練馬にゆかりの映像人の皆様にお話を伺い、練馬と映像文化の関わりを紹介する「ねりま映像人インタビュー」のダイジェストテキストです。
今回と次回のゲストは、俳優の岡本玲さん。
岡本さんはファッション雑誌ニコラの専属モデルを務め、映画『憐 Ren』主演後に、日本大学芸術学部映画学科演技コースに入学。 在学中、卒業後も『君へのメロディー』、『高校デビュー』、『L♡DK』、『茶飲友達』など数々の作品に出演し、多岐にわたり活動されています。
今回は、2026年2月6日公開の『たしかにあった幻』、2023年公開の『茶飲友達』などのお話を中心にお伺いします。
—— 河瀨直美監督【1】の最新作『たしかにあった幻』【2】では、心臓病を患う少年・久志の母親役を演じていらっしゃいます。本作に参加することになった経緯はどのようなものでしたか?
岡本:私が出演していた舞台を、河瀨さんと映画のプロデューサーさんがご覧になったことがきっかけでオーディションに呼んでいただきました。
—— 小児移植医療の病院が舞台で、ドナーが見つかる側の母親役として出演されています。 複雑な胸中を抱く役だと思いますが、どんなことを意識して演じられたのでしょうか?
岡本:河瀨組恒例の〈役積み〉という、役を積んでいく作業をすごく丁寧にさせていただきました。撮影に入る前に久志役の子と2人で動物園に行ったんです。 お父様やスタッフさんは少し離れた場所から見守ってくださって、2人で観覧車に乗ったり、お昼ご飯を一緒に食べたり、そういう親子の時間を作っていただいたおかげで、撮影にすごく自然に入ることができました。
撮影地の病院が丘の上にあって、本当にきつい坂道なんです。河瀨さんが「撮影の日には2人で集合して、歩いて来てくれますか」とおっしゃって、2人で手を繋いだり、病気のことを話したりとか、その坂道にもすごく役を積ませていただいた感覚があります。
実際に小児科のある病院なので、お母さんたちもそこを歩いてこられることもあるらしく、河瀨さんも「これを乗り越えて毎日行くんだっていう、つらさがあるんだよね」とお話されていました。一つ一つ時間をかけて、母親というものを感じながら演じました。
改めて、役作りは1人じゃできないなと最近感じています。もちろん自分で作るものなのですが、頭の中で妄想しているよりも、作品の中の役柄は誰かと一緒に生きているので、繋がっている感覚だったり、絆みたいなものを少しでも増やした方がお互いその場に居やすいですし、誰かを信じることはすごく大きな力になるので、そういった要素みたいなものを増やしていくことが役作りなのかなと思っています。
撮影中は病室から一切出なかったんです。子供たちは病室でずっと時間を過ごして本を読んだり、折り紙したり、自分たちで作ったものを飾り付けしたり、先生役の方と一緒に勉強したり。 その中で急に撮影が始まってシーンを作っていくみたいな。 だからいい意味で、どういうお芝居をしたとか、どういうセリフを喋ったか覚えていないんです。その場で生活をしたという感覚です。
—— 撮影期間はどれぐらいだったのでしょう?
岡本:私自身は1週間ぐらいの滞在だった気がします。 1~2日前ぐらいに現地に入らせてもらって、久志役の子と過ごしたという形ですね。朝集合して、夕方まで病院にいるというのを、ほぼ毎日のようにさせてもらって役を積んでいくという感覚でした。
—— これから映画をご覧になる方に、メッセージをお願いします。
岡本:まず映像がすごく綺麗です。 屋久島の木々たちと岐阜の田舎の町並みと、その場で生きている自然と人間たちと、きっとあるであろう魂みたいなものを、感じてもらえる映像になっていると思います。 普通に生きているといろんなことがありますし、誰かと共に生きている苦しさや尊さ、命の繋がりとか魂の存在みたいなものをひしひしと、しずしずと感じていただける作品だと思うので、ぜひご覧になって、皆さんそれぞれの感想を持っていただけたらと思います。
—— 『たしかにあった幻』は2月6日、テアトル新宿他全国公開です。 ぜひご覧ください。
—— 2023年公開の映画『茶飲友達』【3】は、高齢者専門の売春クラブで繰り広げられる人間模様を描いた群像ドラマで、 岡本さんは売春クラブを運営する佐々木マナを演じられました。 元々はENBUゼミナールのシネマプロジェクト【4】の作品として、ワークショップオーディションによって俳優がキャスティングされていますが、岡本さんはどのように出演が決まったのでしょうか?
岡本:私もワークショップオーディションを受けました。 こちらも出演していた舞台がきっかけなんです。自分の自主企画で2人芝居を下北沢の小劇場で公演したことがあって、それを外山監督【5】が観に来られた際にご挨拶させていただき、その時にENBUゼミナールの募集のお話を伺いました。外山さんの作品が大好きだったので、「ぜひ受けさせてください」ということから始まりました。
—— 高齢者と売春というイメージが結びつかない題材でしたが、脚本を読んだときにどのような印象を受けましたか。
岡本:素直に衝撃を受けました。でも考えてみたら、「いくつになっても人間で、いくつになっても男と女で、そりゃそうだよな」と思ったのと、「若者たちの孤独と、高齢者の孤独は、何か繋がるものがきっとある。私達のことを描いている気がする」と、スッと入ってきました。
—— 岡本さん演じるマナは、対応する相手によって顔つきが変わっていて、揺らぎが見えるキャラクターだなと感じました。役作りをする上で意識したポイントはどこでしたか?
岡本:私の中でのマナは、自分のために生きていない子というイメージがありました。 誰かと相対したときに、その人が望む姿で振る舞う子だと。でも母親や家族の前では、どう自分を表現していいかわからなくて攻撃的になってしまう。甘えたいとか寂しいとか悲しいとか、そういう感情をどう表現したらいいかわからないから、鬼のような顔になってしまう、みたいな。そういうイメージがありました。
外山監督は撮影に入る前に、それぞれの役にキャラクターを作らせて発表する機会を設けたんです。「どうやってみんなと出会ってきたか、どういう人生を歩んできたか」というものを皆さんそれぞれ細かく書いて。私も作ってはいましたが、私の中のマナは、「みんなに自分が歩んできた人生を喋らない、気を遣わせたくない子」だと思ったので、あえて言わないという選択を取らせていただきました。
外山さんが「マナは女神なんですよね」と、ふわっと仰ったことがあって、「女神は俗世の出来事をみんなに話さない」と思ったんです。
—— 2023年2月の公開当初はユーロスペース1館の上映で、そこから全国82館で上映され、大きな反響がありました。どのような手応えを感じましたか?
岡本:まさかまさかの連続で、時間をかけて広がっていくのは初めての経験だったので本当に嬉しかったです。 コロナ禍で撮影が半年ぐらい伸びたのですが、クラウドファンディングは始めている状況だったので、たくさんの方が期待してくださっているのが分かっていたんです。まずそこから今までの経験ではなかったことでした。「これだけの人数の方が応援してくれているのだから」と、撮影前からみんなで話し合って、どこで上映ができるかわからないにもかかわらずユーロスペースの方に許可をいただいて、チラシを配ったりしました。受け取ってくださる方が多くて、映画愛みたいなものを感じながら撮影にも入れました。だから上映が始まるときに、「待っていてくれる方がいる」という思いで始められたのはとてもありがたい経験でした。
待っている方がいるからこそ、東京だけではなく全国に広げていきたいという思いが強かったです。
いろんな土地で舞台挨拶もしましたが、それぞれの出身地にはその出演者が登壇したりもしましたし、いつも支えてくれる家族だったりファンの方たちだったり、誰かの家族はみんなの家族みたいな形でどんどん広がっていった感覚がありました。本当に感謝しています。
—— 岡本さん自身は、2024年の高崎映画祭の最優秀主演俳優賞を受賞されました。 受賞したときはどのような気持ちでしたか?
岡本:賞をいただくということは、演技を始めてから初めてのことだったので嬉しかったです。でもこれは私1人ではできなかったお芝居でしたし、『茶飲友達』の全関係者にいただいた賞だと思っています。私としては外山監督とともに受賞できたことが本当に嬉しくて、スピーチも頭が真っ白で、「やったー!」とか言ってしまって恥ずかしかったです。もっとかっこいいこと言いたかったんですけどね。
ありがとうございました。次回も引き続き、岡本玲さんにお話いただきます。どうぞお楽しみに
明日の勇気につながる1作岡本玲さんのおススメ!
『川の底からこんにちは』
(2010年/日本/監督・脚本:石井裕也/出演者:満島ひかり、遠藤雅、相原綺羅、志賀廣太郎、岩松了 ほか)
第19回ぴあフィルムフェスティバルスカラシップ作品で、石井裕也監督の商業映画デビュー作。上京して5年目のOL・木村佐和子は、仕事も恋人も妥協を重ねて生きてきた。だが、父の入院をきっかけに、気がつけば実家のしじみ工場を継ぐことに。しかし、事態は悪化する一方で・・・。
追い詰められた女性が逆境に立ち向かう人生コメディ。
岡本:日藝映画学科に通っていたときに擦るように見た大好きな作品です。満島ひかりさんが主演されていて、「どうやったらこういうお芝居できるんだろう?」と台本を書き起こしてみたりとか、当時の自分の「何くそ頑張るんだ!映画人になるんだ!」という想いを思い出させてくれるような作品です。作品自体も勇気や力をもらえるような作品なので、ぜひおすすめです。
プロフィール
岡本玲(おかもと れい)
俳優。日本大学芸術学部映画学科演技コースを卒業。ファッション雑誌ニコラの専属モデルとしてデビューし、2008年に映画『憐 Ren』で初主演を務める。以後映画・TVドラマ・舞台など多数出演。2024年には、主演作『茶飲友達』で第37回高崎映画祭最優秀主演俳優賞を受賞。主な作品に映画『君へのメロディー』、『高校デビュー』、『L♡DK』、『サクラダリセット』、『茶飲友達』、TVドラマ『わたし旦那をシェアしてた』、『その結婚、正気ですか?』など。2026年2月6日公開の『たしかにあった幻』では心臓病を患う少年・久志の母親を演じている。