになったんです。オーディションでしたから、大緊張の中で、「このオーディションだけは絶対、納谷さんのために僕は受からなきゃいけない」と、力が入ったのをすごく覚えてますね。だからオーディションに受かったときは一番嬉しかったですね。

—— いろいろな理由で声優の交代が起こりますが、前任者のイメージがすごく強いキャラクターを引き継ぐのは大変なことだと思います。組長先生役には、どんな感触お持ちですか?

森田:最初は六さんに寄せていました。これはやはり「聞き手の邪魔になってはいけない」というのもあったので。でももう10年以上やっていますから、徐々に徐々に変化していって、今は自分ふうになってきたかなという感じはしています。

—— 東映撮影所【11】で制作された『轟轟戦隊ボウケンジャー』【12】では、敵のボス・リュウオーン役として、声だけでなく、顔出しでも2回出演されましたが、どんな経緯だったのでしょう?

森田:(戦隊シリーズは)ゴールデンウィークぐらいに映画を作るのですが、その打ち上げの時にプロデューサーと作家さんが僕のところにやってきて、「リュウオーンは元は人間だったという設定に書き換えて、顔出しで出演してほしい」という話が出たんです。当然「喜んでやらせていただきますよ」と了承したら、いきなり次の話から顔出しで出演することになって。すごい嵐の島に繋がれるシーンでした。扇風機3台ぐらい並べて水をボンボン掛けられて、喋っているんだけど、口の中に水が入ってきて何言ってるかわかんない、とんでもないシーンからの撮影だったのを覚えています(笑)。今はすごいスタジオが建っていますが、当時は駐車場みたいな空き地になっていて、そこに小さな岩場を作って、大きな扇風機を並べて撮影したんです。
撮影所の隣にOZ【13】というショッピングセンターがありますが、昔はあそこもオープンセットだったんですよ。僕が『騎馬奉行』【14】というTV時代劇に出ていたときは、そのオープンセットを使っていました。
東映がすごかったのは、時代劇だけじゃなく、現代劇のオープンもいっぱい作っていて、銀座の街があったりしたんです。映画館になっているところも全部セットで、TVドラマもたくさん撮っていましたから、活気に満ちていてワクワクしていたのを覚えていますね。

—— 『役者さんとして舞台に立ち、TVドラマや映画に出演され、外画の吹替えで日本語を当て、アニメーションでは絵に声を当て、特撮では異形の怪人にも声をアテられています。それぞれ演じるポイントや、ご自身で意識することはありますか?

森田:細かく言えば違うのですが、大きく言うと全部一緒ですね。やはり自分が演じるわけですから。例えば、ヒュー・グラント【15】をアテても、コリン・ファース【16】をアテても、僕なんですよ。ただ、その表情を見ていると、その表情の人の声というか、芝居の質感になっていく。 アニメもそうですね、その画に合った雰囲気になっていくだけで。人物がそこにいて何を感じているかというのは同じじゃないですか。だから自分も芝居をするにあたっては、「(演じる人物と)同じものを感じていく」というのが基本です。

—— これから先、関わりたい作品や、演じてみたい役はありますか?

森田:何でもやりたいんですよ。とにかく依頼を受ければ、ほぼほぼ何でもやってみたいなと思います。
あと、朗読が好きなので、朗読の会もお声がかかればぜひ。自分から企画するタイプではありませんが、要望や依頼があれば喜んで。
ライブ感が好きですから、お客さんと同じ空間で何かを演じたりすることができると楽しいですね。

—— 最後に一言ご挨拶をお願いします。

森田:いろいろ思い出して、いろんな話もできて本当に楽しかったです。もっともっと、話したいことがいっぱいいっぱいあるのですが、また何かの機会があればということで。今日は本当にありがとうございました。

ありがとうございました。

本テキストは音声版のダイジェストです。
是非音声版でお楽しみください。

プロフィール

森田順平(もりた じゅんぺい)
俳優。日本大学芸術学部演劇学科卒業。在学中に文学座研究所に入所し、1977年に初舞台、大河ドラマ『花神』沖田総司役でTVドラマデビュー。1979年放送開始の『3年B組金八先生』数学教師・乾友彦役で約30年間出演。スーパー戦隊シリーズ『轟轟戦隊ボウケンジャー』リュウオーン役、声優ではテレビアニメ『クレヨンしんちゃん』園長先生役、『NARUTO-ナルト- 疾風伝』長門役を務めるなど、多岐にわたる活躍をみせる。海外作品ではヒュー・グラントや マシュー・マコノヒーをはじめ、多くの作品で吹き替えを担当している。

ダイジェストテキストに登場する作品名・人物名等の解説

【1】『3年B組金八先生』
1979年にスタートした、TBSの学園ドラマ。中学の国語教師・坂本金八(演:武田鉄矢)が、担任する3年B組に巻き起こる様々な問題を、生徒や同僚たちと共に乗り越えていく姿を描く。2011年の完結までに、8シリーズとTVスペシャル12本の計185話が放送された。
〈第1シリーズ〉
原作:小山内美江子/演出:竹之下寛次、佐藤虔一、高畠豊、生野慈朗/脚本:小山内美江子、岡本克己、重森孝子/出演:武田鉄矢、倍賞美津子、杉田かおる、鶴見辰吾、茅島成美、上條恒彦、財津一郎、森田順平 ほか
【2】乾友彦(いぬい ともひこ)
『3年B組金八先生』の登場人物で、森田さんが演じる桜中学の数学教師。松ヶ崎中が舞台となった第3シリーズとTVスペシャル7、8以外の全ての作品に登場。
【3】小山内美江子(おさない みえこ)さん
脚本家。代表作『3年B組金八先生』では原作も務め、第7シリーズまで(TVスペシャル8を除く)脚本も担当した。撮影現場でスクリプター(撮影シーンの内容を記録・管理する役割)を10年間務めた後、1962年にNHKのドラマ『残りの幸福』で脚本家デビュー。以後、様々な作品で活躍した。その他の作品に、『マー姉ちゃん』(79)『父母の誤算』(81)『徳川家康』(83)『翔ぶが如く』(90)など。2024年5月逝去。
【4】『早筆右三郎』
1978年に全34話が放送されたNHKの水曜時代劇。江戸時代を舞台に、瓦版の記者で“早筆”と呼ばれた右三郎が、町で起きる様々な事件に立ち向かう姿を描く。小山内美江子さんは、原作と脚本を担当。森田順平さんは、登場人物の1人・軍鶏の鬼一を演じた。
【5】朝ドラ『マー姉ちゃん』
1979年に全156話が放送された、NHK連続テレビ小説第23作。原作は、漫画家・長谷川町子による「サザエさん うちあけ話」。長谷川家をモデルにした磯野家の長女・マリ子(マー姉ちゃん)を主人公に、磯野家に巻き起こる悲喜こもごもを描く。小山内美江子さんは脚本を担当。森田順平さんは、マリ子が通う画塾で出会った青年・結城信彦を演じた。
【6】生野慈朗(しょうの じろう)さん
監督・演出家。『3年B組金八先生』では第5・7シリーズを除く作品に参加し、計37話分(スペシャルも含む)を演出し、代表作の1つとなった。また、オープニングの俯瞰のカメラによるタイトルコールは、生野さんのアイデアで、AD時代に参加していた『8時だョ!全員集合』のオープニングが元になっている。その他の作品に、TVドラマ『男女7人夏物語』(86)『愛していると言ってくれ』(95)『ビューティフルライフ』(00)、映画『いこかもどろか』(88)『手紙』(06)『食べる女』(18)など。 2023年4月逝去。
【7】武田鉄矢(たけだ てつや)さん
俳優・歌手。『3年B組金八先生』シリーズの主人公・坂本金八を32年間にわたって演じた。また、全シリーズの主題歌も歌唱している。1972年にフォークバンド・海援隊でデビュー。「母に捧げるバラード」(73)のヒットで第25回NHK紅白歌合戦に出場。1977年公開の映画『幸福の黄色いハンカチ』では主人公と共に旅をする青年・花田欽也を演じ、俳優デビュー作にして高評価を得る。以後、俳優・歌手として活躍の場を広げる。その他の作品に、TVドラマ『101回目のプロポーズ』(91)『龍馬伝』(10)『ダ・カーポしませんか?』(23)、映画『刑事物語』シリーズ(82-87)『プロゴルファー織部金次郎』シリーズ(93-98)『降りてゆく生き方』(09)など。
【8】財津一郎(ざいつ いちろう)さん
俳優・コメディアン。『3年B組金八先生』では、英語教師で3年C組担任・左右田を演じた。TVスペシャル9、ファイナルにも登場。1964年に吉本新喜劇に参加、翌年には座長に就任する。1966年からはTVコメディ番組『てなもんや三度笠』(62-68)にも出演し、「ヒッジョーにキビシ〜ッ!」「〜してチョーダィ!」などのギャグは一世を風靡した。1969年からは東京に拠点を移し、俳優としても活躍。1981年の映画『連合艦隊』ではそれまでのコミカル路線とは一線を画す重厚な演技で高い評価を得た。その他の作品にTVドラマ『新宿警察』(75-76)『秀吉』(96)『天花』(04)、映画『ジャズ大名』(86)『ふたたび swing me again』(10)など。2023年10月逝去。
【9】『クレヨンしんちゃん』
1992年から放送中のTVアニメ。原作は、臼井儀人による同名漫画。マイペースな幼稚園児・野原しんのすけが、家族や周囲の大人たちを振り回す日常を描く。森田さんは、しんちゃんが通う幼稚園の園長先生(通称:組長先生)役を納谷六朗さんから引き継ぐ形で、2015年より担当している。
【10】納谷六朗さん
声優・俳優。『クレヨンしんちゃん』では、2014年に亡くなるまで園長先生役を務めた。1950年代に舞台活動を始め、1959年には兄・納谷悟朗が主役の吹替えを担当していた海外ドラマ『ウィリアム・テル』の端役で声優デビューを果たす。以後、外画やアニメーション、特撮ドラマなど、多数の作品で活躍。特撮ドラマ『仮面ライダー』(71-73)の9~13話では、バイク転倒事故による負傷でアフレコが不可能だった藤岡弘、に変わり、本郷猛の代役を務めたことがある。TVアニメ『聖闘士星矢』(86-89)の水瓶座のカミュや、『幽☆遊☆白書』(92-95)の仙水忍など人気の高いキャラクターを担当したことで、若年層のファンも獲得した。2014年11月に逝去。
【11】東映東京撮影所
東京都練馬区東大泉に所在する、東映株式会社の映画スタジオ。
※当サイトのTOPICS「東映東京撮影所の<いま> ~東映東京撮影所所長・木次谷良助氏が語る~」では、東映東京撮影所を詳しく紹介しています。
【12】『轟轟戦隊ボウケンジャー』
2006年から2007年に全49話が放送された東映制作の特撮アクションドラマ。「スーパー戦隊」シリーズ第30作。モチーフは「冒険」と「車」。地球に眠る古代の秘宝・プレシャスを狙う悪の組織・ネガティブシンジケートに立ち向かう、轟轟戦隊ボウケンジャーの戦いを描く。
森田さんはネガティブシンジケートの一派でジャリュウ一族の長・創造王リュウオーンを演じた。
原作:八手三郎/監督:諸田敏 ほか/脚本:會川昇 ほか/出演:高橋光臣、齋藤ヤスカ、三上真史、中村知世、末永遥、出合正幸、斉木しげる、森田順平 ほか
【13】LIVIN OZ
リヴィンオズ大泉店のこと。1983年に東映東京撮影所のオープンセット跡地に「西友オズ大泉店」として開業した商業施設。
【14】『騎馬奉行』
1979年から1980年に全26話が放送されたTV時代劇。原作は陣出達朗の小説「騎馬奉行まかり通る」。第12代将軍・徳川家慶の時代、火付盗賊改方の頭・黛内蔵助と5人の部下の活躍を描く。
森田さんは、第20話にゲスト出演している。
原作:陣出達朗/監督:工藤栄一 ほか/脚本:岩元南 ほか/出演:市川染五郎(6代目)、加藤武、大出俊、地井武男、岡村清太郎、大場順、伊東四朗、夏目雅子、丹波哲郎 ほか
【15】ヒュー・グラント
イギリスの俳優。オックスフォード大学在学中の1982年、映画『オックスフォード・ラブ』で俳優としてのキャリアをスタート。1987年には映画『モーリス』でヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞したことで注目を集め、『フォー・ウェディング』(94)『ノッティングヒルの恋人』(99)『アメリカン・ドリームズ』(06)『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(16)『オペレーション・フォーチュン』(23)などヒット作に出演している。
森田さんは『恋するための3つのルール』(99)をきっかけに、多数の作品でヒュー・グラントの吹替えを担当している。
【16】コリン・ファース
イギリスの俳優。1983年に舞台『アナザー・カントリー』の主人公ガイ・ベネット役でデビュー。翌年公開の映画版『アナザー・カントリー』(84)ではトミー・ジャッド役を務めた。1995年のTVドラマ『高慢と偏見』に中心人物・ダーシー役で出演。本作のヒットにより注目を集める。2010年の映画『英国王のスピーチ』ではイギリス王・ジョージ6世を演じ、第68回ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞。その後も『キングスマン』(15)『1917 命をかけた伝令』(19)『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』(22)など、話題作に出演している。
森田さんは『スプリング・ガーデンの恋人』(03)で初めて吹替えを担当。2011年の『裏切りのサーカス』からは、大半の作品を担当している。
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