—— 『3年B組金八先生』【1】では乾友彦【2】先生役を31年間演じられましたが、どんなきっかけで作品に参加されたのでしょうか?
森田:きっかけは、作家の小山内美江子さん【3】ですね。NHKの水曜時代劇『早筆右三郎』【4】でお会いしたんです。その後、朝ドラ『マー姉ちゃん』【5】も小山内先生がお書きになって、マー姉ちゃんの初恋の人という役で出たんです。その流れがあって、『金八』にもお声をかけていただきました。
—— 第1シリーズ第9話「数学が好きになる法」では、金八先生との価値観の違いによるぶつかりが描かれていました。
森田:実を言うと第9話になるまで、まだ自分の中で迷いがあったんです。若かったので、嫌な役をやるのって嫌だな、モテモテの役をやりたいなと。だから何か一つ踏み切れない。ところが演じているうちに、「そうか、違うぞ。乾は嫌なやつじゃなくて、一生懸命なんだ!」と思ったんです。 そうしたら乾が急に自分のところに来てくれたみたいで、初めて役と一体化できたんです。まさに第9話が乾の“開眼の回”。 自分の役者人生も、大きく舵の方向が変わったという気がします。
—— 長いシリーズの中で劇中での立場も変わり、結婚されたり子どもが生まれたりもしました。
森田:あれは小山内先生が、僕が結婚したから、乾も結婚させよう。僕に赤ちゃんできたから、乾にもそうさせよう。という、実体験をそのまま芝居に使えるように、ちょっと遅れて書いてくれたんです。
—— ファイナルの作中で卒業生たちが金八先生の卒業式をやる中、その歌声を職員室で聞いている、あの感慨深げに見つめている表情が、乾先生にとってのラストシーンとしても印象深かったです。
森田:もうセリフも何もない、ただただとにかく30何年間を思い出していたんです。
ファイナルの監督は生野慈朗さん【6】ですが、「乾先生のあの顔はもっといただきたかったので、長回ししてすみません」と言われました。いつまでもOKが出ないので、こちらもずっといろんなこと思い出しているうちに、「なんかやばい、泣きそう」と、いろんな表情が出てくるのをずっと撮られていたんですよ。放送されたのは、自分でも何を考えていたときの顔かわからないですけれども、良かったなと思います。
—— 長いシリーズの撮影中のことで、特に印象に残ってるものはありますか?
森田:とにかく、職員室が大変なんです。みんながみんないろんなことを喋るのですが、乾は最後にぽそっと言ったりする。そこで僕がNGを出したら、もう一回頭から撮らなきゃならないんです。武田鉄矢さん【7】といつも「職員室は緊張するね」と話してました。
あとは教室での授業のシーン。乾も授業があるのですが、実を言うと小山内先生の脚本には「乾の授業である」と書いてあるだけなんです。仕方がないから、スタッフからもらった教師しか見られない教科書ガイドを調べて、毎回自分で考えた授業をしたんです。大変でしたけど、生徒役の子たちも喜んでくれました。僕の同級生に数学の博士がいるので、彼に電話して正しい数学の授業になっているか確認も取っていたんですよ。
—— 職員室での役者さんとのエピソードはありますか?
森田:財津一郎さん【8】にはずいぶんお世話になりました。最初は僕のことを認めてくださらなかったんですよ。多分、僕が迷ってるときですね。 でも先ほどお話しした第9話で、「森田くん、素晴らしい!」と、握手をしてくださったんです。初めて認めていただけて、涙が出てきましたね。だから本当に、財津さんは未だに尊敬しています。大好きです。
—— この31年間の「乾友彦」は、森田さんにとってどんな存在でしょう?
森田:間違いなく、もう1人の僕です。違う人生を歩んでいるもう1人。スーツを着て、職員室なり教室に行くと、自分の場所のような気がして落ち着くんです。 今、もう1回再開されても、多分そうなると思います。
—— 『クレヨンしんちゃん』【9】では、しんちゃんが通う幼稚園の園長先生(通称:組長先生)役を納谷六朗さん【10】から引き継がれています。
森田:紹介で今の事務所に入った時、そこにいらしたのが大重鎮の納谷六朗さん。声優のことなどいろいろ教えてくださって、すごくお世話になりました。
六さんが亡くなられて1年ぐらい、園長先生の出番はなかったのですが、番組で園長先生を復活させることになったんです。オーディションでしたから、大緊張の中で、「このオーディションだけは絶対、納谷さんのために僕は受からなきゃいけない」と、力が入ったのをすごく覚えてますね。だからオーディションに受かったときは一番嬉しかったですね。
—— いろいろな理由で声優の交代が起こりますが、前任者のイメージがすごく強いキャラクターを引き継ぐのは大変なことだと思います。組長先生役には、どんな感触お持ちですか?
森田:最初は六さんに寄せていました。これはやはり「聞き手の邪魔になってはいけない」というのもあったので。でももう10年以上やっていますから、徐々に徐々に変化していって、今は自分ふうになってきたかなという感じはしています。
—— 東映撮影所【11】で制作された『轟轟戦隊ボウケンジャー』【12】では、敵のボス・リュウオーン役として、声だけでなく、顔出しでも2回出演されましたが、どんな経緯だったのでしょう?
森田:(戦隊シリーズは)ゴールデンウィークぐらいに映画を作るのですが、その打ち上げの時にプロデューサーと作家さんが僕のところにやってきて、「リュウオーンは元は人間だったという設定に書き換えて、顔出しで出演してほしい」という話が出たんです。当然「喜んでやらせていただきますよ」と了承したら、いきなり次の話から顔出しで出演することになって。すごい嵐の島に繋がれるシーンでした。扇風機3台ぐらい並べて水をボンボン掛けられて、喋っているんだけど、口の中に水が入ってきて何言ってるかわかんない、とんでもないシーンからの撮影だったのを覚えています(笑)。今はすごいスタジオが建っていますが、当時は駐車場みたいな空き地になっていて、そこに小さな岩場を作って、大きな扇風機を並べて撮影したんです。
撮影所の隣にOZ【13】というショッピングセンターがありますが、昔はあそこもオープンセットだったんですよ。僕が『騎馬奉行』【14】というTV時代劇に出ていたときは、そのオープンセットを使っていました。
東映がすごかったのは、時代劇だけじゃなく、現代劇のオープンもいっぱい作っていて、銀座の街があったりしたんです。映画館になっているところも全部セットで、TVドラマもたくさん撮っていましたから、活気に満ちていてワクワクしていたのを覚えていますね。
—— 『役者さんとして舞台に立ち、TVドラマや映画に出演され、外画の吹替えで日本語を当て、アニメーションでは絵に声を当て、特撮では異形の怪人にも声をアテられています。それぞれ演じるポイントや、ご自身で意識することはありますか?
森田:細かく言えば違うのですが、大きく言うと全部一緒ですね。やはり自分が演じるわけですから。例えば、ヒュー・グラント【15】をアテても、コリン・ファース【16】をアテても、僕なんですよ。ただ、その表情を見ていると、その表情の人の声というか、芝居の質感になっていく。 アニメもそうですね、その画に合った雰囲気になっていくだけで。人物がそこにいて何を感じているかというのは同じじゃないですか。だから自分も芝居をするにあたっては、「(演じる人物と)同じものを感じていく」というのが基本です。
—— これから先、関わりたい作品や、演じてみたい役はありますか?
森田:何でもやりたいんですよ。とにかく依頼を受ければ、ほぼほぼ何でもやってみたいなと思います。
あと、朗読が好きなので、朗読の会もお声がかかればぜひ。自分から企画するタイプではありませんが、要望や依頼があれば喜んで。
ライブ感が好きですから、お客さんと同じ空間で何かを演じたりすることができると楽しいですね。
—— 最後に一言ご挨拶をお願いします。
森田:いろいろ思い出して、いろんな話もできて本当に楽しかったです。もっともっと、話したいことがいっぱいいっぱいあるのですが、また何かの機会があればということで。今日は本当にありがとうございました。
ありがとうございました。